ハロー・リカード
「限られた時間を『長所』と『短所』のいずれに振り向けるべきか」というテーマに関する結論は、一応得られていると言って差し支えないだろう。
その結論とは、無論「長所」である。詳述は控えるが、主張の最たる根拠は「ハロー効果」という認知バイアスを絡めた視点だ。
ハロー効果(ハローこうか、英語: halo effect)とは社会心理学の用語で、ある対象を評価する時に、それが持つ顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる(認知バイアス)現象のこと。後光効果、ハローエラーともいう。例えば、ある分野の専門家が専門外のことについても権威があると感じてしまうことや、外見のいい人が信頼できると感じてしまうことが挙げられる。ハロー効果は、良い印象から肯定的な方向にも、悪い印象から否定的な方向にも働く(wikipediaより)
しかし、こう「長所だ」と言いきってしまうと、「いや、短所を改善した方が良い場合もあるはずじゃないか」と訝しく思うかもしれないし、それを否定するべくもない。例えば、短所が長所の両の足枷となってしまっている場合は、早急に短所を改善する必要がある。他人との距離を縮めることを得意としていても、ついつい人の内面を傷付ける決定的言動をとってしまい、ポジションを振り出し以前に戻してしまうこと等はその典型だ。この種の短所はほんの少しの心がけで大幅に緩和でき、効果も大きい。力を注ぐ価値がある。
といって、貴方だけに1日48時間が与えられているわけでもない。だから「さて、どの列から手を着けようか…」とまるでインベーダーゲームをプレイするかのように思考することもまた、得策ではないのだ。
特徴の無い人間には、何かを頼む時のスポットライトは当たらないものだ。我々が弁護士に求めるのは「チャーハンのパラパラ感」ではないし、医者に求めるのは「リフティングの回数」でも無い。勿論、趣味や特技としての料理やスポーツが、円滑なコミュニケーションの促進に寄与する可能性もあるのだろうが、第一の特徴たるパラメータをそちらに振り向けて良い、ということにはならない。しつこいようだが、老若男女、誰でも富士山を知っているのは、詰まるところ富士山が日本一高い山だからだ。その高さを削って他の魅力を取って付けたとて、もはやその地位は「北岳」の後塵を拝すのみである。
長所の件は「貿易」の観点からも一考の価値がある。
貴方が今この瞬間に「経済学」に毛ほどの興味も無いとして、それでも記憶して損の無い知識がいくつかある。英国の経済学者D・リカードのシンプルかつ本質的発想(「比較生産費説」)は、時を超えてトランプ米大統領と静かな戦いを繰り広げている。
何も小難しい話、ということでもない。例えば、この世に「nemutai国」と「nemutakunai国」の2つがあり、それぞれの国の労働力(時間)辺りの生産高が以下の通りだったとする。
【nemutai国】
・小麦 10㌧/時間
・米 20㌧/時間
【nemutakunai国】
・小麦 40㌧/時間
・米 20㌧/時間
それぞれの国が自国内でそれぞれの産品を生産し、40㌧ずつ得るのにかかる時間の総和は延べ9時間だが、得意な方に特化して1:1の比率で貿易(交換)できるとすれば延べ6時間で済む。最小の労働時間で最大の成果物を得る方法は、自分で全てをこなすことではない。つまりそれは、「特徴を交換し合う」ということだ。
各国の「生産性」というものを、ある尺度で試算すると、日本は「スロベニア」という国と同じくらいなのだそうだ。それを聞いて、「まぁそんなものだろうな」とも思うし、同時に「いやそんなはずもないだろう」とも思う。「スロベニア」という縁もゆかりも無い国名が、虚実入り交じった戦略的アプローチに寄与している感があるし、残念ながらいつの時代でもこうした方法はそれなりに有効だ。
仕方がないので、真の「生産性」が確立されるその日まで、とりあえず長所の自由貿易を推進していきたいと思う。その事は、少なくともリカード的に思考すれば虚実の「実」の方にあたると言って良いはずだ。
「そんな才能無いのですが…」と問われた時、「そんなことも無いのですよ。」とだけ記載できることは、冷静に考えればとても感慨深いことだ。対面では、そう上手くはいかない。だから、このような場で思考をパッケージ化しておいて、引き出しにそっと仕舞っておくのだろう。
どこの国に売れるかも知れない特徴を今日も尖らせてゆく。それで良い。目に見えない需要が閾値を越えて顕在化した時、目の前で起こるイノベーション。その一瞬の変化を旅の友として、せっせと自分らしくあれば良いのだ。