【夜宵★日記85】Yさんとの邂逅、そしてさよならの人
2023/6/9
◆ めぐり逢い
事業所の訪問客の顔に、ふっと既視感を覚えた。
お名前を拝見し、
(ああ、あのときの・・・)
と合点がいった。
新卒として入職したところでお世話になったYさんであった。
部署は違っていたのだが。
穏やかで知的な佇まい、彼はまるで変わっていなかった。
小娘からするとオジサンだったけれど、私はそういう彼のわりとファンだったのだ。
まさかこんなところで会おうとは夢にも思わなかった。
というより、このときまで思い出しもしなかった。
急激に、地に足がつかないような気分になる。
Yさんは、
「お久し振りです。」
とあいさつした私の名前を聞いても、顔をじーっと見つめてみても、一向に私を思い出す風はなかった。
無理もない、一年で辞めてしまった職場だ。
私の方はというと、いったん思い出すと、当時の職場の様子も徐々に湧き出てきた。
一年しか在籍していなかったにしても、新卒だけに記憶にとどめるところが大きかったのであろう。
彼の隣の席だった職員の話題を出すと、それは覚えていたようで笑っていた。
「今は何をされているのですか?」
と問うと、仕事はもう辞めて
「勉強が楽しくてしょうがない。」
と笑顔でYさんは言う。
彼ももう72歳。
何もしないでうちにいる、という答えを想定し、聞かない方がよかったかな?と思っていた私は意表を突かれた。
「勉強している。」だけじゃなくて、「楽しくてしょうがない。」んだ。
すごい。
老いてなおの向上心、探求心、没入のさま。
それでそれを臆面もなく人に伝えるっていう純粋さも。
どうりで見た目変わらないわけだ、彼は活きてる。
やっぱりYさんは素敵な人だった。
何を勉強しているかは最後まで聞かずじまいだったけども。
あとで考えたら、26年前、当時の彼は今の私より年下だったのだ。
なのに相当な大人で既に人として完成していた。
私はまだこんなにも未熟なのに。
若い頃の大人な人には、いつになっても追いつけない。
ツレにこの話をしたところ、
「向こうは夜宵★のこと思い出せないまま共通の話をした、というのはおもしろいね。」
と言っていた。
確かにそれもそうだ。
◆ さよなら
こんなめぐり逢いがあった一方で、今日はさよならもあった。
4月に入職した同僚が、義母の世話をするということで退職したのだ。
月末までいてくれると思っていたのに、今日で辞めると今日聞いた。
急すぎてショックで、名残惜しいこと限りない。
謙虚だけど上の人の文句もこっそり言う、かわいい人だった。
もっと一緒に働きたかった。
今日はなんだか、人生を感じる一日であった。
人の縁っていうのは不思議なものだと思う、つくづく。
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