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根本宗子版「墓場、女子高生」について、 岩井秀人が根掘り葉掘り聞く会 レポート前編

2019年10月9日〜10月22日までザ・スズナリにて上演された、別冊・根本宗子「墓場、女子高生」。

この作品を観劇した、ハイバイ代表の岩井秀人さんの感想があまりに贅沢で、「是非お客さんの前で映像を見ながらお話したほうがいいのでは」という運びになったそうで

11月10日、ライブハウス新世界にてトークイベントが開催されました。

今回は前後編にわたり、その模様をレポートします。

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お2人でマイクを握って人前でトークをするのはこれが初めて(12月に木馬亭で行われるトークイベントの前哨戦、といった感じでしょうか)

2人の関係としては、半年ほど前に、岩井さんが主宰する「作家部」という劇作家たちの寄り合いに根本さんが“応募”という形で入会したことから。

岩井:デニーズで面接があってね

根本:門を叩いたら入れてくれるもんだと思ってましたよ

岩井:シードすぎて(すでに有名すぎて)落とそうかなって思った(笑)入ってこられたら乗っ取られて「根本宗子の作家部」になっちゃうんじゃないかって怖かったし。チラシも全部ねもしゅーになっちゃったりして(笑)

そこから“「月刊・根本宗子」チラシに本人登場問題“に触れる岩井さん。

岩井:俺はあれはなんとかした方がいいと思うんだよ。チラシきっかけで観に行った人って、どれくらいいるんですか?(会場に挙手を求める)

根本:いますから!ほら、3人くらいいましたよ!

岩井さんが初めて根本さんの公演を観たのは「演劇実験 根本宗子」。本公演は「愛犬ポリーの死、そして家族の話」から。そこでチラシのことがすごく気になったんだそう。

岩井:自分をチラシにするってね、誤解を生むじゃないですか。「“この人“を観に来るタイプ(の演劇である)」っていう風に。特に僕世代の演劇の人たち、というか、僕からするとそう見えちゃうから。全く観たことのない人を取り込めない可能性がある。
僕自身もそうなんですけど、根本さんも「演劇を見慣れてる人たち」は相手にしなくていいと思ってるんです。だから宣伝の中でそういうパンチはいらないと。
それくらい根本さんの作品は、演劇を観たことがない人、「全く世界に参加できなかった人」とか、女性ということで世の中において埋もれて生きなくてはいけない人だったりとか、そういうかなり深い人たちにリーチするものを創っていると思うんですよね。
僕も長く演劇を書いていますから、細かい技術のことで指摘する部分もあるけれど、根本(こんぽん)のところで「ものすごく正しいことをしている」という風に思って。うん、だから、どうしてもチラシのことが…(笑)

その他にも、お互いの過去の話や、共通の話題でいうと松尾スズキさんのお話などを普段はするそう。

岩井:その中でも、やっぱり「墓場、女子高生(以下、「墓場」)」がかなりえぐかったので

そんなわけで今回のトークイベントが開かれる運びとなりました。
事前に岩井さんのツイッターに寄せられたお客さんからの質問に添いつつ(そして大いに脱線しつつ)イベントは進みます。

質問:「もともとなぜこの作品の演出をやろうと思ったの?」

根本:2015年にこの作品の脚本を書いた福原充則さん演出の「墓場」に出演していて、西川という役をやったんです。この作品はENBUゼミの卒業公演でやった初演から観ていて大好きで。初演は学生たちへの当て書きで、生徒の子たちの破壊力もすさまじかったんですよ。何より「ENBUの卒業公演でこんなおもしろい本書く人いるんだ!」っていうのも衝撃だった。

岩井:ENBUで講師をやる演出家って、だいたいみんな、“流す”からな……

(会場笑)

根本:過去作を持ってこられる方が多いんですよ。そんな中で、新作を書き下ろして、一人ひとりの生徒に愛を感じる戯曲で、こんなのがあるんだぁってすごく自分の中に残ってたんです。
劇中に「世の中は腐ってるから、どんなことでも美しく定義しなおす力が必要」
というセリフがあって。これって、福原さんがどの作品からも私が感じているもので。それがストレートにセリフになっていることで、すごく残るものがあったんです。

