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アンラッキーマン

よければBGMに、ジェームス・ブラントの『You're Beautiful』を流して読んで欲しい。
(ユア ビュディフォ〜♪ ユア ビュディフォ〜♪のやつ🥴)




おかちゃんことおかださん

僕が小学5年生で、好きだったえりちゃんにフラれた時には、もうおかださんは芸人を始めていて、大阪で活躍していた。

そんな大先輩のおかださんに最近は大変お世話になっていて、今一番僕が憧れている面白い先輩だ。

おかださんは、マッターホルンの湖の水面より穏やかな性格で、とにかく優しい。
焼鳥と芋焼酎が大好きで、最近バイト中に腰を痛めた徳島生まれの40歳おかっぱ鳴門金時だ。

芸歴10年近く後輩の僕が待ち合わせの時間に30分遅刻してしまう大失態を犯した時には、怒るでも注意するわけでも無く、ちょうど自分も今来たことにして僕に全く負い目を感じさせなかった。

「全然やで〜!僕も遅れてたからちょうどよかった!」と言いながら前を歩くおかださんの背中は、たっぷり日照りが染み込んでいた。

おかださんは虫にも優しい。
ファミレスでハンバーガーを食べていた時、カメムシがおかださんに近づいてきた。
おかださんはカメムシがびっくりしないように動きを止め、カメムシが通り過ぎるまで息を止めて死にかけた。

そんな万人に優しいおかださんだが、なぜだかとにかくツイていない。

おかださんに降りかかる災難を、"おかだ"が炸裂したと言っているのだが、もう今年で何回使ったかわからない。

音楽が聴きたくなり買った有線のイヤホンが不良品で聴こえなかったり、ここオススメやで〜と連れて行ってくれたお店は臨時休業。
(入り口の看板には『365日元気に営業中』と書かれていた)


絶対に馬券を当てるために買った単勝1.1倍の馬は、スタートでゲートから出なかった。

おかださんに確率は通用しない。
もしブレーズ・パスカルの時代におかださんが生まれていたら、間違いなく『確率論』の発明はなかったと思う。

おかださんのお誕生日には、普段行かない飲みスポットとして有名な北千住で飲むことにした。

下調べしたお店に二人でワクワクしながら歩くと、水曜日でほとんど個人経営の居酒屋が閉まっていた。

これは北千住では常識だったみたいだが、普段行かないから知らない、しかも誕生日に、というのがなんとも”おかだ”なのだ。

その後も回っていると、下調べしたところで唯一やっているお店があった。
そこは沖縄料理屋で、お麩のチャンプルや焼き鳥がすごく美味しそうなお店。今までの鬱憤が晴れるような綺麗な海の看板に吸い込まれるように中に入ると、チャラいお兄さんが数人『どうも〜〇〇で〜す!今日は僕たちがこのお店をジャックしました!』と言った。

よく聞いてみると、その日はお店とYoutuberのコラボで特別な日だったらしく、そのYoutuberたちがオリジナルメニューを提供する会だった。

お目当てのお麩のチャンプルや焼き鳥はもちろんメニューにはなく、誰でも作れそうな見た目のスクランブルエッグが出てきた。
絶妙に美味しくなくて700円だったので逃げるようにお店を後にして、結局どこにでもある24時間営業の激安中華料理屋で乾杯した。

”おかだ”に時間帯はない。
朝、昼、晩、いつでも平等に”おかだ”は訪れる。

今年の10月、僕は友人に会いに行くため一人で宮崎旅行を計画していたのだが、飛行機もホテルも予約してしまった段階で外せない仕事が入ってしまった。
泣く泣くキャンセル料を払うしかないと思っていたが、おかださんに相談したら、旅費を全部肩代わりするから代理旅行したいと言ってくれたのだ。

僕は流石に申し訳ないと思ったので断ろうとしたが、おかださんは久しぶりの旅行だと楽しみにしていたのでお願いすることにした。

その旅行前日に宮崎空港で不発弾が爆発して全便欠航になった。

戦時中にアメリカ軍が投下したとみられる不発弾が時を超え、”今”、”このタイミングで”、”突然”、”おかださんの旅行前日に”、爆発したのだ。

僕はそれをXのトレンドに上がっているので知り”おかだ”の味わい深さに心から驚いた。

”おかだ”がすごいのは、どんなことでも怪我人が出ないとこで、不発弾爆発も幸い怪我人は出なかった。

おかださんとよく飲ませてもらうようになってから2年が経ち、"おかだ"にも少し慣れてきた頃、普段あまり大きい買い物をしないおかださんが珍しく「高い革靴を買うねん」と言い出した。

僕はついて行かせてもらうためおかださんと表参道に向かった。
電車でおかださんはまた珍しく「今日の僕はなんか違うねん!まだ一個も"おかだ"が出てない」と言った。

「次表参道やん?いつもなら反対側開くけど今日は絶対こっち側開くで」

こんなに自信満々なおかださんは見たことない。
確かに今日には異変があって、それに気がついたのはおかださんだけではなく、その予感は僕にもあった。

おかださんは電車に乗る前、飲み物を買った自販機で当たりを引いてもう一本ゲットしていた。

こんなのおかださんにはありえない
今日革命が起きるかもしれない!なんか楽しくなって僕は笑った。

おかださんの顔を見たらもっと笑っていた。



表参道に着いた



ゆっくり反対側の扉が開いた


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