海士町でNESTINGでオフィスを建ててみたら、可能性しかなかった。
島根半島の北約60kmに位置する隠岐諸島の島、海士町。課題先進地とも言えるの島で、初めてNESTINGでオフィスをつくったAMAホールディングス株式会社の大野さんに、一連のプロセスと成果、今後の展望についてお伺いしました。
みなさんは「自分たちの手で建築物を建てる」「自分たちのオフィスを自ら建てる」というチャレンジを想像したことはありますか?
VUILDが提供している「NESTING(ネスティング)」は、お施主様が自ら、欲しい拠点を建てるためのサービスで、コミュニティ形成や地域活性を促す可能性を秘めています。
2024年12月、島根県にある海士町(あまちょう)という地域で事業を手がけるAMAホールディングス株式会社が、実際にNESTINGを活用してオフィスを建築しました。
建築の担い手が不足する地方という課題を乗り越え、社員や、島の方々が集まり、自分たちのオフィスをつくり上げた体験談を伺いました。
聞き手はVUILD株式会社の山川(以下、山)、語り手はAMAホールディングス株式会社代表取締役・大野佳祐さん(以下、大)です。地方の建築事情や、NESTINGの今後の可能性を探るインタビューをお届けします。
海士町でNESTINGでオフィスを建てることになった、その背景。
山 はじめに、自己紹介をお願いします。
大 AMAホールディングス株式会社・代表取締役の大野佳祐です。ふるさと納税を原資に海士町で起業したい方の事業伴走をすることなどを事業にしています。
山 ありがとうございます。今回、どんな経緯でNESTINGでオフィスをつくることになったのか教えてください。
大 これまで、「Entô」というホテルの大きい宴会場をシェアオフィスとして利用していたのですが、そろそろ宴会利用も視野に入れて動こうとしていたこともあり、引っ越し先を考えねばと思っていました。その矢先に、山川さんのFacebook経由でNESTINGを知りました。
山 オフィスを引っ越すにあたって、どのような課題があったのでしょうか?
大 海士町では住宅が不足していて、約70人ほどが移住希望者として待機している現状があります。早く建てればいいじゃないかと思うかもしれませんが、大工が不足していて、手が回らないんです。
どれほどかというと、例えば、僕の家の隣にある空き地に、本来は昨年度末に建っているはずの家がまだ工事も始まっていないという(笑)。そんな状況なので、僕らが町の工務店にお願いしてオフィスを建てようとすると、下手すると3年先とかになってしまうんです。
古民家をリノベすることも考えましたが、結局それも工務店に依頼することになるので、それも難しいかなと。もちろん工務店も一生懸命やってくれているのですが、優先すべき公共工事があったりもして、「民間のオフィス」の優先順位が上がることはなさそうだなと。
山 本土の工務店に来てもらうことはできないのですか?
大 本土から来てもらうと滞在費がかかるので、全体の金額が上がってしまうんですよね。今回、NESTINGでは2500万円ほどで建てることができましたが、本州から大工さんに来ていただいて同じ広さでこれまで通りに建てようとすると、倍の5000万円以上になってしまうと思います。
NESTING、実際やってみてどうだった?
山 NESTINGでオフィスを建てるにあたって、どんなプロセスで進めたのか教えてください。
大 NESTINGでオフィスをつくるのは、僕がほとんど独断で決めました(笑)。とはいえオフィスを自分たちで建てるというのは、どれくらい大変なのか、co-buildといっても実際にはどれくらいの技術が必要なのか、期間や金額は?、本当にできるのか?など、色々わからないことだらけでした。
納期もコストも当初の倍かかった、みたいな話が建設業界ではあるあるだと思っていたので、当初予算の2500万円は絶対に越えないでほしいと強くお願いしました。
山 会社のメンバーに自分たちでオフィスをつくると伝えた時はどんな反応でしたか?
