ダボ;2,511
やはり東京には若いバンドが多いので、たとえばその辺をふらふらしてると今年ハタチです!みたいな子に出くわす機会も多いのだが、俺がハタチの頃に比べて本当にみんなちゃんとしてるなぁと思う反面、なんか彼ら/彼女らが同世代同士で話してるところを遠巻きに見てると俺が年上だからちったぁピリッとして喋ってただけなんだな、と妙な俯瞰を強いられる瞬間もあったりしておもしろい。
俺がバンドで歌い始めたのは21歳のときで、誰でもそうだろうが何を隠そうこの俺も御多分に漏れず当初はずぶの素人だったので演奏もへったくれもなく、何とか人前に出れるくらいの状態になったのが前身バンドを解散して今のバンドを始めた24,5歳の頃だったように思う。いや、別にありふれた自分語りがしたいわけじゃないのだが、つまりそれくらい大人になってから始めた俺ですらこの体たらくなのに、たとえば中高校生の頃から軽音部だなんだで技術を磨きハタチそこそこで演奏技術的には人前に出れる状態が出来上がってしまっている若者たちの先行きを思うと勝手に心配になってくる。大丈夫??異性関係のくだらんトラブルのせいで突発的にバイト辞めちゃってスタジオ代払えなくなっちゃったり、夜中にSNSでしょうもない尖り方して不要な敵作ったりしてない??あとこれも冒頭の話に似た生存バイアスかもしれんが年上にガンガン来る感じの子たちって俺たち売れたいんすわ!的な雰囲気を纏ってる子が多いし実際そう口に出して相談したりしてくる奴もいて、その場では(俺みたいなもんが伝えられることなんて知れてるとはいえ)できる範疇で助言めいたことを言ってやったりもするのだが、内心、君たちまだそんな歳なんだから無理に売れる必要なんてないよと素直に思う。医師免許というやつはどんな最短ルートを駆け上っても24歳までは取得することができず、実際に医者になるには更にそこから2年ほど実務的な研修を受ける必要があるそうだし、衆議院議員とか県議会議員とかに立候補できるのも25歳あたりからだったはずだが、大勢の観衆の前に立ってアレコレやる商売というのもまぁこの辺りの年齢からが最低ラインとして妥当ではないかとおもう。無論俺なんて別に今も大して売れちゃいないし当時なにか成功する目があったわけでもないが、20歳の頃の自分の考え方とか素行を思い出すとあの頃にまかり間違って期待の新人!みたいな感じで衆目に晒されたりしてたら世間に一体どんな醜態を晒していたことかと背筋に悪寒が走る。ていうかそもそも、そんな若いうちに売れたってつまらんよ。それがわからないのが若さなんだとしてもだ。なんにもせず家で寝転がってても誰も何も言ってこない時期にせかせか走り回るなんてもったいない。もっと出来るだけダラダラして、たまに難解かつマイナーな洋書を斜め読みして俺は世界一頭がいいんじゃないだろうかと錯覚したり、海外サイトに無断でアップロードされてるアニメを見すぎて何となくスペイン語読めるようになったり、恋をしたり、その恋に敗れたり、夜中に自分のちんちんを自分で舐めようとして翌日筋肉痛になったりしといたほうがいい。ダラダラする金がねーよというやつがいるかもしれんが俺だって月3万の家賃すら何ヶ月も払わず、管理会社に裁判起こされたりしながらそれでもダラダラしていたものだ。あまりにダラダラしすぎて死んでるんじゃないかと疑われて警察同伴で管理人に無理やり玄関空けられましたからね。いや、俺は別にこんな情けない武勇伝を語りたいわけでもお前ら全員裁判沙汰になれと言いたいわけでもない。人生とはそれくらい長い時間と膨大な回り道によって集積した砂粒のようにくだらなくて取るに足らない経験の総体のことを指すはずで、なんか3Dプリンタみたいなものでこれが俺だ!ドカン!みたいな感じで出力したりするものでは決してないはずですよ、ということが言いたいわけ。前身バンドで今はなき十三ファンダンゴ(何となく地元では敷居が高かった)に初めて出演したとき、店長の加藤さんに僕らの演奏どうでしたかと恐る恐る尋ねたら「俺は演奏のことはわからん!」と自信満々に言われ、打ち上げでは圧倒的最年長にも関わらず率先して全裸にて堂々たるモノをご開帳なされ(なんで?)、以降もずっとお前はCD作る前にまず詩集を出せとか訳のわからんアドバイスばっかり貰い続け、遠回りに遠回りを重ね続けた結果、今では立派に社会の異分子になることができました。あのとき変に音楽的なアドバイスをされたり効率的な売れ方を教えられたりしてたら俺はとっくにバンドをやめていたかもしれない。パンクをはき違えてドラムセットひっくり返して投げつけたりしてた俺たちを色んな大人たちが─────もちろん何度もブチギレられたし弁償もしたが─────それでも温かく見守ってくれたのもやはりひとえに俺たちが若かったからに他ならないだろう。若さっていうのは、過ちを許される権利があることであって、売れるとか人のために歌うなんて所帯じみた考えを持つことではないように思う。金なんてまぁ国民の義務、たとえばさしあたって「おまえ別にバンドやろうが何しようが勝手にすりゃいいけどもう大人なんだからいい加減ちゃんと住民税払えよ」みたいな空気感に駆られて後から嫌々応えていけばいいだけのことで、生活や素行のレベルを下げるところまで下げればいくらでもダラダラしてられる若いうちから目指したり他人に強制されたりすることではないと思う。もちろん年下や同世代がどんどん先に行くのを黙って見てるのがつらいのはわかるが、負け惜しみでもいいから「あいつら、魂売りやがったぜ……w」くらいに考えて、とにかくのんびり、いや、のんびりやるのはしょうもないけど別に売れるとかバズるとか狙わずもっと好き勝手にやればいいと思う。売れなくても音楽は楽しいですよ、みたいな言葉が自然と出てくるのは、俺もおっさんに片足突っ込んできた証拠なんでしょうか。アホすぎて何十発も殴られたし、金もなけりゃ別にモテもしなかったけど、妙にあの日々が忘れられない。若さというのは、それくらいすばらしい。