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そんなんええから曲書け

 夏に“輝くもの天より堕ち”というepを発表し、ツアーも周って、メジャー契約も2年目になり、社内ではこいつこの2年でまだ実質3曲か4曲くらいしか書いてなくね?普通に給料泥棒だろという目で見られているが窓の外を指さしてうわピカチュウの飛行機や!と叫び全員が外を見ている間に走って逃げている。そんなに逃げ回って普段何をしているのかとよく聞かれるのであえて具体的に言うと、バンバン新曲を出して次々とバズりグングンとライブ会場の規模を広げていく同世代や後輩たちに「お前が不必要に頑張るせいで周りも何かしないといけない空気になってるの分かってる?」と説教してまわっています。お前らな、どんなに儲かっても100部屋ある家に住むわけじゃないし、何万人にモテたとしてもお前のチンポはそこにぶら下がってる粗末なその1本しか無いんだぞ。才能あるくせに努力するんじゃない。こっちが焦るから。お前らみたいな人種がいるせいでようやくお昼のラッシュがひと段落したところなのにヒマなら窓拭けとか言いだすフランチャイズオーナーが出現するんだわ。あなたの音楽で世界をカラフルに彩ろうとしないでください。はっきり言って、迷惑なんだよ!!!!!!!!!!!!年上の言うことを聞け!!!!!!!!!!!!!!!!!!!……とは、いうものの、最近は観念して曲を書き始めています。何しろ近頃はピカチュウだ!とわめいても誰も外を見ないばかりか全員が俺の目を見て「アルバムを作れ」と言ってくるようになってしまったのだ。サラリーマンという人種はなまじ学習能力があるので厄介である。バンドマン相手ならこれ一本であと5年はいけるはずなのだが。しかしアルバムを作れといってもストックゼロの現状から今すぐにというわけには流石にいかないので具体的には1ヶ月くらい実働的なスケジュールはほぼ何もない期間をやるからとりあえず何曲か書いてこいと言われた次第だ。まぁ言いたいこと自体は分らんでもないが要求の内容が凄まじすぎる。お題も助けも何もなく、1ヶ月やるから書け、ときたもんだ。そんなんで実って収穫できるなら全員農家になるわえ!!!!!!と言いたいところだが実際この業界には外気にさらしてたまに水やっとけば勝手に実がなって世界中で飛ぶように売れてくれるヤバいフルーツたちが文字通り売るほどいるので仕方がない。お前らのせいやからな。聞いてんのかキュウイ。おいパパイヤどこ行くねん。マンゴーお前スマホしまえ!なぁ、みんなで一回ちゃんと打ち合わせ(談合)しようや、と毎日思っている。泣きそうだ。だけど、決めたことだょ……(泣)

 いやはや、そういう近況だから、というわけでもないが、最近は歌というものについて毎日ぼんやり考えている。終わらない歌を歌おう、という歌詞がパンクの名曲にあるが、果たして終わらない歌なんて本当にあるのだろうか?あるとすれば、一体それはどんな歌のことなんだろう。大学の時に読んだハイデガーは(大学の時に読んだハイデガーだってwププ)、すべての人間は必ず死ぬので、すべての行為は、だからこそ行為されるのだ、みたいなことを言っていた気がする。永遠に生きられるなら一切のことは今やる必要がなくなるから、みたいな要旨だったような────違うだろうけどまぁいい。前回同様、調べない────この理論に照らすと、終わらない歌なんてものは存在しそうになくなってくる。ある人の寿命が80年だとしたらその人にとってはどんなに最長の歌であれ80年までの長さしか取れないし、反対にもしその人が永遠に生きられるのならどんな歌であれたった今歌い始める必要もなければ無理に歌い続ける必要もないからである。でもこれは所詮その人の認識のうちに限っての話であって、もう少し巨視的な視線で考えてみれば終わらない歌というやつの小さな背中が見えてくる。つまり、幾人もの手を渡りながら何度も何度も歌いなおされ、ともすれば世界中のどこかで今日も明日も、百年後にだって常に鳴り続けている、誰もが知ってる不朽のメロディー。もし終わらない歌があるとしたら、やっぱりそういうものだと思うんだよな。何もしたくね~とか、分かる人にだけ分かってもらえれば~とかじゃなくて、もはや出来る出来ないすら別にして、ちゃんと頑張るしかないよなぁ。いや、別に、俺が死んだあと、なんなら老いさらばえる前にジャカジャーンてカッコよく終わってもいいんだけど、どうせ歌うなら、不格好でもいいから最後まで本気で叫びたいよね。カラオケでマイク握ってからモジモジしてる姿ほどみっともないものはない。すべてのクズ共や、このクソッタレな世界のために終わらない歌を歌うんだ、と叫んでいたブルーハーツのことを考えている。

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