Cadre話譚:不浄の証(3)

ラルス達の目の前に浮かぶシャボン玉は、パァンと光をキラキラと散らしつつ割れた。
光が当たったシャドウは溶け崩れ、そして光が落ちた地面の黒いペンキが削がれた。
ペンキが削がれたことで本物も露出する。

敵はこの泡を見て「げっ、掃除屋…」と何やら焦り、逃げようとしたが、
ぷわ〜っと周辺を巨大な泡のバリアが張られた。
男が逃亡できなくなり、ペンキがバリアの外へ広がる心配がなくなった。

そしてドスの効いた声が響き渡る。
「ゴルァ!てめえのような自己中によるクソッタレなアートのせいで、
世間に迷惑かけてんだよ!」

声の主はレインコートとゴーグルを着用したそばかすの男だ。
落書きを魔法の泡やデッキブラシで掃除しつつ、恐ろしい勢いで駆けつけてきた。

清掃員の面と殺人者の面を兼ね揃えた掃除屋の異名を持つ男。先ほどの通信の相手でもある"バブルス"だ。

しかし、男はあちこちにペンキを撒いてシャドウを作り出す。
作られたシャドウは男の形だけではなく、砲台やよく見かける雑魚種の形にもなった。
そして本体はペンキの中に潜り込んだ。

「クソが、キリがねぇな!」とエルバートは遠方から閃光弾を発射した。
エルバートの銃は魔導弾を使うので多種多様だ。

シャドウは強い光を嫌うからだ。
弾の熱で辺りが燃える事が多いのだが、今回は泡のバリアがあるので延焼しない。

閃光をモロに浴びたシャドウはギャアと叫んで、みるみるうちに弱体化する。 
そして弱った所を通常弾で蹴散らした。

バブルスは隙を見て泡やブラシでペンキを削いでいく。
ペンキが蒸発し、面積が小さくなったせいか男がペンキから這い出てきた。

そしてラルスが剣で男を切ろうとした。
すると、男は仮面を守るかのように顔を伏せ、ハンドスプレーでペンキを発射して応戦する。

しかしラルスの方が素早く、あっさり四肢を切り捨てた。
バブルスがレインコートに隠し入れていた拳銃をサッと取り出して、ガァン、ガァンと容赦なく連射する。
違法改造された銃から発せられる弾は、身体中に向こう側が見える程の穴を空け、仮面も割った。

男は「…あ、イヤ、イヤだ!」と喚くと、割れた仮面を中心に体が一気に黒いペンキになって溶け、じわじわと蒸発する。
同時に男が塗りたくったペンキも一斉に蒸発した。
男が蒸発した跡には仮面が落ちていた。

バブルスはバリアを解除して、
「その仮面はどうでもいいけど、この辺の後処理はまかせろ」と、掃除しながらこの場を去っていった。
実際、彼の方が街を熟知しているから任せた方が良好だ。

エルバートは状況を見てやっと安堵するが、
ラルスは喜ぶこともなく仮面を回収し、早急に帰還した。