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思い出をハンガーにかけて

私の部屋のクローゼットには、
一着だけ袖の通した事のない服が掛けてある。
これから先も着ることのないそれは、
私ではない誰かの匂いがする。
この服の持ち主が私の前から消えた時、
それから何年も経った今でも、
私はそれを捨てられないでいる。


その服は、一生私のものにはならない。
この服の持ち主も、一生私のものにはならない。


とはいえ、
あなたをもう一度私のものにしたいと思ったことはない。
何処か私とは別の世界で幸せになってくれたらいいと思う。
 

この服を私の部屋に置いていったあの日のあなたが、
私は好きだった。
それは今のあなたではないのだ。


私は今日も、
あの日のあなたをクローゼットの中にしまい込む。
誰にも触れられないように、誰にも気づかれないように。
私の中の大切が、他人に形容されないように。
そしていつかあなたが「返してよ。」と言ってくれたら、
私は今のあなたと、あの日のあなたに「さよなら。」が言えるような気がする。


いや嘘だ。
私のことだからきっと、「いやだよ。」と言ってあなたを困らせるだろう。


だからどうかこの服のことは忘れて欲しい。
あなたの分まで大切にするからさ、


最後まで読んでいただきありがとうございます。
またいつか。

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