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アークさんとミアンくん

エタバンした2人の話。



膝に乗せて向き合う形にして、ようやく目線が合う程の身長差。しかし決して華奢ではない。
唇を沿わせて形を確認するように、顔中にキスを落とす。
くすぐったいのか、目を閉じて笑う顔。時折こちらを盗み見るように覗く金の瞳。
フサフサの耳はすっかり垂れてしまっている。
可愛い。

ゆるく揺れる尾を捕まえて、毛の流れを楽しむように根元から撫で上げる。
尾を撫でられるのはあまり好きでは無いようで、不満げにベッドに落ちていく。
もう一度手を伸ばそうとすれば、サッと身体の反対側へ隠してしまう。
面白い。

先程までニコニコしていた顔も、バツが悪そうに逸らされる。が、逃さないよう口を塞ぐ。

出会った頃には無かったシワが何本も刻まれた顔。俺も同じだけ歳を取った。


ジン。愛しい愛しい俺の猫。

ーーー

会ったばかりの頃は、騒がしい仔猫に懐かれたものだと呆れていた。
今までどうやって旅をしていたのかと疑う程に何もかも拙く、ドジを踏み、人の悪意に翻弄され、それ以上によく笑う。
行動を共にする事が当たり前となるまでに、時間はそうかからなかった。


冒険者として闘いの中に身を投じるよりも、旅する商人として人の繋がりを守っていきたいと決意した瞳の輝き。そんな強さとは裏腹に、自信無さげに尾を揺らしながら「しばらく護衛として着いてきてくれないか」と頼んできた時は苦笑した。
今更何を遠慮しているのか。
お前はただ「一緒に来い」と言えばいい。そうすれば俺も「やれやれ」と同意するだけでよかったのに。

「俺は護衛よりも、釣り師の方が性に合ってる」
「……?」
「行商人のパーティーに入れてくれ。そもそも護衛を雇う程のギルなんて無いだろ?当面は自分でやるんだ」

要らない決意表明をする羽目になった。
もしこれが誘導だったならとんでもない策士だ。ウルダハの商人としても立派にやれる。
そんな懸念が生まれる前に泣きながら飛び込んで来たものだから、商人志望が聞いて呆れる。

「アークさん、俺、アークさんが好きだ。一緒に居てほしい」

ほら、そうやって貴重な商品を安売りする。
もっと焦らして、こちらから懇願させる事だって出来たのに。
本当に、全く気付いていないのか。
目の前に居るのは、お前から与えられる全てに満たされ、どうしようもなく欲情している男だということを。


ーーー


最初は2人きりだった旅も、子供達を育て、同行する仲間が増え、今では立派なキャラバンだ。
行先次第で同行者は変わるが、ジンと俺だけは離れる事は無い。
それはお互い共にありたいと想っているからだろう。



「俺アークさんに迷惑かけてないかなぁ…?今日だって壺に入ってたボロい荒縄をヘビと見間違えて落として割っちゃったし……俺留守番してた方がいい…?」

ララフェル族の娘、ルナナに向かって耳も肩も尾も落としてしょぼくれる背中。
うむ、果たしてこれは想い合えてると言えるのだろうか。

「お父さんったら本当にバカね。お父さんのドジっ子っぷりをパパが解ってない訳無いじゃない。」
「ゔっ…」
「迷惑かけたくないならもっと堂々としてなさい!壺は不良品だったから割ってやったくらいに振る舞ってればいいのよ」
「ううっ……で、でも、結構良いヤツで…」
「そこはしっかり反省して!!」
「ハイ……」

しっかり者のレディに成長した娘に説教される父。情けないったらない。
ベソベソとしょぼくれる父を放ってルナナがこっちに駆けてきた。

「ホント、お父さんったらバカなんだから。パパがこんな優しい顔するの、お父さんにだけなのにね」

ジンには聞こえないように、こっそり耳打ちしてくる。
いつの間にか笑っていたのだろう。自分でも無自覚な表情を指摘されて少し照れくさい。

ルナナの前に膝をつき、そっと頭を撫でる。

「ルナナやカノープスにも、だ」
「うふふっ」

和やかな様子が気になったのか、恐る恐るといった具合に近付いてくる情けない猫。

「アークさんごめん、俺…」
「損失分埋めるぞ、久々に手配書のモブでも狩るか」
「!! おう!任せろ!!」
「全く現金なんだから。パパも甘やかしちゃダメよ」
「ううっ、勘弁してくれ」
「ふっ。ルナナ、留守をお願いできるか?」

任せて!と得意気に胸を張るルナナの姿は、どこかジンに似ている。
今は遠くエオルゼアに旅立っているカノープスも同じ顔をしていた。


柔らかな日差しの午後。
釣り竿ではなく弓を手に、賑やかな猫を連れて森へ出掛ける。
時を経て尚同じ2つの背中は、きっとこれからも変わることは無い。


書いて頂いた小説をぺたり。
https://privatter.me/page/678dc1a77f5b6


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