2017年ライオンズvs中国を今更振り返る
何がとは言いませんが今年は色々ありますね!今年は歴史的な低迷だけでも心身に堪えたのに…。こういう時は楽しいことを考えようと思い、「世紀の一戦」の思い出話をさせてください。
2025年3月、東京ドームでドジャースvsカブスのMLB開幕戦が行われる。大谷翔平・山本由伸・今永昇太・鈴木誠也の4選手が凱旋するとあって、チケットは早くもプラチナ化している。
またMLB開幕戦の直前にはジャイアンツ・タイガースとの親善試合も予定されている。日本人4選手が在籍していた球団ではないものの、いずれも日本でも屈指の動員力を誇る球団だ。超満員は必至だろう(大谷翔平がいればどの球団相手でも超満員だろうけど)。
またNPB球団と海外チームとの対戦と言えば、2023WBCでは京セラドームでバファローズ・タイガースがそれぞれ日本・韓国と対戦した。集客が見込まれる関西の2チームが対戦相手として選ばれ大いに盛り上がった。
このように日本でMLB開幕戦や国際大会が開催される度にNPB球団との親善試合・強化試合が行われてきた。大体はジャイアンツ・タイガースだけれど、過去には信じられないカードが行われたこともある。その「世紀の一戦」の思い出を振り返りたい。
2017年の第4回WBC。日本代表は小久保裕紀が監督を務め、代表常設後で初めてのWBCを迎えようとしていた。3月7日からの東京ドームでの1次ラウンドを前に、3月3~6日に京セラドームで開催された強化試合の組み合わせがこちらだ。
参加する代表チームは東京ドームで1次ラウンドを戦う日本、キューバ、オーストラリア、中国の4チーム。それを迎え撃つNPB球団として地元・関西のバファローズ・タイガースに加え、なぜかライオンズが選ばれたのだ。
それでも3月5日のライオンズvsキューバは日曜の12時開始だからまだいい。チケットは1日通し券なので、ナイターのバファローズvs日本を見たい人が早めに来ることだってあるだろう。もちろん関東のライオンズファンが遠征することだってできる。またキューバにはA.デスパイネなどNPB球団に在籍しており知名度がある選手もいる。
しかし最大の問題は翌6日だ。月曜の12時に大阪でライオンズvs中国だ。もちろん関西にもライオンズファンはいるだろうけど、大半の人は会社や学校がある。しかも大変申し訳ないが、対戦相手の中国は野球では発展途上国だ。知名度がある選手は皆無だ。
このカードが発表された瞬間に「行くしかない」と思った。こんなどうかしてる「世紀の一戦」は二度とない。有休を取得して関西へ旅立った。
5日(日)のライオンズvsキューバはそこそこ人が入っていた。試合の途中からはナイターのバファローズvs日本が目当てのファンも入ってきて、スタンドは賑わっていた。そしてナイターのバファローズvs日本はもちろん満員。ライオンズを応援した後にそのまま残ったライトスタンドで日本の勝利を見届けた。
さて問題の6日(月)だ。開門は試合開始1時間前の11時。入場口に到着したら「遠征先で見たことあるライオンズファン」しかいない。みんな仕事はどうしたんだ。
そしてライオンズファンが陣取るライトスタンドに足を踏み入れた瞬間に笑ってしまった。比喩でも何でもなくライトスタンド以外ほとんど誰もいないのだ。目に飛び込んでくるのは空席となっている青色の椅子ばかり。
しかしTwitter(当時)を見ると、面識ある人もない人も含めて同じような画角の写真がどんどん流れてくる。ライトスタンドにいる人みんなTwitterしてるんじゃないか?いかに偏ったTLを眺めているかを実感した瞬間だった。2024年に話題になっている「エコーチェンバー」とはこのことだろうか。
試合が始まってもスタンドの様子はほとんど変わらず。ライオンズの守備中など、ライオンズファンが静かにしていると、とにかく球場から音が消えるのだ。選手たちは100m以上先にいるはずなのに、息遣いがしっかり聴こえてくる。
どれくらい聴こえてくるかというと、バットにボールが当たる音、選手の掛け声はもちろんのこと、120m離れていると思われる三塁ベンチ方面から咳の音が聴こえてきたのだ。しかもあまりにもハッキリ聴こえるもんだから、TL上に「咳が聴こえてきた」というツイートが複数並ぶ。しまいには「咳したの私です」とTL上で名乗り出た人がいたもんだから爆笑した。
更にテレビ・ラジオ中継でたまに流れてくる公式記録員のアナウンス。「今井、120球」「記録、暴投」のように記録が放送席・記者席向けに案内されているのだが、その音声がライトスタンドで聴こえてくる。
またライトスタンドから記者席のアナウンスが聴こえてくるということは逆も然り。記者席で取材されていたリポーターの方が「ライトスタンドの雑談が聴こえてくる」とツイートされていた。そう言われると恥ずかしい。
またファンが少ないと当然ながら球場側も売上が立たない。最初からガラガラを予期していたようで、外周通路の飲食店は閉まっていて、多くのライオンズファンが昼食難民と化した。また数少ない売り子はライオンズの攻撃が終わるとライオンズファンが陣取るライトスタンドにどんどんやって来るのであった。
そんな調子でライオンズファンも「テニスの試合みたい」「俺らも喋っちゃいけない気がしてくる」などと笑いながら「世紀の一戦」を見届けた。
時は流れ2020年。未曽有のコロナ禍によりスタンドから応援が消えた。声出しが禁止された静かな球場に足を踏み入れた時、ほとんどのファンは初めての感覚を覚えただろうけど、ライオンズvs中国という「世紀の一戦」を見届けた酔狂なファンたちは「懐かしい!」と宣うのであった。
コロナ禍を経て2023年にWBCが開催されることが決まった時、「世紀の一戦」の再来がないかと期待していた。東京ラウンドには日本、韓国、中国、オーストラリア、チェコ共和国が出場することが決まっており、「中国との再戦もいいけど、せっかくだからチェコと対戦したいな」なんて思っていた。
しかし前述の通り、京セラドームでは日本・韓国とバファローズ・タイガースが戦うことが決まってしまった。どう考えても前回の興行面、実力面を踏まえてマッチアップを改善してきている。極めて真っ当である。ライオンズvs中国を「世紀の一戦」などと言っている酔狂なファンを中心に世界は回っていない。
それでも中国、オーストラリア、チェコ共和国が宮崎で練習試合を行うらしい。なかなか発表がなかったので、毎日のように大会サイトを見に行ったのだが、最終的に発表されたのがこちらである。
もはやNPB球団ではなく九州の社会人チームとの対戦だ。
大会でのチェコのプレーは多くの人の支持を得たが、大会前の時点では興行面でとても真っ当と言えるだろう。果たして今後「世紀の一戦」の再戦はあるだろうか・・・。
2024年は自分も含めたライオンズ遠征民の多くが山形遠征で大はしゃぎした。当時のnoteにも書いたが、遠征民は野球の試合自体に慣れてしまっている面があるので、「普段行かない球場」「普段対戦しない相手」といったレアなシチュエーションに大はしゃぎする生き物だ。
NPB球団の一軍がNPB以外のチームと対戦することは滅多にない。その点でライオンズvs中国はこれ以上ないシチュエーションだった。
次のWBCは2026年。主催者が血迷って変なカードを組んでくれることを心の底から願っている。