大 最初に伝えた時は、自分たちで建てるといってもVUILDメンバーのサポートもあるし、大丈夫だろうという雰囲気でした。ですが、工事が始まる前に共有していただいた工数表を見たら、全員絶句で・・・。本当に全部自分たちでつくるんだという。会社としても新規事業の立ち上げと工事も同時進行でやらないといけないということになるので、「正気か?」という感じでした(笑)。
山 実際に工事が始まって、その雰囲気はどのように変わっていったのでしょうか?
大 文句を言っても何も始まらないから、まずは手を動かしてやってみようとなりました。そうなってからは、西村さん(VUILDメンバー)たちの巻き込み方が上手だったので、現場に行くのを楽しんでくれていたと思います。最初の7日くらいで建物の外径が立ち上がったタイミングは、みんなテンション爆上がりでしたよ。仕事を放ったらかしてでも現場に行きたい!みたいな感じで(笑)。
山 そんな感じだったんですね!
大 工事がはじまってからは雰囲気が一瞬で変わりました。この物語に自分もちゃんと入っていたいという気持ちになってくれたんですよね。なんなら会社以外の人たちも、このことを聞きつけて手伝いに来てくれたりするということもありました。みんなでやっているうちに、これはもしかしたらできるかもしれないという感覚がみんなの中で生まれたと思います。
山 メンバーの施工スキルはどうだったんですか?
大 最初は誰もインパクトを打てなかったり、1500とか2000とかセンチじゃなくてミリで数える寸法がわからなかったり、そんな感じでした。作業を重ねて行くうちにわかりやすく技術が上がっていってることを実感できたのは、嬉しかったと思います。僕自身も、インパクトを利き手じゃない方の手でも打てるようになりました(笑)。
山 みなさんの竣工後の反応もお聞きしたいです。
大 年末に忘年会をやることになって、当然お店でやるものだと思っていたのですが、メンバーから「新しいオフィスでやりたい!」と言いだしたんです。グループに分かれて鍋を持ち寄りましょうと。そして忘年会が始まると、全員号泣するという(笑)。
山 そうだったんですか(笑)!?
大 はい(笑)。みんな「オフィスを建てながら新規事業つくったりと、とにかく大変だった。でも出来上がってみると本当に誇らしい気持ちです」と。みんなぼろぼろに号泣していて、泣いてなかった人はいなかったと思います。あんな忘年会は二度とないですよ。
山 すごい達成感ですね。そんな風に思ってくれて嬉しいです。
大 はい。普段から雑談は多い会社だと思いますが、一緒に長い時間作業する中で知らない一面が見えたりして、メンバー同士の信頼感や絆も深まったと思います。
今後の構想や展望。建築の民主化。
山 今後の構想や展望などもお聞きしたいです。
大 海士町には不動産屋がなく、移住者の住宅は町が建てて管理・運営しています。すでに町営住宅は350棟を超えていて、建設コストも年々上がっています。これを続けて行くと財政が圧迫されますし、なにより現在350戸ほどある町営住宅が、この先10〜20年経った時にものすごく大きな負債になって、未来の人たちを圧迫しかねないと思うんです。
この問題に対して今回NESTINGのco-buildを経て、NESTINGで共有棟をつくり、その周囲に複数のタイニーハウスが集まる新しい集合住宅を作れないかという考えに至りました。
例えば、今、海士町にはシェアハウスが多くありますが、都会から移住してきて知らない土地に住む時に、シェアハウスって心の拠り所になると思うんです。一方で、1人になれないことが苦しい時もありますよね。これらのメリットとデメリットを考えた時に、水回りが集まった共有棟を中心に、そのまわりにタイニーハウスのユニットを作ることでシェアハウスの良いとこどりができるんじゃないかと。
共有棟とタイニーハウスを5棟作っても4500万〜5000万円ほどなので、一人当たりで考えると今の町営住宅のおよそ¼でできる計算になりますし、水回りを分けたタイニーハウスだったら、20年経って建て直したとしても修繕もそんなにかからないと思うんです。
もうひとつ、タイニーハウスの外壁や内装を多様なアート作品みたいにできないか、というアイデアもあります。今回co-buildを通して、大工さん作り手って本当に創造的な仕事なんだなと実感したのですが、一方でその創造性を発揮する機会が実は少ないんじゃないかなと思ったんです。
なので、タイニーハウスの外壁や内装を色んな人が自由に発想して作れるようにすることによって、大工さんたちの「実はやってみたかったこと」に挑戦できる機会を作れるんじゃないかと考えています。もちろん予算の制約は設けますが、職人さんをはじめ、VUILDさんのような方々はもちろん、建築学生さんなどが創造性を発揮してアート作品をつくる機会を提供することもセットでやってみたいと思っています。住む方もアート作品に住めるって素敵ですよね。
山 めちゃくちゃ具体的な構想が湧いてきてますね(笑)。
大 これが進むと、住宅がわずか2ヶ月で5棟建つことになるので、これをイノベーションと呼ばずしてなんと呼ぶんだという感じです(笑)。
山 すごいですね。来年ShopBotも導入予定なんだとか?