そんな折に、別の演出家さんが演出した「墓場」を観た根本さんは「福原さんって結構別の解釈で演出をしてもOKな作家さんなんだ」と思い、根本さんからこの戯曲をやりたいと打診したのだそう。

根本:私、福原さんって少し「照れ屋」な方だと思っていて。福原さんの演出だと「ストレートに書かれているセリフをストレートには言わない」と、自分が出させてもらった時に感じてたんです。
私は割とストレートに物を言っていく台本をずっと書いているので、私がこれを演出したら全然違うことになるんじゃないかって思いました。
それから、私が「墓場」を一緒にやりたいと思える女優さんが周りに多かった。この人たちと今、やりたいって、思ったんですよね。

岩井:「照れ」に関して言うと。僕も安藤聖さん主演のベッド&メイキングスの初演は観ていて、正直その時は「後半だけでいい」って思ったんですよ。前半の「女子同士の遊び」のシーンが「男がする内容の遊びをなんとか女優の女の子がやろうとしている」ように感じてしまった。台本と演出の乖離を感じて。
どんな作家でもそうだけど、いきなりメインテーマには突っ込まないじゃないですか。いろんなものを、並べて、隠して、ってやっていく。その前振りの部分が、こちらに届いてこなかった。
根本版との大きな違いはそこだと思う。「自分たち(女子同士)の遊び」というのをちゃんとやっていたように思う。

根本:自分が福原さんの演出を受けていたからできた、ってこともかなり多いです。自分が過去出演した時に、福原さんがやりたい「エネルギッシュに遊ぶ」っていうのをすぐ自分のものにできるタイプの女優さんと、なかなかできない人といたんです。そこをめちゃくちゃよいしょ!って気持ちを持っていって、「なかばやけくそ」みたいな状態を作るのが福原さんのゴールだと思ってやっていたから。そこを経験していたから作れた空気感みたいなものはあると思います。

岩井さんが「気になったところ」&根本さん解説ポイントを中心に映像を流しながらのトークへ。

●冒頭、「レッドリバーバレー」の合唱について

合唱シーンで合唱部みんなの声は聴こえながらも、ステージにはジモ(山中志歩)と、想い(天野真希)だけ。

根本:1番だけ主人公日野(根本宗子)も一緒に歌っているけれど、2番から歌わなくなって、リードがステージに一人立つジモに変わってるんですよ。

岩井:それは誰も気づかない……サブリミナル……。

根本:私の声を一番強くしていて、日野からジモにバトンタッチしてるんです。一番強く聴こえてるものを途中で少し変えているんです。

岩井:無意識に積むものを組んでいくのが演出家だと思うのでね。

岩井さんと山中志歩さんとの出会いは数年前、三重での企画公演(ワレワレのモロモロ)に山中さんが参加したことがきっかけ。その時に岩井さんは「東京出てきたらいいじゃない」とアドバイスしつつ、本当に出てきた山中さんをしばらく無視(笑)していたそう。

岩井:久しぶりに志歩を観たら「すごい有効利用されてる!」って思ってね。

そもそもこの「墓場」を「女子高生の物語」という枠を越えて観ることができたことの一役を買っているのがこの山中さんの存在であるという指摘をする岩井さん。

岩井:僕ね、良い俳優さんという定義の一つに「年齢がよくわからない」というのがあると思っていて。

根本:わかります。志歩ちゃんは主婦にも見えるし、子どもにも見える。

岩井:彼女はね。なんですかね。赤ちゃんが、美味しいものを食べてるとどんどん「食べ物そのもの」になっていく、みたいな。そういうことってありません?

