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カジノ・万博は〈負の遺産〉確定。:『カジノ・万博で大阪が壊れる 維新による経済・生活大破壊』
書評:桜田照雄、高山新、山田明『カジノ・万博で大阪が壊れる 維新による経済・生活大破壊』(あけび書房)
本書は、3人の学者が「財政」の面から、大阪・夢洲に建設される「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)」と、それに先駆けて開催される「2025大阪・関西万博」の問題点を、明らかにした本である。
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数字が苦手な私でも、ひととおり理解することができたので、決して難しい本ではない。
だが、読了後は「やっぱり、こんなことだったのか…」と、ウンザリさせられる情報が、満載である。夢洲での「大阪万博とIR」は、大阪の将来に禍根を残す、「負の遺産」になること間違いなしなのだ。
○ ○ ○
「大阪万博とIR」は、何のためのものかと言えば、無論、大阪の経済的浮揚策である。だが、それが、そのお題目どおりにうまくいくと考えるのは、あまりにも甘い。
万博にしろIRにしろ、問題は山積しており、プロジェクトを立ち上げるために、あらかじめ描いて見せた「バラ色の夢」など、所詮は「おとぎ話」にすぎず、現実には、後から後から問題が噴出しているというのが、例によってのパターンなのである。したがって、最初に描かれた「バラ色の夢」どおりにはいかないし、すでに、うまくいっていないという現実への認識と覚悟が、大阪府・市民には必要なのだ。
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例えば、なぜ、夢洲に作られるのが、単なる「カジノ」ではなく、「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)」なのか、この違いの意味が、おわかりだろうか?
これは、基本的に国家予算をつぎ込んでまで「博打場」を作るわけにはいかないから、アリバイとしての「公益性」をアピールするための「粉飾」が施されている、ということなのだ。
つまり、単に「カネが落ちて、地域が潤いますよ」というだけではなく、「巨大会議場」や「巨大展示会場」あるいは「各種娯楽施設」などが併設されることで「(金儲けだけではない)公益性の高い施設になる」ということでなければならなかった。だから、単なる「カジノ」ではなく「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)」だったのである。
だが、これは、公共事業として認められるための「きれいごとの建前」であって、本音は「カジノで金儲け」にあるのだから、周辺施設は「アリバイとしての付けたり」でしかない。だから、コロナ禍によるインバウンドの落ち込みと、その完全なる回復に暗雲が垂れ込める中、「金儲けにならない施設」の規模は、すでに大きく縮小されつつある。
『 まず注目すべきは、設置される賭博ゲーム・マシンの台数です。世界最大規模のカジノであるべネチアン・マカオでも設置台数は1700台程度でした。コロナ禍の影響下にあった2020年では、3万7400㎡のカジノフロア設置されているのは920台のスロット・マシンと620台のカジノ・テーブルです(2020年度同社アニュアルレポート)。
これに対して夢洲カジノには、なんと6400台も設置されます。これでは巨大なゲームセンターができることになり、当初もくろんでいた海外富裕層ギャンブラーの誘客はおぼつかないでしょう。パチンコという擬似ギャンブルマシンに馴れ親しんできた日本人をターゲットにしているとしか考えられません。実際のところ、オリックスの担当者は以下のように述べています。
「もともとインバウンド等を勘案した上で数年前からやっていたが、今は客は全員日本人、日本人だけでどれだけ回るか、その前提でプランニングを作っている。10年、20年て何年くらいやれるかと言うこともあるが、十分10%以上のIRは回せることを前提に試算している。MGMは我々の資産の約2倍の数字を出してきているが、私どもはあまりあてにしていない。我々のコンサバティブな数字を作った上で、日本の投資家だけで、日本の顧客だけでやってみて、そのくらいのレベルになるだろうということで今進めている」(大阪市会参考人質疑での答弁)』
(P68〜69)
『巨大なゲームセンター』とは、なんと悲しい言葉だろう。
「カジノ」と言えば、私たちは映画に出てくるような「豪華でオシャレな空間」をイメージする。また、そういうイメージを演出するからこそ、富裕層も集まってくるのだが、効率的にゲーム機を並べたような空間では、少々「豪華な内装」にしたところで、その「貧乏くささ」を覆うべくもなく、目の肥えた富裕層が「大阪の貧乏人向け巨大ゲームセンター」になど、鼻も引っ掛けないというのは、目に見えた話なのだ。
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それに、日本人向けということは、当然のことながら、その中心となるのは「地元の大阪人」だというのも、論を待たない。ということは、カジノ企業が地元の大阪から博打で巻き上げたカネの一部が、大阪にも落ちる、ということでしかない。一一これで、大阪が潤うだろうか? 日本が潤うだろうか?
