ボリショイ劇場で《イオランタ》を観たあと《イヴァン雷帝》を見た(2019/10/06)
・ボリショイ劇場には学生当日券があり、10時から新劇場の方の入り口で100ルーブルで余った件のチケットを発券してくれる。ふつうに買うと5000ルーブルくらいはするので、学生の特権を思いっきり振りかざしてチケットを買う。
・新劇場の方のマチネ(昼公演)でチャイコフスキー《イオランタ》を観る。1892年作、昨日の《スペードの女王》よりさらにのちの作品。チャイコフスキー最後のオペラだ。
・学生券だと3階席の立ち見席に通されることが多いのだが、今日は余っている席が多かったのか、2階席の結構いい目の席に座れた。ヘッダ参照です。下手の方があんまり見えないが、演出上下手では人があまり動かないので、そんなに問題はない。
・序曲がわり(?)に《くるみ割り人形》組曲が演奏されたが、意図がよくわからなかった。イオランタはすでに舞台上に現れているのだが、割とじっとしているし。曲順もよくわからず、序曲→葦笛→トレパック→花のワルツの順で4曲。短いオペラなので余興がわりにということかもしれない。日曜マチネで子供も多くいたし、親しみやすい曲で没入を図る試みかも。
・舞台上には真ん中に仕切りのある木組みの家が建っていて、下手側は真っ黒に塗られ、上手側は明るい。イオランタは目の見えないお姫様なので、当然下手側の方に一人でいる。そのほかの登場人物は舞台に向かって右半分に集中している。途中で、家の決まりを破ってイオランタに色や光を教える闖入者=ヒーローが出てくるのだが、彼だけが下手側の黒い部屋に入ることができる。ラストシーンではこの部屋が大きく動き、舞台の進展を告げる。省予算だが面白い演出だと思った。
・1幕4場もののオペラだが、第2場と第3場の間に休憩が入る。
・それぞれの役者がアリアを歌うごと盛大にブラボーを浴びていた。何より声がすごくいい。持って生まれたものは強い…レネ(バス)は声量と深みがすごかった。
・あきらかにサクラか演者の親族かと思われるご夫婦が隣りに座っていて、ある一人の役者がアリアを歌ったりカーテンコールで登場するときだけ拍手をし、ブラボーを飛ばしていた。だけっていうのが面白く、不思議な味があった。その演者も普通にブラボーが飛んでも決して不思議でないような出来で、サクラもいらんだろうと思ったのだが、その二人の明らかにオーバーな「ブラボー」の雄叫びで、ちょっぴりその役者に対する興がさめてしまった。不思議な時空間だった。
・時間があったので、午後も待ってバレエ《イヴァン雷帝》のチケットを買う。こちらはよく写真や絵画に出てくる有名な大劇場のソワレ公演(要するにОсновная сценаというやつです)。立ち見席で、3時間ほど起立を要求されるが、これも100ルーブルなのは端的に言っておかしい(仕事やタスクは色々あったけれど合間の時間にちょっとずつこなしているのでお許しください)。
・音楽はプロコフィエフの映画音楽《イヴァン雷帝》、カンタータ《アレクサンドル・ネフスキー》、《ロシア序曲》、交響曲第3番を組み合わせたものだとのこと。シーンごとに音楽がしっかり合っていて、主要人物の喜怒哀楽、そして狂気にしっかり寄り添っていた。
・席は7階の立ち見席。正直端っこの方だと何も見えないぞ。上手に位置取りをするのがコツだ。
・まだ目が肥えていないので、バレエの良し悪しをはっきり判断できる立場ではないのだが、凄まじく良かったのではないだろうか。オケの鳴りもアンサンブルもほぼ完璧だった。おれたちがロシア音楽を牽引しているんだという誇りすら感じる演奏だった。舞台上のダンサーも、難度の高いであろう動きをこともなげにやって見せていて、だからこそストーリーの起伏が大いに際立っていた。タイトルロールは特に終始舞台に出ずっぱりに近く、しかも激しい動きも多いのだが、最後まで息切れひとつせず、長大な演目をこなしてみせた。
・白眉は第二幕の悲劇的なシーンだろうか。愛した亡き妻のまぼろしにイヴァン雷帝が寄り添い、葛藤する。この場面では合唱も入る。
・いやー、本当にいい一日だった。
・というときにはオチがつく。なんと興奮しすぎて、《イヴァン雷帝》のプログラムを客席に置いてきてしまった。なんて惜しいことを……とても悲しい。誰か慰めてくれませんか? 今度行ったときに買い直そう。
・悲しみに暮れる音楽学者にご支援を。こういうとき、どういうふうにお願いしたら良いのかわかりませんね。色々撮った写真をおまけに。
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