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雲の上と下で

ある日、世界は雲の上と下で分かれるようになりました。雲の上と下に分かれたのは突然のことで、なぜ上と下に分かれたのか誰も知る人はいません。どういう基準で上に行き、下に残されたのか誰も分かりませんでした。ただ一つ違ったのは雲の上にはたくさんの資源やモノが無限にあり、下はモノが限られた有限の世界でした。上の人たちはモノが無限にあるのでお金や食べ物、自然資源を湯水のごとく使い生活をしました。いっぽう、下の人間たちはモノが限られているので細々と大切に使いながら生活をしました。

しかしある日、とうとう下の世界のモノが無くなる日が来てしまいました。そこで下の人間たちは、上の世界にモノが無くなり生活に困っているのでモノを分けてほしいとお願いをしました。雲の上の人間たちは下の人たちが困っているのを聞き、モノを分け与えようと考えました。しかし上の世界から下の世界にどのようにモノを渡せばいいか分かりません。上の世界の人たちは困ってしまいました。そこで、上の世界の人たちはどうすれば下の世界にモノを渡せるのか、その方法をみんなで真剣に考えました。ある人はとりあえず上からモノを投げればいいと言い、ある人はそれではモノが壊れてしまうといい、ある人はなぜ下の人間にモノを渡さなければならないのかと言いました。話し合いは毎日のように行われましたが、どの方法が一番良いのか一向に決まりません。下の世界の人たちはその話し合いの様子を眺めていましたが、いつまでたってもモノを渡す方法が決まらないので下の世界の人々はどんどん生活に困り、疲弊していきました。そして下の世界はみるみる治安が悪くなり、強盗や殺人などがたくさん起こるようになり、絶えず争いがある毎日になりました。

これではダメだと思った下の世界の人たちはみんなで話し合いをしました。ある人はどうにかしてみんなでモノを分け合おうと言い、ある人は働いていない怠け者にはモノを分けないで良いと言い、ある人は障害者は役に立たないからモノを分けなくて良いと言いました。こちらも話し合いが毎日のように行われましたが、良い考えは決まらず毎日がただただ過ぎていきました。下の世界の人たちはいよいよ話し合う余裕も気力もなくなり、ただ餓死していく者、人を殺して食べる者たちで溢れかえり下の世界の秩序はなくなってしまいました。

そして数年後とうとう上の世界では毎日の話し合いの結果、下の世界にモノを渡す奇跡の方法を考えつくことができました。上の世界の人々はようやく下の人たちにモノを渡せる日が来たと大喜びし、その日はどんちゃん騒ぎをしました。そして次の日、上の世界の人間たちは下の世界に行き、モノを渡しに行きました。しかしそこには人間の姿ひとつ見つけられず、荒れ果てた広大な大地がただただ目の前に広がるばかりでした。

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