50年前のチューナーを修理してワイドFM対応化した話
はじめに
たまたまYoutubeで見かけたこちらの動画を見てやってみました。
2015年ごろから始まったワイドFMは90.1~94.9MHzの間の周波数を使用しているため、古いラジオやチューナーなどでは90.0MHzが上限となっており、受信できない機種も多くあります。
この動画は1970年代?生まれと思われるチューナーの受信範囲上限を変更し、現代のワイドFM対応機に近代化改修してしまおうというものです。
古いものを再生するのは好きなので、私も真似てみたわけですが、ここで一つ問題が。。。
改造できるラジオが無い件w
所有する機種で90MHz上限のものはいくつかあるのですが、
SANSUI TU-α707EXTRA
Panasonic RF-U99
SONY CFD-A100TV
等、いずれもシンセサイザー機なのです。
動画の中で改造された機種がそうであるように、アナログ機でないとこの改造は難しいです。
シンセサイザー機はプログラムで受信範囲を決められているため、ここを変更するのは素人にはほぼ無理です。
というわけで、改造ベースになる機種をHARD OFFで調達することになったのでした。。。
機種選定
条件としては、
・90MHz上限
・アナログ機
となるのですが、これが意外とありません。
というのもアナログ機の場合、80年代以降大半のラジオ・ラジカセはTV3ch(=約108MHz)まで対応しており、そもそも改造する意味がありません。
そんな中90MHz上限の機種はピュアオーディオ用として多く存在することがわかりました。
とはいえ80年代半ばからはシンセ機がどんどん幅を利かせ、アナログ機は衰退していったようです。
ということで、自ずと40年選手の機種を調達することになります。
機種決定
そんな中最初に調達してきたのが、YAMAHA T-4という機種です。
1978年発売なので、今年で44才となりますね。
HARD OFFでチェックした段階では、受信出来ているように思えたので購入したのですが、この個体には重大な問題がありました。
ステレオにならないw
家に帰ってから確認してみると、だんだん調子が悪くなり、モノラルモードにしないと音が出なくなってしまいました。
サービスマニュアルも同機種用は見つからず、再調整をネットの情報だよりに実施しましたが、何も変わらず。。。残念ながら修理は断念し、ヤフオクにてお別れしました。
気を取り直して2号機の捜索開始。
他のチューナーには無い、昔祖父母の家で見かけたオーディオにそっくりな懐かしくて重厚な雰囲気。
そして、前回の反省から事前チェックもT型アンテナ持参で念入りに実施。
ということでタイトル写真に出ているTRIO KT-4005を調達しました。
TRIO(現JVCケンウッド)製1972年発売ということで、なんと50才です。。
(この個体は電源コード印刷より、1973年製)
用意したもの
KT-4005
今回の主役。
トランジスタ
2SC1815GR
2SC1815Y
2SA1015GR(結果的には不要)
コンデンサ
電解0.22μF 50V(結果的には不要)
セラミック3pF
トリマ20pF
↑を立てるターミナル(エーモンのスピーカーターミナルを流用)
半田付け関連
半田ごて・半田・半田取り線・半田取り器
テスター
デジタルのマルチメーターです。
この作業をするまで気づいていませんでしたが、hfe測定可能でした。(後述)
コアドライバー
FMトランスミッター
現在Amazonリンク切れで見つからないのですが、こんなのです。
音源はUSB、内蔵マイク、3.5mm入力と3つあります。
設定変更で76.0MHz~108.0MHzを0.1MHzステップでカバー可能です。
調整時はUSB経由でWaveGeneで再生したサイン波音源を使いました。
左右ch片側ずつ再生も可能です。
FMアンテナ
T型室内アンテナです。
アンプ&スピーカー
チューナー1号機と同時に買ったHARD OFFで最も安かったKENWOOD(こちらも、現JVCケンウッド)のコンポ(RMD-VC5DVD)です。
http://manual2.jvckenwood.com/files/B60-5254-00.pdf