大 はい。ShopBotがあれば自分たちで材の加工をできるようになりますし、町民からのリクエストにも応えられるようになるかもしれません。隠岐圏内の木材を使うことで地域内経済循環にも寄与できます。
またShopBot導入の申請と同時進行で、建築廃材を再利用するためのリビルディングセンターの構想を進めていて、すでに2つの倉庫に少しずつですが木材が集まり始めています。
山 大野さんと出会った時は軽いノリだと思っていましたが、これほどまでになるとは・・・。すごいです。
大 僕1人で構想できたことではありませんが、やっぱりやらないと何も始まらないということを強く実感しました。始めれば始まるというか。ShopBotが入ったら絶対にまた何かが始まるはずです。ShopBotで作った家具を販売したりすることができるとそれはそれで新規事業になりますし、事業を作っていくことって、そういうことから始まるんだなと思っています。
NESTINGは人と人のつながりが色濃く残る地方と相性が良いと思いますし、本当にすごい発明だと思っていて、もっと他の地方の人たちにも気がついてほしいです(笑)。今回NESTINGで建ててみて、秋吉さんは本当に建築を民主化するつもりなんだろうなと感じましたし、自分たちが「民主化」というものを考えるだけで、前に進むことってたくさんあるんだろうなと思っています。
山 ありがとうございます!これから海士町でたくさんのチャレンジが生まれること、楽しみにしています!
おわりに
オフィスづくりをきっかけに、島の住まいに対する仕組みや地域経済の新たな循環への手応えを感じさせてくれたAMAホールディングスの事例。NESTINGで建てる、という一歩が周囲を巻き込み、まったく新しい風をもたらしました。
家やオフィスを建てるということは、専門家に任せるしかないもののように思われがちです。
しかし、海士町でのNESTINGの事例は、「自分たちで建てられる」という意識が生まれると、それが人材育成やコミュニティの活性化など多方面に新たな価値をもたらすことを教えて下さいました。
今後も海士町ではタイニーハウスの町営住宅化やリビルディングセンター、ShopBotを活用した新事業など、建築や暮らしのあり方を刷新する試みが続いていくとのこと。少子高齢化や地方の過疎化が進む今だからこそ、NESTINGがもたらす“建築の民主化“は、日本全国の地域に広く拡がる可能性を秘めているのではないでしょうか。
海士町の次なる一手、そしてNESTINGが示す建築の未来に、今後もぜひ注目ください!
●開催決定!|「海士町でみるNESTING最新事例 & VUILDが描く建築の未来」
本イベントでは、VUILD株式会社CEOの秋吉浩気と、施主であるAMAホールディングス株式会社代表取締役の大野佳祐氏により、「NESTING」での建築が海士町にもたらした可能性や、VUILDが思い描く“未来の建築”について語ります。
「自分たちの手で建築スケールのものをつくる」という一見突拍子もなく聞こえるチャレンジを実現した背景には、一体どのような想いがあったのか。ぜひその最前線を知る機会にお越しください。