いや僕もう王へ九百九十九里ですね(はじめの一歩)


「我が名はエヴァンジェ、ドミナントの勇者である」

これが蛮の地で最も崇拝され、最も畏怖される勇者の名乗り上げだ。
勇者と共に剣を取る者は奮い立ち、剣を交わす者は我先にと逃げ出した。
エルデの地にはその名声こそ届かぬものの、金色の騎馬兵はその脅威をしかと感じ取っていた。
馬に命じ、高らかに突撃を敢行してきたのだ。
突撃を華麗にいなし、勇者エヴァンジェは一つの疑念を口にする。

「ツリーガード?妙だな…」

勇者エヴァンジェは万能の人であった。凡夫では気づかぬことを悟るのも道理であろう。続けて彼は口を開く。

「なんの木を守っているんだろう」

近くに由緒ありそうな木がないのだ。なんだろう。そこらへんのちっさい木でも守ってるのかな。
あっ、馬の突撃でちっさい木が折れたぞ。本当に何守ってるのこの人。
ちょっと聞いてみようかな。

しかしこれはツリーガードの卑劣な策略であった。
武と武のぶつかり合いには雑念が入り込める余地などない。
そのようなものを持ち込んだ側が地に臥すことは必定なのだ。
勇者エヴァンジェの躰が宙を舞う。
雑念が入り混じった刃が断てる物などありはしない。

「今のは不覚であった……」

おお、なんたることか。勇者の器の大きさには感嘆するばかりだ。
卑劣な策略を勇者は受け入れ、自らの落ち度としたのだ。
勇者は斧を持ち直す。今度は両手だ。勇者はキーアサインを確認できる益荒男であった。敗北は彼をより強くする。キモ人形は彼に糧を与えてしまったのだ。

「おお……!」

勇者は飛び上がりながら斧を振り下ろした。
一撃あたりならたぶんこれが一番ダメージ効率いいと思う。よろけ値貯まるし。
ツリーガードの攻撃を回避し、隙を逃さず斧での一撃を与えていく。如何に強靭な肉体を持つ者でも、斧を振り続ければいつかは斃れるのだ。
その粘り強さ、諦めない不屈の心こそ勇者の強さの根幹を成している一つであった。でも一番はソウルシリーズ制覇したプライドだと思う。

死合うこと数刻、ツリーガードは膝を付き、敗北を認めた。
勇者は消えゆく猛者を見つめ、敬意を表そうとした。
だが、それは叶わなかった。なぜならジェスチャーのやり方を知らなかったからだ。
○ボタン押しながらコントローラー振るショートカット残ってるかな……
……のこってなかった。かわってた。

しかし勇者は大変なことに気づいてしまった。

「レベルアップってどこでするんだろう……」

手に入れたルーンを失いたくない。開幕で3200はでかいだろ。
ついでに飲むと体力が湧いてくるやつも空だった。いやこれはただのジュースだから。気分が上がって元気になるだけだから。ドーピングとかじゃないし誉れも捨ててないから。

――卑怯とは言うまいな。

ほら!あしなのおじさんも同意してくれてるよ!
弦ちゃんだいすき!ホントニアコガレテル

普通に1回引き返して補充してから進んだし、先の祝福で座ったらレベルアップできるようになった。
ここで冷静になれることが知恵者たる所以だ。(知力7)

エルデの王まであと九百九十九里……

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