My favorite things〜私のお気に入り〜SHOWA (5) 黒澤明+フェリーニ+手塚治虫

 私が最も尊敬し、その作品を何度も繰り返し観たり読んだりしてるのが、映画監督の黒澤明、フェデリコ・フェリーニ、そして漫画の神様・手塚治虫だ。実は、この3人が揃っての映画製作の話があった。それが『黒き死の仮面』という黒澤明のシナリオを元にした作品で、なんと今の時世を予言したかのような伝染病にまつわる話(赤死病という伝染病が流行り、難を逃れたい王が、家来一同と城に立てこもる。そして城で開かれた仮面舞踏会の夜。死の仮面を被った死神がやってくる…)だ。原作はエドガー・アラン・ポーの『赤死病の仮面』で、『デルス・ウザーラ(75)』を黒澤がソ連(ロシア)で撮った後、次回作の候補として挙げられ、77年にシナリオが書かれた。ソ連資本でということで「赤」を外して「黒き死の~」となったようだ。この時の構想に、後半の舞踏会のシーンをミュージカル仕立てにして、その場面の演出をフェリーニ監督に、さらに死の仮面が正体を現し、人々が阿鼻叫喚する様をアニメーションで描き、その監督に手塚治虫を起用したい、という、なんとも贅沢な企画であった。

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ところが、さすがに膨大な製作費がかかるとのことで中止となり幻の企画となってしまう。その後、黒澤監督は『影武者(80)』、『乱(85)』と時代劇の大作を続けて撮る。そして、そのあと、実はまた『黒き死の仮面』の企画が持ち上がった。黒澤監督の直筆の製作ノートによれば「たとえば、全編が『乱』の二の城、落城のシーンのように恐ろしく、すさまじく、そして妖しく美しい映像と音響の世界」を目指していた。英語版シナリオも上がっているので、おそらく『夢(90)』製作の前後で、ハリウッド製作として企画が出たものと思われる。しかしながら、これも実現はしなかった。

そして潰えたかにみえた『黒き死の仮面』の製作だが、黒澤明監督生誕100年の「AK100」(2010年)のプロジェクトの一つとしてアニメ映画化の企画が持ち上がる。しかし、これまたとん挫してしまう。さらにさらに、もう無いと思えた『黒き死の仮面』の映画化が2017年に、中国の映画製作会社の手によって映画化されると発表された。公開は2020年と言われていたが、その後、何の情報もないまま時が過ぎている。

何度も何度も企画されながら実現されない、赤死病のごとき呪われた作品であるが、コロナ渦の今こそ映画化されて欲しい。そして映画化されたら、改めて、世間は黒澤明監督の優れた予見力に驚くことだろう。

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