高校3年とNEO SKY, NEO MAP!
NEO SKY, NEO MAP!
『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の第1期エンディングである『NEO SKY, NEO MAP!』
高校3年も終わりに差し掛かる冬。寒さで手がかじかむ中学舎へと向かい、いつものように級友と今期のえっち過ぎない程にえっちなアニメの話に花を咲かせる。級友が思い思いに意見を述べてゆくなか、ある友人がにわかに口を開く。
「今の話とは関係ないけど、ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会ってアニメも面白いよ」
戦慄した。
とたん、先程まで冬の寒さを忘れさせる程に暖かな雰囲気を保っていた教室はシンと静まり返り、冬の雨のような冷たさが周囲から刺さる。『見せすぎない程にえっちなアニメの話をしていたのに純粋なアニメの話を持ち込む』これすなわち大罪であり、彼は輪から追放され、隣のクラスの特撮グループへと流れた。
『これで良かったんだ』と、辺りの級友は口々にそう唱えた。まるで自分たちの正しさを確認するかのように。当然私も右に倣った。右胸にちくりとした痛みだけが残った。
あれから日は流れ、もうすぐ12月も半ばになる。11月の纏うような薄寒さがウソかのように、刺すような冷気はシステム英単語を捲る指先を確実に痛みつける。ここまで寒いと変にマイナスなことばかりが頭をよぎっていけない。
下校時、気分転換に大宮のアニメイトにふらっと立ち寄ると、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の特別コーナーが視界に映り込む。POPで紹介されている作中の女の子たちはとても魅力的で、妹萌えを信じて疑わなかった中学時代の純真な魂に再び火が灯される。なんだかよく分からないけれど、突き動かされる何かがあった。どうやらAmazonプライムで1話だけ無料公開しているらしい。
深夜1時、今日分の学習ノルマを終わらせ、火照り切った心地よさのままベッドへと倒れむ。瞼を閉じる。ちくちくと、一定のリズムを保つ秒針の音だけが聞こえる。何故かそのたび、何かをひた隠しにする胸の奥が傷んだ。少し嫌な気分になり、それを払い除けようと奮闘している内に微睡みはどこかへ消えてしまった。まるで向き合うまで安息はないと告げるように。
しばらくは眠れないと悟った私は、映画でも見ようと、充電器に繋がれたスマホを手に取りAmazonプライムを起動する。どこか気取った癖のあるアニメがおすすめ欄に並ぶ中、ある見慣れないタイトルが表示される。
刹那の逡巡の後、私はタイトルをタップし、無料公開されている1話を視聴し、そのトキメキを一身に浴びた。真っ暗な部屋、唯一の光源であるブルーライトの向こうには自分に素直になることで成長していく歳の近い少女たち。どんな気持ちだったのだろう、私は。
しかし圧巻だった。話も終わりに差し掛かる頃にはスマホを持つ手が震えた。
『トキメキ』に出会い、自分の憧れに正直な主人公。社会性を保つために本心を押し隠していたが、スクールアイドルを通して自分の『大好き』に、そして自分自身の感情に素直になっていく彼女たち。
1話、また1話と見進める指は止まらない。気づけば、ブルーライトしのみが仄かに照らす部屋はカーテンのスキマから光が投げられ、朝が来ていた。胸の奥も軽くなっている。朝が来たって感じだ。
私は彼女らと同様に殺していたのだ、自分自身の本心を。
中学生の頃、アニメを知って食い入るように視聴し、数少ない級友と『妹萌え』を語らい、今季の嫁を探す。そんな狭くも最高の青春は、歳だけを重ねて肥大化していく虚しい自意識に呑まれ、いつのまにか『アニメが大好き』という感情は『アニメが人より詳しい自分』というステータスへと墜ちてゆく。
私、いや我々は強すぎる自意識に呑まれるあまりに大好きだったハズのアニメを性的コンテンツの1つとしか捉えられなくなっていたみたいだ。
『NEO SKY, NEO MAP!』の一節にこのような歌詞がある。私はもう迷わない。自分の大好きに嘘はつかない。急いで身支度をし、家を飛び出した。
早朝、暖房も効いていないしんしんと冷える教室に私は彼を呼び出した。
「なに?」
彼はただそう問うた。
それだけなハズなのに、ここまで気負ってしまうのは私に心当たりがあるからに他ならない。
ただならぬ緊張感の中、私は道中考えに考えてきた謝罪の言葉や巡らせた思考の一切を放棄し、『魂』から成る言葉を絞り出した。
「虹で一番えっちキャラ、誰だと思う?」
「近江彼方ちゃん!!!」
彼は大宮中、いやお台場にも届く音量で言葉を紡ぎ、轟かせる。
以降、彼とは5年来の親友である。