根本:ちょっと・・・わかんないです(笑)

岩井:なんだろうな。なんかそんな感じなんだよ。それともう普段の“居方(いかた)”がさ、おばあちゃんなんだか赤ちゃんなんだかわかんないっていう。この芝居の中でも、完全に「合唱部の身体」じゃないじゃないですか(笑)ひとりだけ「動きに伴ってない」っていうか……。

根本:高い音じゃないのにこうやって(手を頭あたりに持ってくる、合唱部特有の動き)やってたり。

岩井:この子だけ「歌ってる」じゃなくて「歌ってみてる」になってるんだよね。それが、早い段階で良い意味に効いていて、「女子高生(だけのための物語)」みたいなものをはずしてみれるようになれてたんだよね。

根本:ここ、元の台本だと合唱部全員が登場して歌うってなってるんです。でも、色んなバージョンを試してみたら山ちゃんが変な動きをしてるから、ひとりにしてみちゃおうって(笑)「ジモがひとりで練習してる」みたいな風景にしてみたらそれが一番しっくりきて。劇場の狭さの問題もあったんですけど。

●衣装・美術の関係

岩井:今回、美術と衣装は山本貴愛(きえ)さんなんだよね。うちでも何回かやってもらってる方なんだけど。

根本:岩井さんがやっていた作品の写真を見ていたり、ずっとTwitterをおっかけていて。山田由梨さん(「贅沢貧乏」)もお仕事されているというの聞いて、オファーしたんです。「墓場」だけど暮石を作らない、とか色々とイメージをお伝えして「こんなんやってくれますか?」と伺ったら「一度会って話しましょう」とお返事をいただけました。

岩井:衣装に関しては?

根本:ジャンパースカートが女の子の着る服で一番可愛いって思ってるんです、私。これ、「校内服」なんです。わかりますかね?私立の学校とかってたまに、通学する時の制服以外に校内だけで着る服があるんですよ。その服をイメージして作ってもらいました。サボっているシーンが多いので、セーラー服じゃなくて校内服がいいなぁって。

岩井:制服制服してない感じはたしかにあるね。あと、カーディガンを吊ってるじゃないですか。これも僕、いいなと思って。「いる」と「いない」、「生きている」と「死んでいる」のちょうど中間、みたいなことにもなっているように見えて。

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©︎別冊「根本宗子」第7号『墓場、女子高生』

根本:これ、稽古2日目ぐらいで私が「吊りたい」って言ったんです。貴愛さんからは「吊るのはちょっと……」とは言われたんですけど、稽古場で試しでやってみたら「これはいいね」という話になって。
吊る高さが超難しくて、みんな背丈が違うから。

岩井:頭には当たっちゃいけないけど、手ではかけられるようにしなきゃいけないんでしょ?

根本:導線を稽古場で見ながら置きましたね。

美術について。福原さんの台本だと、「墓地に桜の木が植えてある」「墓地からは校庭と校舎と授業風景が見える」「遠くには住宅地が広がり、その先には相模川とそれを渡る小田急線の線路が見える、と思われる」などのト書きが書いてある。

岩井:こういうト書きもちょっと面白いですよね。舞台上に見えるかどうかじゃなくて、現実の描写が書いてあるってユニークですよね。
で、ト書きにはこうして「墓地」って書いてあるわけだけど、いわゆる「暮石」みたいなセットにはしなかった。貴愛ちゃんとはどういう話をしたんですか?

根本:日野の墓を一番大きくする、というのは決まっていて。いろんなところに、いろんな高さのものを置いて、毎日毎日その位置を変えて10日ぐらい稽古で試したんですよ。みんなで話して、「どこに何があるのが一番いい?」みたいな。何も決まってない状態でかなりの日数通し稽古やったんですよ(笑)で、だんだん「ここ(舞台中央、低めの突起)が日野がいつも座ってた場所」みたいになってって、それを覚えてるジモがいつもここに来る、っていうような流れを、何度もやった通し稽古の中で作っていった感じですね。

岩井:それも面白い作りですねぇ。

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©︎別冊「根本宗子」第7号『墓場、女子高生』

と、ここで、「僕、美術には文句があって」と岩井さん。

岩井:美術には、「見せる」という意図もあるけど、俳優さんたちが昇ったりなんだりする「用途」もあって、ただこれ、「用途」が丸見えなんですよ!(盛り土についている段差を指して)階段にしか見えないじゃん!

