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ホログラム探偵 化視華マヤ 《採用理由》

化視華かしげマヤ。37歳。B型。162cm。日魂にっこん人。青狐狸あおこり県の飛咲ひさき市で産まれる。え〜となんだかんだあって、化視華探偵事務所を2071年10月に設立。化視華探偵事務所は飛咲市のネオンアークビル3階にあり、1階はコンビニ。2階はマッサージ店。4階は歯医者。5階はスポーツジムとなっている。ビルの名前はオーナーの神刃 かんば因九いんくの意向により、AIで決められた。8月1日から8月7日は祭りの期間であり、ドテストリートはねろう祭り一色となるため、周囲の協力が不可欠である。2075年8月2日、化視華マヤが運転するミニクパーにトネハスラカの改造車(車種不明)が猛スピードで突っ込み、生死の境を彷徨う。2075年9月9日、奇跡的に一命を取り留めた化視華マヤはホログラムとして生まれ変わり、同年の9月12日に探偵業を再開する。飛咲市はトネハスラカの存在に

「データ整理ですか?僕やりますよ」
「いいのよ。頭の整理も兼ねてるの。声をかけてきたのは葉数はかずシエン。27歳。A型。175cm。凍共とうきょう軽鹿かるしか区産まれ。日魂人とホーロン人のハーフ。化視華探偵事務所に2074年3月に入社。細身の体型に、アゴまでかかった真ん中分けの艶やかな黒髪。黒いズボンに黒いシャツを基本にしている。丸いメガネがトレードマーク。だけどこのメガネ、高級車が一台買えるシロモノ。ハイテク技術が詰まった特殊なメガネというワケ。今私を見ている間にも、様々な情報が立体的に表示され」
「何なんですか一体」
「だから頭の整理って言ってるでしょ?私はホログラムになっても頭が良くなったワケじゃないんだから。あなたみたいに大学を出てるワケでもないんだし」
「頭の整理に学歴は関係ないと思いますが……」
「そうなの?でも少しは関係あるんじゃないかしら。シエンくん、物事を論理的に組み立てるの得意だし」
「それは多分僕の性格だと思いますよ」

シエンくんが中指でメガネを上げる。気持ちを落ち着かせたいときにする仕草。褒められて嬉しかったのね。

「俺は中卒だぜ!」

トイレのドアが勢いよく開いた。

「ちょっと!ドアはセンサーで開くんだから無理やり開けないでって言ったじゃない!」
「す、すんません姉さん」
「まぁいいわ。あなたの情報も整理しておこうかしら。角材かくざい 欧打おうだ。22歳。O型。193cm。日魂人。青狐狸県飛咲市産まれ」
「姉さんと同じっすよね」
「まだ途中よ」
「すんません」
「化視華探偵事務所に2075年10月に入社。私のことを姉さんと呼ぶ。茶色のドレッドヘアにバンレイの黒いサングラス。色黒で日魂人離れしたその筋骨隆々の肉体を更に鍛え上げるため、ジム通いを欠かさない。その姿はさながら、ゴーレムを彷彿とさせる」
「ゴーレムってなんすか?」
「ファンタジー系の創作物によく出てくる奴だ。主人の命令を忠実にこなす召使いって意味だよ」
「てめぇ、喧嘩売ってんのか?」
「事実なんだからしょうがない。それにゴーレムと言ったのはマヤさんだ」
「私は見た目の話をしているのよ。ほら、似てない?」

検索で引っかかったそれっぽい姿のホログラムを、欧打くんの隣に投影する。ホログラムになってからというもの、ホログラムの操作をすると変な気分になるのよね。

「あ、ほんとすね!俺の先祖すかね!」
「ふふ、かもね。まぁ召使いとまではいかなくても、欧打くんのおかげで助かってるわ」
「あざっす!」
「単純な奴だ」
「あぁ!?」
「こらこら、続けるわよ」

この二人、一見仲が悪そうだけど、実はお互いの実力を認めてるのよね。価値観が正反対というだけで。殴り合いの喧嘩に発展したことはないわね。

「22歳とは思えないほど大人びた顔つき。真っ白なランニングシャツにボロボロのジーンズにサンダルといった、ラフな格好を好む。あとはえーと、親が酷かったって話よね?」
「両親ともドラッグ漬けで潰れやした。そんなんもあって貧乏な家を飛び出し、ここに来たってワケです」
「2075年の9月と言えば、私がちょうどホログラムになった月で、再出発の月なのよね。もう一人部下が必要ってことで募集かけたら、一番最初に欧打くんが来た」
「へい。俺なりに考えた結果、姉さんに付いていこうと決めやした。ホログラムになるとかなかなか出来ることじゃないし、尊敬してやす。あとは探偵って言葉にワクワクしたんで」
「シエンくんも似たような動機だったわよね?」
「僕の場合はホログラム化した人物がいると聞いて調べたらマヤさんで、そんな人、世界でも少ないじゃないですか。僕はバイト生活で燻ってましたし、何か新しいことをしたいと思い、思いきってここ、青狐狸に。でも何で僕たちを採用したんです?僕はまだしも、なぜこいつを」
「なんだとコラ?と言いてぇとこだが、それは俺も思ってる。なぜですか姉さん。応募してきた数、ハンパなかったらしいじゃないすか。それに俺、力しか取り柄のない中卒ですぜ」
「じゃあせっかくだし、理由を言うわ。まずはシエンくん。その冷静さと、たまに見せるお茶目さ。だけだとダメかしら?」
「それだけ……ですか?」
「もちろん理由は他にもあるわ。目を改造してるのは仕事に役立つけど、他にもいたから除外するわね。シエンくんはサイバーモッド科専攻だったわよね」
「そうですが、応募してきた人の中にもいたんじゃないですか?」
「いたわよ。でもまぁピンとこなかったわね。じゃあ一番の理由。シエンくんがホーロンについて詳しいから」
「あ、なるほど。僕が子供の頃に住んでた場所でもありますしね。そして何より、日魂よりサイバー化が進んだ国」
「そう。私たちは色んな人を相手にする職業。中には、全身サイボーグみたいな人もいる。そこで必要になってくるのがシエンくんなの」
「ありがとうございます。これからもっとお役に立てるように頑張ります」
「ん〜ちょっとカタいわね」
「え?す、すみません」
「そうだぜ。俺みたいにデンと構えてりゃいいのよ」
「欧打くんはラフすぎね」
「え?す、すんません」
「そしてその欧打くんを採用した理由なんだけど」

