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夢の畳に立つ僕と、越えるべき自分――柔道で掴む日本一

夢の中で戦って日本一になる


柔道家として生きることは、一つの道を選ぶことだ。

松岡大志(まつおかたいし)は二十歳の大学三年生。都内にある体育大学の柔道部に所属し、人生の大半を柔道に費やしてきた。しかし、その顔にはどこか疲労感と焦りが滲んでいる。

大学柔道界は厳しい。小学校から柔道を始め、中学、高校と名門校で鍛え抜かれた選手たちが集まる場だ。そんな中、大志は決して無名ではないが、特別に目立つ存在でもなかった。高校時代は全国大会の県予選で準優勝止まり。大学でも一度は全国の舞台に立ったものの、初戦であえなく敗退。彼の心には、敗北の記憶が深く刻まれている。

「このままじゃ終われない――」

そう呟いた彼の目の前には、無造作に散らばった過去の試合記録ノートが広がっていた。何度見返しても、同じ反省ばかりが並ぶ。「技の切れが甘い」「決めきれない」「心が弱い」。自分が何をすべきかは頭では分かっている。それでも、いざ畳の上に立つと勝ち切れない自分がいる。

壁に掛けられた柔道着をじっと見つめながら、大志は椅子にもたれかかった。そのまま、重い瞼が自然と落ちる――。


異世界への扉

目を覚ました瞬間、彼は違和感に襲われた。

寝ていたはずの部屋は消え、代わりに目の前には広大な柔道場が広がっている。古びた畳の匂い、木枠の窓から差し込む光、どこか懐かしさを感じる静かな空間だった。

「……ここは?」

大志が立ち上がると、奥の方から「お主か」と低い声が響いた。声の主は、白髪交じりの髪に凛とした佇まいの老柔道家だった。彼は綺麗に折り畳まれた柔道着を抱えながら、大志に向かって近づいてきた。

「ここは“試練の場”だ」

「試練の場?」

「お主が己を乗り越え、日本一になる覚悟があるかどうか、それを示すための場よ」

老柔道家はそう言うと、畳に柔道着を置き、片手で大志を指さした。

「名乗りなさい。そして、試練に挑む覚悟があるか問おう」

大志は訳が分からないまま、自然と答えていた。

「……松岡大志です」

「ふむ。松岡大志よ、覚えておくがよい。柔道とは己を映す鏡だ。畳の上に立つ時、お主の弱さ、恐れ、迷い、その全てが技となって表れる」

老柔道家はにやりと笑い、大志に柔道着を差し出した。

「さあ、身支度を整えよ。そして、まずは“最初の試練”に立ち向かうがよい」


最初の試練――過去の自分

柔道着に袖を通し、帯を締めると、体にしっくりと馴染む感覚があった。

「柔道着が、軽い……?」

その違和感は束の間のことで、畳の中央に立つと、向かい側にもう一人の自分が立っていた。

それは高校時代の松岡大志。無邪気に柔道を楽しんでいた、あの頃の自分だった。

「お前が……俺?」

高校時代の自分は笑いながら言う。

「お前さ、柔道を忘れてんだよ。ただ勝つことばかり考えて、何が柔道だ?」

その言葉に大志は胸を抉られるような気がした。技を掛け合う中で、大志は気づく。かつての自分は柔道が好きで楽しかった。それがいつからか「勝つためだけの柔道」になり、技の切れや心の余裕が失われていたのだ。

「勝ちたいんだよ……俺は、日本一になりたいんだ!」

だが、高校時代の自分は軽やかな足運びと流れるような技で大志を畳に叩きつける。何度立ち上がっても、何度も倒される。それでも諦めない。立ち上がり続ける大志の目に、少しずつ光が戻っていく。

「忘れてたんだ、俺は……柔道を好きだって気持ちを」

試合が終わると、高校時代の自分はにっこりと笑った。そして静かに消え去っていく。


試練の数々――成長と再生

大志は次々と現れる強敵たちと戦い続けた。過去のライバル、道場の仲間、全国大会で敗れた相手――彼らは皆、大志に「己の弱さ」を突きつける存在だった。

・技の未熟さを突かれる試練
・体力の限界に挑む試練
・心の迷いを打ち破る試練

その中で大志は学んでいく。「柔道はただ勝つためのものではない。己と向き合い、乗り越えるための道だ」と。

そして最後の試練として、老柔道家が彼の前に立つ。

「松岡大志よ、お主の柔道の覚悟を見せてみよ!」

大志は静かに礼をし、老柔道家との勝負が始まった――。


覚醒と帰還

目が覚めた時、大志は畳の上に寝転んでいた。隣には、自分が描き直した練習計画が置かれている。全てが夢のようで、しかし現実でもあるかのような感覚。

あの日から、大志は変わった。技に迷いはなく、柔道を楽しむ心が戻った。そして迎えた全国大会の決勝戦。

「俺は勝つ。そして、柔道を楽しむ――!」

大志は最後の技で相手を畳に叩きつけた。その瞬間、場内には歓声が沸き上がり、彼の目には涙が滲んでいた。

柔道を通じて己を知り、弱さを乗り越えた松岡大志は、ついに日本一の栄光を掴んだのだった。


柔道とは心の道であり、人生そのものだ――。

その言葉を胸に、大志は新たな挑戦へと歩み始める。

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