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右上のおやしらず
よい歯の持ち主という慢心
もう20代後半になるが、わたしの口腔環境はほぼ問題がないまま、ずっと過ごしてきた。
虫歯治療は乳歯のときにしかしておらず、永久歯に生えかわってからは詰め物をしたことがない。
歯並びもよいほうで、小学生の頃は「よい歯のコンクール」で学校の女子児童代表に選ばれ、市役所かどこかの一室であらゆる歯科医に口腔内を審査されたこともあった。
中学校、高校にあがっても、そのまま虫歯はできずにやってきた。
”よい歯の持ち主”という慢心もあり、大学生になったあたりで歯科医院には行かなくなった記憶がある。
かかりつけの地元の歯科医院は、かなり混んでいて、待ち時間が長いのだ。
放置されるおやしらずたち
年齢をかさね、親知らずが生え揃う。
できれば痛い思いはしたくない。きれいに生えているようだし、隣の歯を圧迫するような様子もない。という自己判断で、おやしらずとはずっと一緒に過ごしてきた。
ただ、歯並びがきれいで虫歯がないからといって、歯磨きが上手だったり、フロスを使って念入りに歯垢を除去しているわけではない。清涼飲料水も好きだったし間食もよくした。
おやしらずに対して特別に手間を掛けるということもなく、普通に生活しているだけだった。いまだ残る慢心。
無職1日目、小石を噛む
社会人として不規則で不健康な生活を約2年半続け、おやしらずにも限界がきたらしい。
諸般の事由で無職になった。その1日目だ。
ごはんを食べていたら、「ガリッ」と何かを噛んだ。小石を噛んだときの感覚と似ている。頭にはてなが上ったものの、食事はそのまま続行したし、その小石のような音を立てたものも飲み込んだ。
数日後だろうか、「あれは欠けた歯だったのでは」と気付く。
急に焦る。舌で右上のおやしらずを触ると、ぼろっとしている。
無計画に無職になってしまったので、歯の治療に充てるお金もない。保険証もすぐに用意できない。急に焦ったわりには、またもやおやしらずを放置することになった。
数年ぶりの歯医者さん
数ヶ月後に転職をした。給料も入る。覚悟も決まる。
ようやく歯科医院の予約を完了させた。
ここでわたしが一番恐れたのは、長年の慢心をズタズタにされることだった。こちらから申告する、わかりやすい”欠けおやしらず”だけではなく、ほかに大きな虫歯があることが判明したら……。絶大なショックを受けるだろうと自分を心配するところから始まった。
とはいえ歯科医院に悪いイメージはない。気持ちをすこし昂らせながら向かった。
院内に入り、受付をしたあと、問診票に記入していく。
「前回、歯科医院に行ったのはいつですか?」という問いには、「( )年前」に丸をつけておき、そのそばに「覚えていないくらい……」と付け足した。
よい歯であったことが災いし、慢心を生み、しかも「以前に治療したところが痛む」とかいう現象もなかったことから、定期検診にさえ行かなかった。フッ素塗ってもらったの、何年前なんだ。フッ素塗ったから、30分は何も食べちゃいけない、みたいな拷問を受けていたのも、何年前なんだ。
不安をおぼえた”秘密の個室”
これはわかりきっていたことだが、やはり右上のおやしらずは欠けていたので、抜歯をすることになった。麻酔をしたあと、歯のレントゲンを撮った。初めての経験だ。わたしが小学生の頃、母親と隣同士で治療をしてもらったことがある。母親が、よくわからない個室に連れていかれたのを不安に思った。あれはレントゲン室だった。
顔の周りを機械がぐるっと一周してちょっと楽しかった。
ついに抜歯
視界はタオルで覆われて、隠されている。
麻酔がしっかり効いているので、口の中は特に何事もない。
相当格闘しているようで、器具によって押さえ当てられ、引っ張られる口の端のほうが痛い。
そして音がすごい。めきめき、みしみし。
びっくりするほど抜けない。これ抜けるの?もしかして砕かれているのか?と疑心暗鬼になる。それを考えると、唾液が喉に流れ込まないように意識的に堰き止める。
しばらくして、医師の「徐々に抜けてきていますからね」の一言に元気づけられる。
抜けた。
口腔内に血液が溜まっている気がしてめまいが起きそう。痛みはない。
かさぶたをつくるためのコラーゲン?を付けてもらって、軽くうがいをする。やはり血液が吐き出される。なるべく見ないようにした。
根元まで割れることなくきれいに抜歯が完了した。歯は持ち帰る。
その他問題点
①奥歯に、小さく虫歯っぽくなっているところがあるとのこと。
この治療は次回に持ち越し。
②歯ぎしり、食いしばり説があること。
実はこれ、「覚えていないくらい前」に診てもらったときにも言われたことではある。「所々表面が平らになってきている」、「内頬に線がついている」(これは特別頬がプニプニしているからでは?)、「小さい下顎隆起がある」からとのこと。下顎隆起、初めて聞いたけど、歯ぎしりや食いしばりによって下顎に力がかかり、骨が隆起してコブができること、だそうだ。何それ、全然気づかなかったんですけど(これ自体は別に問題はないらしい)。
虫歯治療後、寝るとき用マウスピースを作る日がくるかもしれない。
感想
・慢心はよくない。
・血は怖い。
・虫歯っぽいのがあってもそんなにショック受けていない。
・歯科医院に行けることは精神上健康なことのしるし。
・歯科医院のうがいの機械、やっぱりめっちゃわくわくする。