二人が直立不動で私を見ていた。両者とも、一番聞きたい部分なんだろう。

「私がシエンくんを採用した理由に学歴が絡んでくるのはわかったわよね?次に私が必要としていたもの。純粋な力ね。だから欧打くんを選んだの」
「ちょっと待って下さい。力だけってんなら、他にもいっぱいいますぜ。何なら、大卒の力自慢だっている。そっちの方が役に立つと思いやすが」
「さっき私言ったわよね?純粋な力って。今の時代、改造してない人を見つけるのが難しいくらい浸透しちゃってる。私だってホログラムになる前は腰にバネ入れてたし、シエンくんは目とメガネ。それに対し、欧打くんは完全ナチュラル。信念があるそのスタイルは探偵に必要なの。それに改造で力を増強させた人間をねじ伏せるパワー。まぁそれは後からわかった事なんだけど。しかもその歳で昔の文化が好きときてる。そんな貴重な人材、採用しない理由がないわ」
「へ〜そうだったんすね、なんか照れますわ」

ふふ、表向きの理由はね。でもね、あなたはナチュラルなんかじゃない。ミュータントなの。ドラッグ漬けの親から受け継がれた遺伝子が、あなたを突然変異させてしまったのよ。その体、普通じゃないの。あり得ない骨格と筋肉なの。面接者でミュータントだったのはあなた一人だけ。トラブルが付き物の探偵に欲しい人材だったし、他の所に取られたくないという思いもあったわ。ミュータントはドラッグを直に摂取しても起きたりする。昔はなかったってことは、ここ数十年で出回ってるドラッグの副作用なんだろうね。ホログラムのことを調べてるうちに、色んなタイプの人間がいるんだって知った。私が自力でたどり着いたんだから、シエンくんはすでに知ってるのかもしれない。まずは私のようなホログラム。あなたのようなミュータント。ウィザード。サイボーグバーサーカー。ミミックAI。科学は人を豊かにしてきた反面、予期しないものも生み出した。それは果たして進化なのかしら?
そして欧打くんはいずれ知ることになるかもしれない。アイデンティティを失ったとき、正気でいられるかしら。そこだけが心配。

「僕も欧打が採用された理由聞けて良かったですね。ただのバカだと務まりませんから」
「ちっ、いちいちトゲがあるんだよおめぇの言い方はよぉ」
「はいはい!え〜と、あと面白いのは、タトゥーが入ってそうな欧打くんは入れてなくて、タトゥーが入ってなさそうなシエンくんに入ってるってとこなのよね」
「俺はナチュラルが信条なんで」
「僕のこれ、前にも言ったと思いますが、マイクロチップの幾何学模様です」

シエンくんは左腕のほぼ全てにタトゥーが入っている。昔はこれを理由に採用しない企業が多かったと聞くわね。今だと教職ぐらいかしら?

「俺はしないってだけで、こういうのはカッコイイと思うぜ。ま、ナチュラルに勝るカッコ良さはねーけどな」
「それに関しては反論しないでおく」
「お、珍しいじゃねーか」
「こういうのは少なからず、己の弱さが反映されてる場合がある。欧打の言うことには一理ある」
「なんかくすぐってぇな……調子狂うぜ」

まぁ、私もホログラムになる前は首に蝶のタトゥーが入ってたんだけどね。

「さて、そろそろお話の時間もおしまいよ。シエンくん、今日取り掛かる依頼内容発表して」
「はい。天蒼あまぞう 奥流おくる、自立型フィギュアの捜索。狩瀬かりせ かい、仮想空間に設置された盗聴器の除去。以上です」
「ん〜こう言ってはなんだけど、なんか平和よね。オタク感があるというか」
「そうですね」
「まぁこういう日もあるって事よね。前も話したと思うけど、私たちは警察からお願いされることもある立場。危険な依頼もある。今日みたいな日で気を緩めないこと。わかった?」
「へい!」
「はい!」
「そして私のとこは股間関係の依頼も多い。特に飛咲市はニュースに取り上げられたほど、股間が関係する事件が頻発しているわ。警察もそこにリソースを割きたくないのか、これ系は私たちに依頼してくる。というか丸投げしてくる。ほんとおかしな事で有名になったものね、この街も。私の事務所も」
「やっぱりあの一件ですかね」
「そうね。まぁ、あの件があったからこそ、稼がせてもらってると言っても過言じゃないわね」
「え?なんかあったんすか?」
「欧打くんが入社する前の話だもんね。そう、あれは……」

破裂した被害者の金玉。今でも鮮明に焼き付いてる。加害者へ味方する人も多かった、強烈な事件。

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