おばけ村のひみつ
夏休みが始まったばかりの7月のある日、10歳の佐藤ケンタは両親と一緒に、山奥の小さな村、霧隠れ村に引っ越してきました。都会育ちのケンタにとって、周りを深い森に囲まれたこの村は、とても不思議な場所に思えました。
村に着いた夜、ケンタは窓から外を見ていました。するとそこに、ふわふわと光る小さな球体が浮かんでいるのが見えました。「あれ、蛍かな?」と思いましたが、よく見ると蛍とは違う不思議な光り方をしていました。
次の日、ケンタは村を探検することにしました。古い木造の家々が並ぶ通りを歩いていると、突然誰かに声をかけられました。
「おーい、新しい子!こっちおいで!」
振り返ると、木の陰から小さな男の子が手を振っていました。その子の名前は山田タロウ。タロウはケンタを村の奥にある古い神社へと案内しました。
「ここで毎週、子ども会議があるんだ」とタロウは説明しました。「君も来てみない?」
ケンタは少し不安でしたが、好奇心に負けて頷きました。
その夜、ケンタは神社に向かいました。境内に入ると、そこには様々な姿をした子どもたちが集まっていました。しかし、よく見ると彼らは普通の子どもではありませんでした。
一人は半透明で宙に浮いています。別の子は狐の耳と尻尾を持っています。さらに別の子は、頭の上に小さな角が生えています。
「み、みんな...おばけ?」ケンタは驚いて声を上げました。
すると、タロウが現れました。彼も今や、頭に一つ目がある奇妙な姿をしています。
「びっくりしたかい?」タロウは優しく笑いました。「ここは霧隠れ村のおばけたちの集まりなんだ。僕たちは、人間の姿で村人たちと暮らしているけど、本当はみんなおばけなんだよ」
ケンタは驚きのあまり、その場に座り込んでしまいました。
「で、でも、どうして僕を...」
「君は特別なんだ」タロウは説明しました。「君には僕たちが見える。それって珍しいことなんだよ。だから、僕たちの会議に参加してほしいんだ」
その夜から、ケンタは不思議な子ども会議に参加することになりました。会議では、人間とおばけの共存について真剣に話し合われていました。
「最近の子どもたちは、あんまり怖がってくれないんだよね」と、首のない子どもが嘆きました。
「そうそう。昔は『オバケだぞー』って言うだけで逃げ出したのに」と、舌の長い女の子が付け加えました。
ケンタは、おばけたちの悩みを聞いて考えました。「でも、怖がらせるだけじゃなくて、仲良くなる方法もあるんじゃないかな」
おばけたちは驚いた顔をしました。人間の子どもから、そんな提案を受けたのは初めてだったからです。
その日から、ケンタはおばけたちと人間の子どもたちの架け橋になりました。昼間は普通の子どもとして遊び、夜はおばけたちと会議を重ねました。
しかし、ある日ケンタは村に隠された恐ろしい秘密に気づきました。村はかつて、人間とおばけの戦いの舞台だったのです。その戦いで多くの命が失われ、今の共存状態が生まれたのでした。
ケンタは決意しました。「僕が、人間とおばけの本当の絆を作るんだ」
夏休みの最後の日、ケンタは村中の子どもたちを集めました。人間の子もおばけの子も、みんな集まりました。
「みんな、聞いて」ケンタは言いました。「僕たちは違うけど、同じ村に住む仲間だよ。怖がったり、怖がらせたりするんじゃなくて、お互いを理解し合おう」
その言葉をきっかけに、人間の子どもたちはおばけたちの存在を受け入れ始めました。おばけたちも、怖がらせるのではなく、村を守る存在として認められるようになりました。
それからの霧隠れ村は、人間とおばけが本当の意味で共存する、不思議で温かい村になりました。ケンタの家の窓辺には、毎晩小さな提灯おばけが訪れ、優しく光を灯すのでした。
こうして、ケンタの不思議な夏休みは幕を閉じました。
おしまい。
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