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【ネット歯科大】国民皆歯科健診について
政府が取りまとめる「骨太の方針」に、国民皆歯科健診を目指す方針が明記されることになったようです。
これまでにも、歯科健診は限定的ながら法制化され、進められてきました。たとえば、母子や児童に対する健診や、歯に影響がある化学物質を取り扱うような業務に従事している人の歯科健診などがあります。
一般の人でも、歯周病検診がおこなわれてきました。ただし、40歳、50歳、60歳、70歳など、対象者は限られています。また、検診への受診率が低いことも課題とされていました。
なお、健診と検診という言葉が別々に用いられていますが、歯科のチェックを受けるという大きな意味では同様と理解いただいて特に支障はありません。
今回出てきた「国民皆歯科健診」は、インパクトのある言葉です。
すべての国民が年に1回、歯科健診を受けることになったら、これまであまり歯科とかかわりのなかった人も、必然的に歯科とかかわることになります。
なぜ、歯科健診が必要なのでしょうか。その背景には、近年わかってきた科学的知見があります。
歯周病をはじめとした口腔の疾患は、初期には症状がないことが多いです。症状が出てから歯科医院に来院された場合、かなりの確率で進行した状態になってしまっています。
したがって、症状が出る前から検査を受けることで、早期発見につなげたいところです。
また、歯周病は全身の健康にもかかわっていることが知られています。このことがわかってきたのはわりと新しく、歯周病による全身への影響を考える学問である「ペリオドンタルメディシン」は、1990年ごろから言われ始めた表現です。
歯周病の患者さんは、糖尿病や心臓病を発症しやすいことがわかっています。さらに、歯周病は認知症とも関係があるとわかってきました。
心臓病などの循環器疾患に対する治療には、現在多くの医療費が使われています。また、今後さらに進むことが予想されている超高齢社会において、認知症への対応はたいへん大きな課題です。
歯周病などの口腔疾患を適切に管理することで心臓病や認知症を遠ざけることができれば、効果は非常に大きなものとなります。
その第一歩として歯周病などの口腔の疾患を早期に発見する必要があります。このことから、国民に健診を行いましょうという考え方につながるわけです。
一般の国民の視点から、歯科健診は全身の健康のために重要であるということは間違いないことです。また、歯科界という点で見ると、大きなチャンスとも言えます。
今後も国民皆歯科健診に関連する取り組みに注視していきたいところです。
神奈川歯科大学 青山典生