#34 デザインの模写。その題材の選び方は?デザイン学習者とデザイナーのQ&Aシリーズ③
デザイナー夫がオンラインで開催している「デザインの出前授業」Q&Aセッションを観察する【デザイナーの妻】が、「よくある質問」を選んでレポートするシリーズの3回目です。今回は「模写」についての質問を取り上げます。
デザインの学習における「模写」
デザインの学習者にとって「模写」は、観察力を養うためにとても大切な訓練です。目の前にあるものを本当の意味で「見る」ことができるようになるためです。
模写は、イラストやタイプフェイスをトレースしたり、ポスターや絵画を模倣したりすることなど、多岐にわたります。模写をするのは手描き?イラストレーター?使い分け?答えは使い分けです。
・手描き:タイプフェイスは鉛筆やペンを使って、手描きでトレースし、体で覚えます。絵画を模写する場合は、スケッチブックに鉛筆でデッサンしたり、絵の具を使ってキャンバスに描いたりします。
・イラストレーター:ポスターなどは構造を理解するためにアドビのイラストレーターを使って模写することもあります。
質問③良いデザインを模写したい。題材はどのように選べば良いでしょうか?
講座の中では「デザインを学ぶ過程において、良いデザインを真似することはとても良いこと」という話をします。「え?真似していいの?」と思われる方も多いかもしれません。デザイナー夫はレクチャーの中でこう付け加えます。
誰かの真似をするのは良くないことでしょうか?日本では「真似をするのは良くない」と言われることがあるかもしれません。でも結論から言うと、勉強のために模写するのは良いことです。もちろん、真似した作品を自分のものとして発表してはいけません。でも、美味しい料理を食べたことがなければ良いシェフにはなれないのと同じように、デザイナーは良い作品を徹底的に見る必要があります。良いデザインや作品を手を動かして模写することで徹底的に観察し「良いデザイン」を目を通して味わい、身につけていくことができます。
それで、「じゃぁ、どんなものを模写すれば良いのでしょうか?」「自分の好きな作品を模写すれば良いですか?」「題材の選び方にヒントを下さい」と言った質問が寄せられるのです。
デザイナー夫の答え
「良い質問ですね!」デザイナー夫はそう言ってから、「模写のための題材選びには注意すべきポイントが2つある」と言います。
ポイントその1:模写をするならマスターの作品だけ!
何を模写しようかと考える時、まずは街中で目を引くものや、自分の好きなものを手に取るかもしれません。が、自分の好きな絵やデザインが必ずしもお手本にすべきものとは限りません。大事なのはそれが「マスター」(=巨匠)レベルの良い作品であることです。
「見るものが変わると、作るものは変わってきます」とデザイナー夫は言います。美大で学生たちを教えていて、作品がどこか垢抜けない子はあまり良い作品に触れていない、逆にずば抜けて垢抜けたデザインをするような子は巨匠と言われる人たちの素晴らしい作品をたくさん見ている、とのことです。
ポイントその2:お手本は一人に絞らないこと!
「気に入ったマスターを一人だけ徹底的に学ぶ」のではなく、何人かのマスターの作品を観たほうが良いとのことです。デザインの歴史を築いてきた巨匠はたくさんいます。
となると、次に出てくる質問は・・・
お手本にすべき良いデザインはどこにある?
ヒントは、デザイナー夫の昨年11月のTwitterでのつぶやきにありました!
・デザイン年鑑
デザイン年鑑は、空間デザイン、グラフィックデザイン、Web制作、パッケージデザイン、デザイナーズファイル…などたくさんの種類があります。それぞれ、「今」きているデザイナーたちの作品を見ることができます。
・デザイン史を紐解く
デザインの歴史…と言ってもどこから始めようか?そう思われるかもしれません。「まずはスイスインターナショナルから始めると良い」とありますが、これは「スイス・スタイル」というグラフィックデザインの様式(スタイル)のことで、別名「国際タイポグラフィー様式」と呼ばれているものです。
1950年代にスイスで発展し確立された様式で、「デザインそのものの考え方である」とデザイナー夫は言っています。グラフィックデザイン業界に大きな影響を与えたそのスタイルの勉強から始めると良いみたいです!
デザインの歴史を学ぶと、その歴史を築いてきた巨匠たちの考え方を学ぶことができ、彼らの偉大な作品に出会うことができます。歴史を紐解く上でデザイナー夫がおすすめしている本は、「Graphic Design Theory-グラフィックデザイナーたちの理論」(ヘレン・アームストロング)です。
デザイナー夫は、この本を【伝説的デザイナーたちの思考を知るための一冊】と紹介します。グラフィックデザイン界の巨匠たちのエッセイ集です。ここで出会う巨匠たちの作品に触れてみるのはいかがでしょうか。
ちなみに、デザインの考え方を学ぶために、デザイナー夫がおすすめしている本は他にもあります。noteの記事がありますので、厳選された本の紹介をご覧ください。ここに挙げた本も含まれています。
・美術館へ行こう!
先ほど書いた、ポイント1:模写をするならマスターの作品だけ!の補足として、デザイナー夫が勧めているのは美術館に行くことです。美術館には、大勢の人の目に触れる素晴らしい作品がたくさんあり、模写をする題材としては最高です。本当は、その場に道具を持ち込んで模写をするのが一番良いのですが・・・
この点、日本では美術館に自分の絵道具を持ち込んで模写するという作業は難しいかもしれません。ニューヨークの美術館には、絵画や彫刻像の前に座り込んで模写をしている学生たちをよく見かけます。デザイナー夫自身も、学生の頃はよく美術館に通って絵を模写したそうです。
美術館で模写の作業そのものができないとしても、原則は同じです。「マスター」の絵に触れること、そして良い作品にたくさん出会うことです。美術館に通うと、色々な時代のマスターの作品を鑑賞することができ、デザイナーにとって大切な観察力を養うことができます。
以上、今回はデザインを独学で学んでいる方や、スキルアップを目指して励んでおられるデザイナーの方から寄せられる、「模写」についてのQ&Aでした!今回のレポートは、観察日記#17で取り上げた内容のおさらいと続きです。観察日記#17では、漫画を模写する話も出てきます。よかったらご覧ください。
デザイナー観察日記#34、読んでくださってありがとうございました。
デザインの出前授業、デザインの仕組み【後編】では、グラフィックデザインの基礎を学ぶことができます。タイポグラフィーの型についても扱われますので、模写について知りたい方にお勧めです。
見出しの画像に使わせていただいたのは、なのなのなさんのイラストです!