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ループする運命の分岐点-小説

第1章: 崩壊の始まり

霧雨が降り注ぐ東京の街。高層ビルの林立する未来都市の風景は、どこか陰鬱な雰囲気を纏っていた。西暦2145年、人類は科学技術の発展により、一見豊かな生活を手に入れたかに見えた。しかし、その裏では環境破壊や格差の拡大、監視社会化といった問題が深刻化していた。

そんな世界で生きる青年、篠原航(しのはらわたる)は、恋人の美咲(みさき)とのデートの最中だった。二人は高層ビルの屋上にあるカフェで、雨に濡れる街並みを眺めながらコーヒーを飲んでいた。

「ねえ、航。私たち、もう終わりにしない?」

突然、美咲が冷たい声で言い放った。航は驚いて美咲を見つめた。彼女の瞳には、もはや愛情の欠片も感じられなかった。

「どういうこと?美咲、何かあったの?」

航が必死に尋ねるも、美咲は冷ややかな表情を崩さなかった。

「もう疲れたの。あなたとの関係に。私には、もっと大切なことがあるの」

その言葉と共に、美咲はテーブルから立ち上がり、航に背を向けた。航は呆然と彼女の背中を見つめるしかなかった。

突如、轟音が鳴り響いた。航が驚いて振り返ると、遠くの空に巨大な光の柱が立っていた。それは瞬く間に拡大し、街を飲み込んでいく。

「なっ...何なんだ、これは!?」

パニックに陥る航。しかし、美咲は冷静そのものだった。

「さようなら、航。もう二度と会うことはないわ」

美咲の言葉が終わるか終わらないかのうちに、光の波が二人を包み込んだ。航の意識が闇に沈む中、最後に見たのは美咲の悲しげな微笑みだった。

第2章: 繰り返される日々

目を覚ますと、航は自分の部屋のベッドの上にいた。頭痛に悩まされながら、彼は起き上がり、周囲を見回した。

「夢...だったのか?」

しかし、カレンダーの日付を確認して愕然とした。昨日のはずの日付が表示されていたのだ。

「まさか...」

携帯電話を手に取り、ニュースをチェックする。そこには昨日見たはずのニュースが流れていた。航は混乱しながらも、一つの可能性に気づいた。

「タイムループ...?俺は、昨日に戻ってきたのか?」

そして、彼の脳裏に美咲との別れの場面が蘇った。もしこれが本当にタイムループなら、もう一度やり直すチャンスがある。そう思った瞬間、航の中に決意が芽生えた。

「美咲を取り戻す。そして、あの光の正体を突き止めてみせる」

航は急いで身支度を整え、美咲との待ち合わせ場所へと向かった。街の風景は昨日と変わらず、人々は何事もなかったかのように日常を過ごしていた。

カフェに到着すると、美咲はすでにそこで待っていた。航は深呼吸をして、彼女に近づいた。

「美咲、話があるんだ」

美咲は少し驚いた表情を見せたが、航の真剣な様子に気づいて頷いた。

「何?急に怖い顔して」

「俺たちの関係について、もう一度考え直してほしいんだ」

航は必死に言葉を紡いだ。美咲の目が少し揺れる。

「どういうこと?」

「俺は君のことが本当に好きだ。もし何か問題があるなら、一緒に解決していきたい」

美咲は一瞬言葉を失ったように見えた。しかし、すぐに表情を硬くした。

「航...私にはもう決めたことがあるの。あなたとは別れるつもりだった」

その言葉に、航は心臓が締め付けられるような痛みを感じた。しかし、諦めるわけにはいかなかった。

「何があったんだ?俺に話してくれないか?」

美咲は長い沈黙の後、ため息をついた。

「私には...使命があるの。それを果たすために、あなたとの関係を終わらせなければならないの」

「使命?」

航が問いかけた瞬間、あの轟音が鳴り響いた。そして、光の柱が現れ始めた。