無論、大阪は、潤うどころか搾取されるだけであり、しかもギャンブル依存症を大量に発生させて、その対策費まで府税・市税から出さなければならなくなる。
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だが、だからと言って、上のオリックス社員の見解を、非難するわけにはいかないだろう。彼が言っているのは、横合いから参加して派手に煽った後、美味しいところだけかじって早々に逃げてしまうであろう外国企業の話など、真に受けるわけにはいかず、長期にわたってのカジノ経営を担わなければならない日本企業としては、リスクを取らず、手堅く「商売」を進めていかなければならないということなのだ。それが事業主体としての、当然の責任だからである。派手に立ち上げたはいいが、その後で簡単に破綻してしまうわけにはいかないのだ。
つまり、今の段階ですでに、「カジノ」についての「バラ色の夢」は、破綻していると言っていい。そして大阪にとっては、今の計画段階ですでに、「負の遺産」になっていると言っても、あながち間違いではないのである。
では、なぜこんなことになってしまったのか。その責任のかなりの部分は、松井一郎知事(当時)の「命令」にある。
仮にそれが、形式上は「命令」でなくても、実質的な「命令」であったからこそ、交通アクセスの悪さなどから、当初は「候補地」にも挙がっていなかった夢洲が、松井の鶴のひと声的な「提案」によって、実質的に決まってしまったりはしなかったのである(それは、現在進行中の、初の「維新の会・代表選挙」で、松井が後継指名をしたことにより、実質的に後継代表が決まってしまうのと同じことである)。
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松井としては、「負の遺産」の一つであった夢洲を「この機会に」(「夢洲における国際観光拠点形成や大阪ベイエリアの活性化」「関西経済の成長や観光産業の底上げに寄与し、もって我が国全体の観光及び経済振興の起爆となることを大いに期待したい」など)と考えたのであろう。
だが、専門家の意見に耳を貸さないスタンドプレイの独断の結果、当初予想していなかった「軟弱地盤」や「汚染土」問題の浮上に対し、ニュースにも大きく報じられたとおり、巨額の税金を投入せざるを得ないことになってしまったのだ(しかも、その額が、今後どこまで増えるかは、作ってみないとわからないのだ)。
当初松井は、契約を済ませれば、あとは企業から上がりをいただくだけで「税金を投入することはない」と明言していたのだが、コロナ禍の影響で、カジノの経営主体となる企業の立候補が1社だけになってしまい、いまさら彼らに逃げられるわけにもいかないので、彼らの言い分を呑まなければならなくなってしまった。
こうなれば、それはもう、大阪経済の活性化のためと言うよりも「松井一郎のメンツ」の問題でしかない。言うなれば「俺にカネを貸せ。絶対、何倍にもして返してやるから」と大阪府・市民から預かった虎の子のカネで博打を打ったところ、しっかり目論見が外れてスってしまい、このまま負けを認めたのではメンツ丸つぶれだから「もう少し出せ。そしたら、将来的には確実に回収できるから」と言い出して、さらに博打にカネを突っ込むようなものなのである。
そして、その意味でも「カジノ」は、すでに「負の遺産」になっているのだ。
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では、「万博」はどうなのかというと、これはもともと開催期間が半年ほどのものでしかないから、これ単体では、永続的な収益にはならない。だが、これが必要だったのは「夢洲カジノ」と合わせてオープンすることで、「夢洲カジノ」を世界に売り込むための、いわば「前座的な抱き合わせ商品」だったのである。
ところが、コロナ禍の影響で、カジノのオープンが万博に間に合わなくなってしまった。その意味でも、万博の開催意義は薄れたと言っていい。
実際、舞洲で万博をやったからといって、半年ほどのイベントだけで、大阪のインバウンドが従前の状態に戻るなどとは、誰も考えていないだろう。だが、万博は、いつまでも先延ばしにするわけにはいかなかったのである。
その結果、万博とカジノの連動作戦は失敗し、カジノも、当初の「派手な夢」は、完全に「夢」と消え、後に残るのは、身内(日本人)からカネを巻き上げるだけの(その意味で「負の遺産」でしかない)カジノと、「負の遺産」そのものになるしかない、その他の付属施設なのである。一一これに、大阪府・市の巨額の税金が投入されるのだ。
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(「2025大阪・関西万博」のイメージキャラクター「ミャクミャク」。「コロシテくん」ではない)
だから、今からでも、万博やカジノを止めさせなければならない。
無論、これまでに投入した莫大な税金は、無駄になる。
だが、だからと言って「追い銭」をして、わざわざ永続的な「負の遺産」を作る愚行よりは、ずっとずっとマシなのだ。
これまでに遣った「死に金」は、「維新の会」を選んだ大阪人の負うべき「自業自得の罰金」だと反省し、ここからは、文字どおりの「未来志向」において、「大阪万博」と「カジノ」を止めなければならない。
仮に、「大阪万博」が止められなくても、将来に禍根を残す「負の遺産」たる「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)」だけは、絶対の止めなければならないのである。
ともあれ、ここに書いたのは、本書のごく一部分の内容について、私なりに論じたものに過ぎない。
だから、「大阪万博」と「カジノ」に、反対であろうと賛成であろうと、本書で示された事実を知った上で、大阪の未来を考えてほしい。今のままで「なんとなく、うまくいく」なんてことは、金輪際ないのだ。
(2022年8月19日)
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