Cadre話譚:不浄の証(2)
ラルスとエルバートの2人は、事件を更に深堀りするため、人々が雑踏する大通りから細い路地へ。
2人は周囲を警戒しつつ、奇病の発生源を探知していった。
発生源に関して2人には目星はついている。
黒いペンキであちこちを汚し、荒し回る悪質な落書き犯があちこちで目撃されているという情報があるからだ。
彼らのそもそもの目的が、落書き犯の討伐である。
裏路地へ進むうちに、壁に黒いペンキの落書きが見え始めた。
靄が立ち込めはじめ、屍臭が漂いはじめる。
濁った血が水溜まりのように彼方此方に点在し、
その上をびちゃびちゃと粘りのある不快な音を立てて歩いていく。
痣のない人にはそのような光景が認識できず、
ただ黒いペンキが塗られただけの空間にしか見えない。
精々認識できるのは匂いや音くらいだ。
ラルスが「もしもし、例の落書き犯がここにいるかもしれない。
位置情報を転送するぞ。」と、誰かと通信を始めた。
『あ、はいはい分かりました。ボクが来るまで足止めして下さい。』と返答が来た。
エルバートが装着している探知機が、ガリガリガリと不快な軋み音を鳴らし始めた。
そこは地面一面が黒いペンキで浸る空間だった。
2人はそこで立ち止まると
「アハハハ!今日もネズミがきた!」
ガスマスクのような仮面をつけた男が
黒い水溜まりからぬるりと現れた。
黒いペンキが詰まったハンドスプレーのような武器を携えており、
ここら近辺を黒く染めた犯人だろうと2人は確信した。
武器を構えようとすると、
男はニヤリと笑みを浮かべ。
「ウヒャヒャヒャ!やる気か?おれはあの御方からすげえ力を授かったんだ!」と力を誇示するように
地面一面に溜まっていた黒いペンキから、男と似た形の化け物が次々と現れていった。
"シャドウ"だ。
男もペンキで自身を覆い、人型のシャドウと紛れ込んで行った。
シャドウもまた黒いペンキを発射してきて、
生身の体に液体が当たると動きを封じられた。
一応機械仕掛けであるエルバートは、手をガトリング砲に変形させ、
ダラララララ!と周囲を乱雑に撃つ。
シャドウは被弾して倒れはすれど、地面から出てくるので一向に減る気配がしない。
ラルスも何とか一気に倒せないかと、剣を通して光魔法を放とうとすると、
ペンキが剣に絡みつき、集中を削いでいく。
「ああクソが。狡い野郎だ!」
無尽蔵に増えるシャドウに、
体のあちこちが封じられた状態で必死に応戦はするが…
「ごめん。気持ち悪くなってきた。」
ラルスは疲労と同時に汚染が進んで行った。
長時間汚染地帯に留まると、次第に生身の体は汚染されていく。
それも黒い液体に塗れているために、余計に汚染の進行が早い。
ラルスの太刀筋は次第に鈍っていく。
「おいおい、相方が死にかけてるぞ?」と、敵は余裕をかます。
まだまだ余裕があるエルバートは、相方を庇いながら戦う。
すると数分後、どこかからふわふわとシャボン玉が次々と飛んできた。