奈良の大仏様
奈良の大仏様がまだ生きて旅をしていた頃、毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)様は立ち寄るお宿でいつも人々から歓待を受けるのでした。
「さあ、どうぞどうぞ。」
「あ、結構です結構です、よろしいですよろしいです。」
左手には大きな煌びやかなお茶碗を持ちながら、豪華な食事やおやつを差し上げようと人々は大仏様にこう言います。
「さあ、どうぞどうぞ。」
大仏様はお箸を置き右手を挙げてこう言います。
「いえいえ、もう結構ですぞ、よろしいですぞ。ありがとう、結構ですぞ。」
ある意味問答はいつも繰り返されました。
「さあさあ、どうぞどうぞ。」
「いえいえいえいえ、よろしいですぞ、よろしいってばありがとう。」
そして時は現在、奈良の大仏様の左手の与願印(よがんいん)はお椀を持っていた左手で次々と人々の願いを叶えます。「いえいえもう結構です。」と言いながら歓待を受けられた毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)様の施無畏印(せむいいん)と呼ばれる右手は迫りくる天災や飢饉が訪れた時、恐れなさんな怖がらなくてもいいよと人々を照らす右手にりましたとさ。
そのお布施を受けた鹿達は「ありがとう」と大仏様にお礼を言うんだとさ。
小話(フィクション)でした。