もう60年も前のトラクターだけど、完璧に動いて完璧にメンテナンスができて、毎年機能が追加されるような最新のマシンよりもずっと良いんだ
もう60年も前のトラクターだけど、完璧に動いて完璧にメンテナンスができて、毎年機能が追加されるような最新のマシンよりもずっと良いんだ。
トラクターの前後に16km/hと書かれた鉄板が貼り付けられたインターナショナル・ファーマルD-324。私は中腰に後部バケットに座り、快調なエンジン音に負けないよう大声で会話する。パートナーの友人の夫婦はベルギーとオランダの国境に接する広大な敷地を20年前に購入し森を再構築している。
この辺りの森は最初は何もなかったんだ。今は渡鳥や動物たちがやってくるよ。
苗木を買うのは簡単だけど、お店で買うとポーランドやドイツや他の国からの木になってしまうんだ。
オランダの元々ある木の森を作りたいから、土地にある木から自然に発芽した種から、苗木を作り移植しているという。
10名ほどのボランティアも参加して大鎌で草刈りをしている。オランダの伝統的な大鎌だという。
テレンス・マリックのA Hidden Lifeで主人公の夫婦フランツとフランチスカがオーストリアの山に囲まれた草地で振るシーンの鎌だ。
ハンドルが上と中間に付いていて、振り上げて腰で振り下ろす。少し刈ったらポケットから砥石を取り出して刃を研ぐ。一歩進んで振り下ろす。
トラクターで敷地を回りながら説明してくれる。この道は教会に行くための古い道だったんだ。農地になると農家は収穫量を上げるために畑を広げてしまうから、もうこんな道はほとんど残ってないんだ。
もう国境を超えて歩いて教会に行く人はいない。60年前のトラクターは完璧に動いても、私ちは毎年のように完璧に動作するスマートフォンやコンピュータを買い替える。更地に森が生えるには数十年かかるけれど、更地に戻すのは数日で終わる。
3人の子供達は別の土地でそれぞれの人生をはじめ、もう年だから作業が大変と話す彼らの土地を誰が引き継ぐのか。
誰かの手に渡ったら、誰も歩かない古い道を残すよりも畑の収穫量を増やすことを選ぶだろう、渡鳥たちの羽休みの森を作るよりも、新築の家のために分譲することを選ぶだろう。16Kmで走るトラクターではなくて80Kmで走るトラクターを使うだろう。
そんなことを話ししていたらバッテリー上がりでエンジンが掛からなくなってしまい、真新しいボルボが牽引のためにやってきた。