脱走電車
今週、引っ越しをしてきた。
少しの間実家に居候をして、
人生season2の構成を考えてから東京へ出発する予定。
ちなみに自分の人生ながらまだ筆すら握ってない。
あえて、ね。あえて、ですからね。これは。
大事なことなので二回言いました。
今日はお世話になっていた人と
数年ぶりに飲みに行っていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので
気付いたら最後の電車が出発する
までもうあと数十分いう時間になっていた。
名残惜しくもそれぞれの最寄りの路線に向かう。
改札でお見送りをしてから
ほろ酔いで気分が良さそうなお兄さんから
もうあと一歩でおしまいになりそうなベロンベロンおじさんまで様々なメンツが揃っている飲み屋街をひとりで歩く。
鞄の中で通知音がピコピコと鳴る。
スマホを片手にとってみると
一ヶ月前まで働いていた会社のグループLINEだった。
「アルバムが追加されました」という文言と共に
居酒屋で撮った写真が何枚かアップされていた。
そういえば、今日飲み会するって言ってたなあ。
みんな楽しそうにしていた。
私がまだあの場所を離れていなかったら
この画面の中で笑っていたんだろうか。
その私は本当に笑えているんだろうか。
トーク画面を消してスマホを鞄の中に放り込む。
四方八方から現れる酔っぱらいを
上手い具合に交わしながら通りをずんずん歩く。
JR線の改札前で切符を買う。
赤ら顔で語り合うサラリーマン、
仕事の疲れで正気を失っているOL、
この時間まで勉強していたのであろう高校生、
電車が到着するや否や
皆一目散にえんじ色の座席に雪崩れ込んだ。
私も座りたかったのでえいこらせとドアの入り口を強く踏みしめ駆け込んだけれど、全然座れた。
ていうか全員座れていた。まばらに空席もある。
地方の電車はこういうもんだ。
母親から迎えに来くね、とLINEが来た。
遅くなってごめんよ、と思いながら座席にだらんと背もたれて瞼を閉じる。
23:33。
車掌のアナウンスとともに、最終電車が動き出す。
「良かった、今ここにいて」
ようやくあの場所から脱出できた、と思った。