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短編小説「終わらない夜の交響曲」
プロローグ
真夜中、静寂に包まれた街。
その静けさの中、ただ一つの音が響いていた。
それは、廃墟となった劇場から聞こえてくる、不気味なまでに美しいピアノの旋律だった。
第一章:忘れられた劇場
佐々木は、その夜も眠れなかった。
日々の忙しさに疲れ、心は休まることがなかった。
そんな彼の耳に、ふと聞こえてきたピアノの音。
まるで誘われるかのように、佐々木はその音の源を探し始めた。
音は、街の外れにある古びた劇場から聞こえていた。
かつては栄華を誇ったが、今では誰も訪れない廃墟と化していた。
ドアを開けると、薄暗いホールに、月明かりが差し込んでいた。
そして、ステージの上には、一人の女性がピアノを弾いていた。
第二章:消えた音楽家
その女性は、まるで幽霊のように静かに佇んでいた。
彼女の指は、ピアノの鍵盤の上を滑らかに動き、その音色は悲しみに満ちていた。
佐々木は息を呑んだ。
彼女の姿はまるで幻のようだった。
「誰だ?」
彼は恐る恐る声をかけたが、女性は振り向かず、ただ弾き続けた。
しかし、その旋律には、どこか聞き覚えがあった。
それは、彼が子供の頃に母親から聞かされた、失われた音楽家の伝説だった。
第三章:永遠の夜
その夜、佐々木は劇場に通い続けた。
彼女の奏でる旋律に魅了され、彼は次第に現実と幻想の境界を失っていった。
音楽は彼の心を満たし、彼は次第に眠りに落ちることができるようになった。
だが、ある夜、彼女が突然ピアノを止め、佐々木の方を振り向いた。
彼女の瞳には深い悲しみが宿っていた。
「助けて、ここから出して」
彼女はそう呟いた。
佐々木は混乱し、逃げ出そうとしたが、足が動かなかった。
彼はその場に立ち尽くし、彼女の言葉に震えた。
それは、音楽家が残した最後の言葉だった。
エピローグ
数日後、佐々木は行方不明となった。
彼の姿を見た者はいなかったが、彼が消えた夜、あの劇場から再びピアノの音が聞こえてきたという。
それ以来、街では夜になると誰も劇場に近づこうとしなかった。
夜の交響曲は、永遠に続く――。