愚痴しか出ない私の故郷　#この街がすき

私の故郷は微妙な田舎

全く何も無いわけじゃないが、程々に何も無い。
商店街は寂れているし、CMで見るようなチェーン店なんて無い。

私の故郷は坂の町

平らな場所なんてほぼなくて、坂が普通の道なのだ。
急坂ばかりで、自転車を持っている人なんてほとんどいない。
乗れる人も少ないのかも。

実家はこの町の1、2を争う急坂で。
初めて車で来る人はこの坂が怖くて上がれない。

私の故郷は海がある

海風がベタベタして嫌いだ。
生まれた時から毎日見る海に何の感情も無い。

私の故郷はたくさん虫がいる

春前から蝶が飛び始めて家に入ってきたり、
梅雨になればムカデの殺虫剤を撒き、
夏はとんでもない脚力の黒光りするGと格闘。

コバエは凄いし、
デカすぎるカマキリと玄関でにらめっこ。
バッタはバッタのサイズを通り越しているし、
夜のゴミ捨て場や自販機にGと一緒にカブトムシが紛れていたり。
カナブンが飛んできたと思って叩いたらクワガタだったり。

秋になれば夜ずっと鈴虫やらコオロギが延々と鳴いてるし。セミは長すぎね？と思うほどに鳴くし。
スズメバチは年中ブンブン飛んでてまじ勘弁。

私の故郷は動物がいる

近所は野良猫の集会のようにわんさか猫がいる。
盛りの時は赤ちゃんのような鳴き声が夜中ずっと響いている。

鳥が多い。
スズメやら燕やら名前の知らない青い鳥やらカワセミっぽい奴やら
チュンチュンチュンチュン。
窓を開けると家に入ってきてしまう。

冬は猿が山から下りてきて。
急いで玄関やら窓やら閉める。猿が窓にベタっと張り付いてくる。
隣の家からガッシャーン！と酷い音。
留守しているお隣さん。
開いてる窓から猿に入られてめちゃくちゃだろうに。

少し上に上がればもう山で。
イノシシやら狸やらが道路を渡ったり。

私の故郷はどこにでも植物がある

庭付きの家も多いから、そこら中に植物があって
雑草も逞しくコンクリートから顔を出す。

近所のおばさんちはバラ園のようで。
いつも蜂がブンブン飛び回り怖い。
近所のおじさんちは枝垂桜があり、道路にはみ出ている。
いつも車がとおりづらそう。

最寄りのバス停にソメイヨシノの並木があって。
葉桜頃に芋虫の警戒をする。

ブロッコリーのような木の森に囲まれて、花粉が目に見える。

こんなのが当たり前で。


もう
愚痴しか出ない私の故郷。

私は引っ越したーーー

引っ越した場所は
実家よりも凄く都会で。

電車はすぐに来て。
道路は平らで、坂が少なくて。

徒歩でコンビニもスーパーも行けて。
夜も街灯で明るくて。

夜中の終電でも沢山の人が乗って、降りて、歩いている。

人間ってこんなにいるのかと思うほどに満員電車で。

全然違う世界に来たーーー

3月になっても視界の色が変わらない。
ここに桜がいない。

バス停の桜はもう満開だろうか。
おじさんちの枝垂桜はそろそろ芽が開いてきた頃合いか。

蝶が飛んでいない。
バラ園のおばさんは今日もセッセと蜂と格闘しながら、庭いじりしているのだろうか。
気付けば春は過ぎようとしていた。

そうか。
梅雨前のムカデ殺虫剤はもう撒かなくていいのか。
母はちゃんと撒いただろうか。

虫を、目にする機会は減った。

目にするのはまぁ、いわゆる害虫と呼ぶ者達で。
君達はこちらにもいるのね。

夏の夜、マンションの外壁にへばりつくGと遭遇。
マンションの光に照らされたその光沢は、、、
黒光りしていなかった。
茶色くて、薄い。
そして小さい。
そしてそして、鈍い。
お前、そんなんじゃ田舎で生きていけないぞ。
私は都会の貧弱なGに忠告をした。

秋の夜は静かだ。
鈴虫もコオロギも勘違い蝉も鳴いていない。

鳥も見なかった。
いるのはゴミ捨て場を漁る、黒くデカいカラス。
田舎よりもゴミ漁ってね？

小さくチュンチュン鳴いていた鳥は
もちろん窓を開けても入ってこない。

そういえば猫もいない。
野良猫会議はどこでしているのか。
いつも玄関を開けると勝手に入ってくるホルスタイン柄猫は
今も縄張りを守れているのだろうか。

冬になっても猿の心配もない。
掃除機をかけながら電線が揺れているのをもう確認しなくていいのだ。

住みやすいな、都会は。
人間ばっかりだ。

なんもないな。

まさか海を見ない日が来るなんて。
ブロッコリーの山を見ない日が来るなんて。

視界で見る景色と裏腹に
脳はその景色を見ようとせず。

刻まれてしまっている景色を
私に見せようとうるさい。

色の無い世界に来て初めて
あそこに色があると知ってしまったよ。

引っ越して考えるのは
愚痴しか出ない故郷ばっかりーーーー

#この街がすき