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荒野のリング - 文明が崩壊した未来、唯一の娯楽は荒廃した街で行われる命がけの地下格闘技。主人公は家族を救うため、このリングで頂点を目指す。

荒野のリング

プロローグ

2035年、世界は死んだ。

パンデミック、気候変動、そして核の冬。人類の90パーセントが消滅し、文明は瓦解した。横浜の街は、巨大な墓標のような廃墟と化していた。

残された者たちは、新たな掟を学ばなければならなかった。生きるか、死ぬか。それだけの選択肢しかない世界で。

第一章 希望の代償

私、海老名リョウ。28歳。かつての研究者の息子。そして今は、妹を救う唯一の希望。

美咲の病状は日に日に悪化していた。遺伝子異常による難病。文明崩壊前なら最先端医療で治療できたはずの病。しかし今、医療設備は壊滅し、唯一の治療薬は年間たった数本。その薬の価格は、普通なら一生かかっても手に入れられないほど高額だった。

「リョウ、諦めないで」病床の美咲は、かすれた声で言った。目は輝いているのに、その体は極限まで痩せ細っていた。

唯一の希望は、年に一度開催される「荒野の闘技大会」。賞金は2000万クレジット。これは美咲の治療費すべてを賄える金額だった。

第二章 地下世界の掟

横浜の地下街は、生存者たちの最後の社会システム。かつての駐車場や地下鉄駅は、生存者たちのコミュニティと化していた。

ここでの生存ルールは単純だ。武力と交渉力、そして命を賭ける覚悟。食料は物々交換、水は命より重い。医薬品は金より貴重。そして唯一の娯楽が、この地下格闘技のリング。

勝者は尊敬され、生き延びる。敗者は飢えるか、奴隷の運命を辿る。

第三章 父の遺産

父・海老名健一は、国家最高機密の「人体能力拡張プロジェクト」の中心的研究者だった。表向きは平凡な製薬会社員。実際は、人間の限界を超える遺伝子改良プログラムに携わっていた。

彼は自ら実験台となり、秘密裏に遺伝子組み換え実験を受けていた。その結果生まれたのが、通常の人間をはるかに超える身体能力。その遺伝子の名残が、私と美咲に受け継がれていたのだ。

父は言っていた。「お前たちは、人類の未来だ」

第四章 修羅の道

第一戦 - 「鋼鉄の男」との死闘

佐藤健太。元建設作業員の巨漢。体重120キロ、筋肉の塊。彼の拳は、コンクリートを砕くブルドーザーそのものだった。

リングに響く金属音。観客の息が止まる。

父から受け継いだ特殊な遺伝子が、瞬間的な状況判断と驚異的な反射神経を可能にする。通常の100倍の筋肉繊維の反応速度。

「暗夜の牙」。父から学んだ、遺伝子改良によって生み出された究極の技。

一瞬の攻防の末、佐藤は床に叩きつけられる。観客席から狂気の雄叫びが湧き上がる。

第四章 修羅の道

準決勝 - 伝説の闘士との戦い

清水カズヤ。40歳を超えた元特殊部隊。父の旧知の同僚であり、かつての人体実験プロジェクトの最重要メンバーの一人。彼の背中には、数々の戦いの傷跡が刻まれていた。

リングに入る瞬間、カズヤは私を鋭い眼差しで見つめた。まるで、遠い過去の記憶を呼び起こすかのように。

「海老名の息子か」彼の低い声が響く。「あの研究所の最後の生き残りということは、お前も……」

戦いは、単なる闘技大会以上の意味を持っていた。これは、父の遺したプロジェクトの最後の審判でもあるのだ。

最初の攻撃は、カズヤから。彼の拳は風を切り、音速を超えるかのような衝撃を放つ。通常の人間なら、一撃で頭蓋骨が砕け散るほどの破壊力。

しかし私には、父から受け継いだ遺伝子改良の恩恵がある。

瞬間的な反射神経。常人の100倍の筋肉繊維の反応速度。遺伝子レベルで強化された身体能力。

カズヤの拳が10センチ手前まで迫った瞬間、私は微妙に身体をずらす。まるで風のように、致命的な一撃をかわす。

「まだまだだ、小僧」カズヤは冷ややかに笑う。

戦いは激しさを増していく。彼の特殊部隊での経験と、遺伝子改良によって強化された身体能力が、リングの中で渾身の技を繰り広げる。

私の肋骨が折れる。痛みが走る。しかし、父から受け継いだ特殊な遺伝子が、瞬時に痛みを抑え、組織の修復を始める。

カズヤは叫ぶ。「お前の父は、人類の未来を信じていた!」

「違う」私は反論する。「父は、人間の可能性を信じていたんだ」

最後の決定的な一撃。「暗夜の牙」。父から学んだ、遺伝子改良によって生み出された究極の奥義。

カズヤの顔に命中する。彼の頬に致命傷。血飛沫が舞う。

最終決戦 - 影の王との運命の対決

決勝の相手は、「影の王」。年齢不詳、出自不明。父の研究プロジェクトの最終兵器。完全な遺伝子改良人間。

彼は文字通り、父の研究の究極の到達点。通常の人間を遥かに超えた、究極の身体能力を持つ存在。

戦いは、人類の未来を賭けたかのような壮絶な闘い。

50分。究極の遺伝子改良者同士の戦い。観客は狂気に震える。

リングは血に染まり、双方の限界を超えた闘いが続く。「影の王」の攻撃は、人間離れした速度と破壊力。しかし、私もまた、父から受け継いだ遺伝子改良の力で、彼に対抗する。

最終局面。双方の限界を超えた一撃。

勝負の行方は、父の遺した遺伝子の秘密に宿っていた。

エピローグ

賞金を手に入れたリョウは、美咲の治療を開始する。

父の遺した遺伝子の謎。生存の証。荒野に生きる希望は、時に拳の中にしか宿らない。

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