水面月

沈みきった底から見上げる空って
その場に落ちるときは真っ暗闇でも
段々と目が慣れていって
クリアになって映し出してくるものがある
あの白く歪んだ月だって
本当はもっと美しくて

僕が見たことがあるその月は
僕が浸かる黒水面に揺れる月だった
船が傾き底が顔を出すときには
僕らはもっと水底へ

冷たく淀んだ水が
僕らの呼吸を奪い去るように
在りし日の僕らを奪い去った彼らを
あなたは赦すことができるのだろうか

ゆらゆらと笑うように揺れる水面月は
今のあなたを優しく包むことができるだろうか
同情にも似たその笑みを消し去るように
水面を弾く僕の手のひらには
黒く冷たい水が「行かないで」と縋り付く

いいなと思ったら応援しよう!