「また...始まるのか」

航は絶望的な気持ちで呟いた。美咲は悲しそうな表情で航を見つめていた。

「さようなら、航。次は...もっと幸せになれますように」

光が二人を包み込み、再び航の意識は闇に沈んでいった。

第3章: 真実への手がかり

目覚めると、また同じ朝だった。航は頭を抱えながらベッドに座り込んだ。

「どうすれば...美咲を救えるんだ?」

何度も同じ日を繰り返す中で、航は少しずつ情報を集めていった。美咲の行動パターン、街の様子、そして世界崩壊の兆候。

ある日、航は美咲の後をつけることにした。彼女は普段と違う道を歩き、人気のない倉庫街へと向かった。そこで彼女は、見知らぬ男性と密会していた。

「計画は予定通りです。今日、全てが終わります」

男性の言葉に、美咲は無表情で頷いた。航は息を殺して聞き耳を立てた。

「人類に与えられた時間は終わりました。新たな世界の幕開けです」

航は愕然とした。美咲が世界の崩壊に関わっているのか?しかし、なぜ?

その日の夕方、いつもの光の柱が現れる直前、航は美咲に真実を問いただした。

「なぜ世界を滅ぼそうとしているんだ?」

美咲は驚いた表情を見せたが、すぐに悲しげな微笑みを浮かべた。

「航...あなたには何も関係ないの。忘れて」

そして、また光に飲み込まれる。

第4章: 真実の重み

幾度もの繰り返しの末、航はついに全貌を掴んだ。美咲は未来から来た存在で、人類が引き起こす破滅的な未来を阻止するために、現在の世界を"リセット"しようとしていたのだ。

「美咲、俺は全て知った」

航が告げると、美咲は驚きの表情を見せた。

「どうやって...?」

「何度も同じ日を繰り返して、少しずつ真実に近づいたんだ」

美咲は深いため息をついた。

「そう...でも、これは必要なことなの。人類はこのままでは滅びる。私たちは新しい世界を作り直さなければならないの」

「でも、それは間違っている!」航は叫んだ。「未来は変えられる。俺たちの力で」

美咲は悲しそうに首を振った。

「もう遅いわ。計画は始まっている」

その瞬間、例の光が現れ始めた。

第5章: 永遠の選択

「美咲、頼む!まだ間に合う」

航は必死に美咲の手を掴んだ。

「一緒に未来を変えよう。世界を滅ぼさなくても、きっと方法はある」

美咲の目に涙が浮かんだ。

「でも...私はもう...」

「大丈夫だ。俺がついている」

航の言葉に、美咲の心が揺れた。そして、彼女は決断を下した。

「わかったわ。試してみましょう」

二人は手を取り合い、光の中心へと走った。そこには、時空を操る装置があった。

「これを止めれば、全てが元に戻る」

美咲が説明する。しかし、装置を止めるには、誰かが自らの存在を犠牲にしなければならなかった。

航は迷わず前に進み出た。

「俺がやる」

「だめよ、航!」

美咲が叫ぶ。しかし、航は微笑んだ。

「美咲、君を守るよ。そして、この世界も」

航は装置に触れ、強い光に包まれた。

エピローグ: 新たな朝

目覚めると、美咲は見慣れない部屋にいた。頭には航との思い出が残っていたが、それは遠い夢のようだった。

窓の外では、晴れ渡る空の下、人々が平和に暮らしていた。環境問題も解決され、人類は持続可能な社会を築いていた。

美咲の携帯が鳴る。知らない番号だった。

「もしもし?」

「やあ、美咲」

聞き覚えのある声。美咲は息を呑んだ。

「...航?」

「ああ、やっと会えたね。長い旅だった」

涙があふれる。美咲は窓の外に目をやると、そこに航が立っていた。彼は微笑みながら手を振っている。

美咲は駆け出した。新たな朝が、二人を包み込んでいた。

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