リモコンが無いのでAUX以外使えませんが、本来はこれだけでチューナー・DVD・MDといける機種のようです。
スピーカー(LS-SH3)は本来のセット品ではないみたいです。
回路図
ネットで検索、海外のサイトからダウンロードしました。
サービスマニュアル
回路図と同じく、海外サイトから。
KT-4005のものは入手できず、KT-8007のものを代用。
ほぼお勉強用ですね。
早速ワイドFM対応改修と行きたいところですが。。。
はい、この子もなんか様子がおかしいです。
故障1 5分後にステレオランプ常時点灯
電源を入れた直後は何ともありませんが、5分後に最初の故障が顔を出しました。
上記写真ではAMを受信中です。が、何故か煌々と輝く”FM STEREO”。
いや、ワイドFMって確かにAMと同じ放送がステレオで聞けるようにはなるけど、そういうことやないやろwww と突っ込まずにはいられませんでした。
HARD OFFでのチェック時はFMで行っていたので、まさかAMでFM STEREOが光るなんていう故障状態は想定していませんでした。
ちなみにFMを受信してFM STEREOが点灯していても音声はステレオにはなっていなかったです。。。
やはり40年、50年たったチューナーは無傷とはいかないようです。
ただし幸いこの機種はIC化が始まる前の機種なのか、ほとんど汎用部品だけで組まれているように見えます。
つまり、今でも部品入手できる可能性が高い!←これ、重要。
というわけで、修理を試みます。
ここからネットで入手した配線図が大いに役立ちます。
まず、ステレオランプの上流を探ります。
下の方の赤丸がステレオランプですが、この下側は電源回路へ向かっていて、実際のON-OFF制御はQg13と書かれたトランジスタがGNDを開閉することで行っています。
とりあえず、このQg13とさらに上流にあるQg12を疑い、ランプ点灯時と消灯時での各ピン(E/C/B)の電圧変化をテスターで見ていきました。
(引用:「トランジスタ入門:トランジスタとはどんな部品?」 http://www.maroon.dti.ne.jp/koten-kairo/works/transistor/Section1/intro1.html)
Qg12、13ともにNPN型になります。
細かい電圧測定結果はメモが残っていないのですが、結論はQg12(赤丸)が故障していて、電源投入5分後あたりからAM/FMモノ/FMステレオのどのモードでも、エミッタに電流を出力し始めていたのが原因でした。
Qg12 2SC458Dを交換するのですが、手持ちにあった2SC1815GRが互換性ありとのことでこちらに交換したところ、ランプは正常に戻り、ステレオ感も復活しました。
(早速汎用部品が活躍)
故障2 2.5時間経つとステレオランプが音に合わせて明滅
次の故障は、2時間半連続運転するとステレオランプが音に合わせて明滅する現象です。Tメーターも少しずれたところでランプが最も明るくなります。
こちらは更に上流のQg11が原因で、電源投入時(以下:冷)としばらくたってから(以下:温)で電圧が変化を起こしていました。
こちらも先ほどと同じ2SC1815GRに交換しました。
交換後は現象も出なくなり、Qg11の各ピンの電圧も安定しました。
冷 E 3.47 C 12.26 B 4.04
温 E 4.02 C 11.99 B 4.59
交換1.8h後 E 3.10 C 12.35 B 3.66
(単位はV)
故障3 1.5時間経つと全モードで左の音が小さい→消える
次は1時間半あたりで左の音が小さくなっていき、最後には消えてしまう故障です。
この子の故障はすべて「時間が経つと」系ですね。。。
AM・FMどちらでも発生するので、ライン出力から追っていきましたが、この件はかなり難航しました。
テスターでいろいろ測ってみるとQd3のBピンをGNDに繋ぐと復帰することもあり、Qd3を2SA493-->2SA1015GRに交換しました。
が、残念ながら効果なし。ただ左右でバランスが取れないのも困るのでQd4も予防処置として交換しておくことに。
またコンデンサCd5、Cd6を交換するもこれも効果なし。
最終的にはQd5が原因でした。
2SC1345-->2SC1815Yへ交換です。
(Qd6(青丸)も左右ペアのため同時交換)
