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あの日の思い出に一閃された話。

——その日、私は斬り伏せられた。

 2020年11月29日。私は、都内某所で野試合にいそしんでいた。

 カラオケの一室を複数人で借りてシャカパチシャカパチしていた。

 握っていたのはお気に入りの【黒単朱雀】。

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 私がカードゲーム復帰にあたり最初に作成したソレで、こいつがやたらと強いのなんの。

 相手の自由を奪い、縛り上げてゆっくりと首を絞める、そんな陰湿で強力なデッキである。

 相手の動きを否定する類の戦術をガッツリ行うので、カジュアルな場で握るとちょっと気まずくなりがちなデッキでもあるのが玉に瑕であった。

 つまり、それほどのパワーを持つデッキであった。

 初心者に毛が生えた程度の出戻りおじさんが握ってもガンガン勝ててしまう程度には強いデッキであった。パワーである。

 そしてそんなパワーを握っていた私は、内心それなりに天狗になっていた。なにせ勝てるのである、パワーなのである。

 これはカードゲーマーなら共感してくれると思うのだが、コントロールデッキで対戦相手に勝つと、えも言われぬ全能感を得られるのである。パワーであった。私こそがパワーだ、ひれ伏せ。

 「対戦相手変えようか」

 なんとなく、全員の対戦が終わったタイミングが重なった頃合いで、誰かが言った。適当に対戦相手をシャッフルして座りなす。

 「よし、なに使おうかな」

 もはやパワーそのものと化した私の前に座った男——高山イチズ氏がそう言ってデッキを取り出した。

「デッキ変えた方がいい?朱雀だけど」

「まぁ大丈夫ですよ」

 ほう?強く出たものだな、このパワーに対して。——とか思っていた。なにせこちらは有象無象のカジュアルデッキにはめっぽう強い朱雀を握っているのだ。もうパワーだ。パワーがパワーを握っているのである。

 カット&シャッフル、じゃんけんポン!後攻がなにするものぞ。私こそがパワーである。

 彼は手札を眺めること数秒、手早くカードをマナに置くと手札からカードを一枚、卓へ差し出した。

海底鬼面城で盾を要塞化してエンド」

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 見たことないカードを出されたが何故かドローさせてくれるというのでありがたくカードを引くことにした。私は貰えるものは病気以外なら何でも貰うのである。

アクア・アナライザーを召喚、効果を解決」

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 3ターン目にくりだされたカードも、まったく見慣れないカードではあったものの、事がここに至ればわかるというものだ。

 つい最近別の身内と似たような動きをするデッキと対面していた。

 マナゾーンには赤と青の二色がセットされ、その上でトップの積み込み、これは所謂ビビッドローデッキであろうことは想像に難くなかった。そしてそれは所謂カジュアルデッキに分類されることも記憶していた。

 傲慢にも確信めいた勝利の予感を感じた私は、迎えた3ターン目にドゥシーザをプレイしアクア・アナライザーを退場させた。相手の海底鬼面城の効果でドローもして、ますます盤石だ。

 4ターン目にプレイする予定のヴォガイガに視線を落とし、ほくそ笑む。もうなんか負ける気がしなかった。

 ——そんな私の耳に、それは届いた。

「ビビッドロー」

 高らかな宣言であった。

 山の上から引いたカードを確認することもなく彼は私にそう告げると、そのまま山札の上からカードを翻して卓の上に置いた。そのカードは——

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 「「祝え!この物語の終幕を!」

 そのまま流れるような慣れた動作でマナをチャージして必要なマナを確保した彼は「祝え!この物語の終幕を!」を使用してカードを一枚引くと、続けてカードの名前を宣言した。

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 「手札からスペルサイクリカ!」

 したり顔の彼と、一連のコンボを目の当たりにして、なるほど確かに「祝え!この物語の終幕を!」から龍素記号Srスペルサイクリカを場に出すことによって、もう一度「祝え!この物語の終幕を!」を連唱するというギミックはとても美しいコンボだなと思った。

 しかしそれと同時にこの状況から投げられて即とどめを刺されうるカードなんてあるのか?という疑問が頭をもたげた。

 ——そんなカードはないと思った。

 前提として知っているカードの母数が少ない自覚はあるものの、とはいえ、超次元ゾーンにカードはなく7マナ以下の赤と青のカラーでソレを可能とするカードをパッとは思いつかなかった。

 もしもそんなカードがあるとすれば、それはきっと自分の知りもしないカードで、それでいて、きっと「現代デュエマ」によって生み出された最新の切り札なのだろうと思った。

 ——忘れていた。

「じゃあ満を持して」

 ——私はそのカードを知っていた。

 彼は手札から抜き取ると、卓上へと差し出した。

 ——私はかつてそのカードと共に戦っていた。

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ボルバルザーク・紫電・ドラゴンを召喚!」

 ——あの日の思い出が、今、目の前に。

「うぉ!おお!知ってる!こいつ知ってるよ俺!!ボルバルザーク・紫電・ドラゴンだ!」

 思わず声に出た。思わず名前を反復してしまった。

 しかと覚えているあの日の雄姿を前にして、しかしてカードを手に取りテキストの確認をしたいという欲求に逆らえず、まじまじとカードを眺めた。

 しかし、今、私の盾は5枚。紫電ドラゴンはダブルブレイカーの二回攻撃が可能なクリーチャー。

「でもこれじゃあまだ——」

 ——届かないのでは? そう口にしかけた疑問には、その数瞬前に彼によって答えが示された。

シデン・レジェンドを侍流ジェネレート!で効果で紫電ドラゴンにクロス!」

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 ——届いた。

 かつての切り札——一瞬、やはり老兵では——と、そう侮ったソレの刃が喉元に届いた瞬間だった。

 本来ならば敗北の予感に震えねばならぬその瞬間に、私は何故か、微かな、それでいて確かな喜びめいた感情を覚えていた。

「サイクリカでダブルブレイク」

 興奮と言い換えてもいいそれを感じている私を、龍素の結晶体である青い龍が襲う。シールドが砕かれる——などと、子供染みた妄想すら幻視しながら私は手札に加わった鏡と蝋燭の魔道具に唇を噛んだ。

「紫電ドラゴン、1回目の攻撃」

 シデンレジェンドの効果と合わせて、疾風怒濤の一の太刀が私を襲う。砕けて手札に加わった漆黒の朱雀は条件が揃えば絶大な威力を内包するが、今はまだ逆転の一手には成り得なかった。

 ——で、あれば。

「紫電ドラゴンの二回目の攻撃でとどめ」


 一撃必殺の二の太刀が——あの日の思い出が、私を一閃した。



「——ないです、ありがとうございました」


 両親に買ってもらったスーパーデッキに、一枚だけ枠が黒い二刀流のドラゴン。

 公園の滑り台と上を向いた水道と、友達の声。

 ジャリついたスリーブを輪ゴムで束ねて——私はちょっとだけそんなことを思い出しながら「今のお気に入りデッキ」をひとまとめにしてシャッフルした。




「——いや、次は負けないからもっかいやりましょう」

 笑って応じてくれた彼と、リベンジマッチを。



 カラオケの一室で、飲み放題、明日はまた仕事だとわめきながら——大人になったのも悪くないと、そんなことを思った日だった。






 その後、私はまた紫電ドラゴンに吹き飛ばされるなどした。

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  それではまた、別の備忘録とかで。

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