【漫才台本】引っ越し(無料)
〈いきなりなんやけど、最近引っ越しを考えててね、こないだ不動産屋行って色々部屋見せてもらってんけど、どれにしようか迷っててね〉
「あ、そうなんや。どんな部屋あったん?」
〈1件目に行ったのが、6畳の1ルームでちょっと狭いんやけど、最寄りの駅から徒歩3分で、スーパーとコンビニが近くにあって、南向きで、さらに家賃が、3万円〉
「えぇ?そんなに条件整ってて3万?」
〈そう〉
「絶対なんかあるやんそこ」
〈と思って、おれも聞いてんけど、何にもないねんて〉
「いやないわけない、騙されてるよそれ」
〈いやホンマになんもないねん、風呂もトイレもキッチンも」
「あ、ホンマになんもないんかい」
〈だから言ってるやんなんもないって〉
「それは、逆になんもなさすぎるやろ」
〈・・・脱衣所はある〉
「なんで?どういう状態!?」
〈だからなんも無いわけってわけではないか〉
「いやおれが言ってる"なんかある"ってそういうことじゃない」
〈え、どういうこと?〉
「なんかあるって例えば、前にそこ住んでた人が死んでるとかさ」
〈あ、死んでるよ〉
「なんかあるやんけ」
〈いやだから、何もないねんて〉
「なんもないけど、なんかあるやん」
〈脱衣所はな〉
「脱衣所の話じゃないねん。なんで風呂ないのに、拭く脱ぐとこだけあんねん」
〈え、何を言うてんの?〉
「いやもうええわ、わからんねやったら。とにかくそこはやめとき?風呂とかトイレもなかったら生活しにくいやろ?」
〈確かにな〉
「他も見せてもらったんやろ?他はどんな感じやったん?」
〈あ、2件目はね、広めの1Kで風呂もトイレもちゃんとあって、しかもセパレート。で、家賃が12万〉
「ああ・・・ちょっと高くない?」
〈でも、駅チカやし10階建ての最上階で南向き〉
「確かに条件はええけど」
〈あと角部屋〉
「でもやっぱ高いんちゃう?」
〈あと、人死んでる〉
「高すぎるわ」
〈え?〉
「人死んでて、12万は高すぎるやろ」
〈でも、入居するころには片付けるって言ってた〉
「ほんでそのままかい。昔そういうことがあった部屋っていう事でもないんかい」
〈部屋っていうか現場〉
「何でそこが候補に入ってんねん」
〈やっぱやめといた方がええか〉
「当たり前や、なんやその不動産屋は」
〈まだあるから〉
「大丈夫かな?」
〈3件目は、これも1Kで駅からも近いし、日当たりも良くて角部屋でコンビニも近くにあって、しかも何よりここは、敷金礼金なしでいけんねん〉
「ここは誰も死んでない?」
〈死んでない。住んでる〉
「じゃあアカンわ」
〈これはアカンな〉
「わかってんねやったら言うなや」
〈これはアカン〉
「ちゃんとしたとこ無かったん?何なんその不動産屋?気持ち悪い」
〈もう1コあるから〉
「いやもうおかしいって」
〈ここはホンマに大丈夫。ここは駅からはちょっと離れんねんけど、自転車使えば10分圏内で駅もスーパーもコンビニも色々あって、で、ここも敷金礼金なし〉
「うーん、間取りは?」
〈1Kで12畳〉
「家賃は?」
〈5万8千円〉
「人死んでない?」
〈死んでない〉
「住んでない?」
〈住んでない〉
「・・・まあ、そこやったらええんちゃう?」
〈ただここさ、ユニットバスやねん〉
「いや、ええやんそこはこの際」
〈いやおれそこはこだわりたいねん〉
「なんでやねん、お前風呂もトイレも何もないとこ何もないとこ候補にいれてたやんけ!」
〈いやだから、脱衣所はあんねんて〉
「いやその話はもうええわ」