冷 E 0.67 C 5.82 B 1.33
温 E 0.71 C 5.47 B 1.34
交換1.5h後
冷 E 0.63 C 6.44 B 1.28
温 E 0.64 C 6.44 B 1.28
(単位はV)
取り外したQd5をhfe(増幅率)測定してみたところ、
1.5時間でhfeが485→682へ増えていました。
この回路では、増幅しすぎるとGNDへ向かう電流が増えて音が出なくなるようです。
故障4 チューニングダイヤルが重い
作業中に突然チューニングダイヤルがロック寸前まで重くなりました。
シャフト後側にシリコンスプレーで復活しその後再発していませんが、ちょっとヒヤヒヤしました。
こういう部分は汎用品ではなく交換が難しいので。
FM調整
ここまで来てようやくお待ちかねのワイドFM対応改造です。
スーパーヘテロダインの仕組みとして、可変コンデンサーで高い周波数の範囲と感度、コイルで低い周波数の範囲と感度を変えることができます。
詳しい説明は私にはできませんが、局部発信(以降、局発)で受信範囲を変え、アンテナ側で感度を変えます。
まずは局発のCT1を右に回すと受信上限が上昇します。が、約93.4MHzを越えると逆に下がってしまいます。
なんどやっても93.4MHzが上限のようです。
その後T3を回し、下限は76.1MHzになりました。
低域の感度は T1 T2
高域の感度 CT2 CT3でそれぞれ最高になるようにしました。
(写真のCT2/CT3は逆かもしれません)
AM調整
本題ではありませんが、AMも目盛りとのずれが気になったので調整しました。
600kHz近傍の放送を受信しつつ、目盛りと合うまでT11を回しました。
高域側ですがCT4が接着剤で固まっているため未調整としましたが、これで合っています。
低域の感度はT10x2
高域の感度はCT5で最高になるように調整しました。
(写真のCT4/CT5は逆かもしれません)
95MHz対応化
とりあえず93.4MHzまでは受信できるようになったのですが、完全にワイドFM対応をうたうならやはり95.0MHzまで行きたい。
CT1の状態も劣化している可能性がありCT1を交換するか、並列しているCg18の容量を変更する必要がありそうでしたので、とりあえず簡単そうなCg18を外してみました。
すると、完全に受信範囲がずれて何も入らなくなりました。
Cg18と手持ちの270pFを直列にしてみました→計算上約11.5pFになるはずです。
Cg18には12pFの印刷があるので、0.5pFダウンで上限は93.4-->93.1MHzとなりました。
ということは、逆にここの容量を増やせばいいと考えCg18の跡地は空き地のままにしておき、バリコンの上局発につながる部分(ドライバを当てると受信しなくなる部分)に新しくトリマコンデンサを立てることに。
いろいろ試行錯誤の結果20pFトリマと3pFを並列接続しました。
これで20pFのトリマを調整し、目標の76.0~95.2MHzに収まりました。
興味深かったのがコイルT3が深い位置にあると、Tメーターの動きが逆になってしまう現象が発生しました。
調整時はこの位置を避けることで問題解消です。
目盛りをどうするか問題
これでめでたく完成なのですが、問題は目盛りをどうするか。
かっこいい透過照明パネルなのですが、これを修正するのは大変困難なのでひとまず手書きシールで新しい周波数を書いておきました。
いい方法が見つかるまではこのまま行くしかないですね。
(多分、しばらくこのまま)
ちなみにメインのコンポの仲間入りを果たしたのですが、下にいるアンプはフルデジタルAVアンプのAVR-550SD。
2004年製で18才。年齢差なんと32才w
ビンテージチューナーの接続先がD級AVアンプというのもアレですがものすごい年の差コンビです。
終わりに
故障した製品を部品交換で修理した経験はあまりなかったので、かなり手探りとなってしまいました。
また、御年50才を現役復帰させることを第一目標にしていましたので、パーツもオリジナルではなく、本来の音は失われているかもしれません。
なので、やり方としてはかなり邪道ではありますが、自分の経験値含め得るものは大きかったです。
記録として忘れないように残したいのもあり、皆様の参考となるかわかりませんが記しておきます。