サティさんはかわりもの
エリック・サティの生涯を考えると、涙が出ます。「家具のように何気なく存在するもの=BGM」としての音楽を推進したサティさん。聴衆が静かになると「聴くな!」と怒ったって。
活動内容は「他の作者の作品をこきおろす」という宗教を作ったんだけど、信者はサティさんひとりだったそうです。
こうして外側から見えるサティさんを語ると、気難しく、近寄るのが嫌な面倒くさい人格が見えてきます。
けれど、そのサティさんの心の中に、こんなに美しい音楽が流れていたのだと思うと、サティさんに「音楽」という表現方法があって、本当に良かったと思うのです。
友だちもいない、誰にも理解されない孤独な人生の中に、どう考えても人と手と手を取り合って踊り出したくなるような、こんな音楽が流れていたこと。「宗教」という形で仲間を募っていたこと。玄関前に看板を上げていたこと。
もしわたしがこの時代にいたら、ときどきこの宗教にお邪魔して、サティさんとお茶を飲みながら「だよね、あの曲の、あの展開はないよね」とディスりたい。「うちらだけの秘密な」って。
サティさんは、他の作曲家をディスったあと、どんな表情でこの曲を奏でたのだろう。
胸がぎゅうっとなりながら、 おさんぽリトミックで演奏された Je te veuxを聴いていました。Je te veuxとは英語で「I want you」の意味。わたしが訳すとしたら、「もし友だちがいたら」というタイトルにします。
生前のサティさんが、ディスり仲間を見つけて、ワハハと手を繋ぎながら、パリの街を踊る姿を思い浮かべて。