根本:やりやすかったですけど(笑)

岩井:そう、「やりやすい」にかたむき過ぎかな、と。もうちょっとなんとか、それを隠して欲しかった。

●ゲロにフォーカスを

と、こんな調子で映像を見ながらお話をしていくのですが、「で、えーっと次の“文句”のシーンはですねぇ」と、文句基準でメモを準備していたことが発覚(笑)

根本:えっ、文句の会だったんですか?私褒めてもらえるんだと思って来たんですけど……(笑)。

岩井:いやいや、文句は少なめです(笑)次はね、ゲロのシーン。(墓前で喋りながら部員たちが好き勝手しているシーン。飲みすぎたメンコ(小野川晶)が、ゲロを吐く。
ここはもっと、ゲロにフォーカスを当てた方がいいと思ったんですよね。ちゃんと吐いてるところにスポットがいくように見せたほうがいいかなとか。

●西川について

続いては、オカルト部の女の子・西川(藤松祥子)。ただの変わった女の子なだけと見せかけて、実は彼女こそ、日野への想いが一番強い子だった、ということがだんだんとわかっていく展開について。

岩井:つまり、この西川さんが物語上の“本丸”なわけですよね。そこにたどり着くまでに、どういう道を歩ませるかということが、作家さんの個性がすごく出ると思っている。こういう言い方しかできないんですけど……「西川を隠す」ために、武田というのがいて、西川が死について色々と考えている、というをさらにあやふやにするために、武田を「オカルト」っていうジャンルに置いて、死ぬということをシリアスに捉えないように「振る」というか「混ぜる」んですよね。それがすごく福原くんっぽいなぁって思うんだよね。

福原さんは「信じてほしいものを信じにくくするためのものを置く」人だ、と岩井さん。それが根本さんの言う「照れ」なのかもしれないし、そこが作家性というものなのではないかと分析します。

一方根本さん。福原さんから「根本さん、しつこいよ、良いセリフも3回書くんだもん」と言われたことがあったんだそう。その後会った時に、「ごめん、僕、根本さんに謝りたくて。別の女優さんと話してた時に、根本さんの脚本は何度も言ってくれるから良い。って言われたんだ」と謝罪があったという話をされていました。

根本:私、それ全然覚えてなかったんですけど(笑)でも、劇作家の人にはよく言われますね。長塚圭史さんにも言われました「しつこいね」って。でも、もともとすごいしつこいんですよ。言いたいことをなんども言うので。

岩井:福原くんは「すごく大事なものは、アクの強いもので覆う。で、その隙間から漏れるなら、どうぞ。」みたいな感じ。
僕自身はそういうところの神経がものすごく過敏なので、「隠し続けるし、気づく人だけ気づけばいい」みたいなかんじ。
でも根本さんは、気づく人だけ気づけばいいじゃない、じゃ、ないじゃないですか。「呼び止めて、胸ぐらつかんでる感じ」。本当はみんなそれをしたいから書いてるはずなんだけど。そのしつこさが豪快だなって思う。

根本:それをしたくて書いてるんですよ。本当に、「客席の人の胸ぐらをつかむようにセリフを言ってくれ」って演出でよく言うぐらい。(お客さんに対して)お前だぞ!お前!お前に言ってるんだからな!っていうのをちゃんと飛ばせ、って(演者に演出します)。
やっぱり、演劇の間口を広げたいという思いがあるので、初めて見たお客さんにもわかりやすくしたい、胸ぐらつかんでいかないと伝わらないと思うんです。

岩井:それは僕も同じです。うちの母にもわかるように作らなくてはと思ってます。

ここからは少し、いろいろな演出家さんの「わからせる」「隠す」の話について。実名・作品名バンバン登場のトークライブならではのボーナストラック。会場に来れなかった方はぜひ、またの機会に……。

→後編に続く

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文・田中春香

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