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捨てられないはずのTシャツ

夏の陽気に誘われたかと思えば春というよりは冬に近い冷え込みに逆戻りして、うっかり初夏と勘違いしたわたしの脳みそは低気圧に追いやられて今日も頭痛がする。最近は頭痛から吐き気がすることが増えてまた頭痛外来のお世話になるのかな、なんて思いながらもまだ授乳は続いておりわたしのからだは自分のものになっていない借り物だったことを思い出して諦める。

季節の変化を感じたので、衣替えでもしようかとクローゼットを開く。定期的に断捨離しているせいかそんなに服は多くない。服についてはあっさり手放すことが出来るタイプなので手持ちがあまり数多くないのだが、それでも思い入れのある手放せないものが何着かあるような。

クローゼットを覗き気を緩めた時にある夏の記憶が蘇る。徐々に空が白じむ様子を横目に、夜明けを誰かと迎える。青春みたいな眩しい朝なんてもう来ないだろうね。明け方、気怠げに起きて何も考えられない頭でぼうっとなにがあったかを思い起こす。まるでシンデレラみたいに魔法にかけられていた時間があって、魔法の効力は明け方に消えちゃうんだって。あれ、魔法が解けるのは明け方じゃないんだっけ。何時だっていいや。きっとあれは夢のような時間だったのだから。恍惚とした表情で朝を見送り、そこにあった温度と湿度を噛み締め、暑くてTシャツをベッドに投げ捨てる。エアコンをきかせたまま素肌で布団に潜り込んで微睡む。あの夏もう一度どこかで来てくれたりはしないだろうか。そうだな、待ち合わせはTSUTAYA前がいい。TSUTAYA前で黒いTシャツを着ているから迎えに来て。

あの時のTシャツはどこにいったのだろう。かけられた魔法が解けて、そのTシャツも手放してしまったのだろうか。