245.財布夢
2021.1.5
ヨーロッパの某所にかつてあった某国は、中世末期から近世にかけて400年間鎖国状態であった。
国民全員徴兵制で、高度な訓練を受けていた国民たちは、鎖国状態が解消された後は、傭兵として重宝され、やがて散り散りとなり、今ではかつて国が存在した場所も判然としない。
が、その独自の言語や文化、軍需技術はひそかに、脈々と伝えられていた。
夫が白い財布を拾ったと言う。
中にはまとまった額の紙幣が入っていたと。
私たちは、金銭的に恵まれず、カツカツの暮らしをしていた。
夫は、財布に入っていた紙幣で、仕事をするためにどうしても必要であった自転車を買ったという。
そして、まだ残額がだいぶ残っている財布を拾得物として警察に届けてくれと言う。
中に、中野某という名刺が入っていたので、落とし主はすぐに分かるだろうと。
何枚かの紙幣がなくなっていても分からないだろうと。
私は交番に行った。
交番は混んでいた。
女の人が財布を落とした!と血相を変えて飛び込んで来た。
「中野さんですか?」と尋ねると、それは中野さんではなかった。
財布も夫が拾ったのとは違うところで落としたと。
お巡りさんが本署からかかってきた電話の応対をしていた。
財布を落としたという男が警察署に来てまくしたてているのだけれど、その男の話す言葉が何語なのかさっぱり分からない。
英語や中国語でないことは確かなのだが、と。
私はそれは、遠い昔に滅んだ某国語ではないかと思う。
この白い財布は某国の人が落とした物では。
何か恐ろしいことに巻き込まれるのではないか…。
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