【台本全編公開】未上演の新作ミュージカル「雨漏りのするキャバレー」
はじめに
こんにちは。オリジナルミュージカルの創作を行うクリエイターユニットNEM KiTにて、脚本・作詞、それから演出・振付を担当しております隈元梨乃です。
私は、作曲家の戸谷風太と共に大学時代からミュージカルの創作・上演を続けておりまして、昨年末から改めて「NEM KiT」というユニット名をつけて2人で活動を開始しました。そして、その記念すべき旗揚げ公演として、新作ミュージカル「雨漏りのするキャバレー」をまさに今、2020年6月に上演予定だったのですが、、ご存じの通りの新型ウイルス感染拡大により、公演中止となってしまいました。
上演予定だった新作公演では、「台本も曲もないミュージカル」と銘打って、あらすじも、もちろんタイトルも、本当に何も決まっていないまっさらな状態でオーディションを行いました。
唯一決まっていたのは、「私たち自身の”性”の話」をテーマに、選ばれた出演者たちとのワークショップを通して作品作りを行う、ということ。
集まった俳優は、全部で7名。
(偶然にも、全員がU25でした。)
彼らの話を一緒に聞きながら、またはシアターワーク(演劇的ゲームや即興)などを通して様々な角度でディスカッションや実験を行いながら作品の材料となる風呂敷を広げ、それを今度は作家として新しい物語にするべく、ときには圧縮したり、変換したり、交換したり、派生させたり、混じったり、とにかく色々な工程を踏んで、今回の新作「雨漏りのするキャバレー」の台本と楽曲は完成しました。
(因みに、創作プロセスのドキュメンタリーはこちら☟)
そんな、俳優さんたちも全力でぶつかって、さらけ出して作品づくりに参加してくれた新作だったからこそ、この状況にあっても中途半端に放り投げるってことは、どうしてもしたくなくて。
私達はこの未上演作品の「設計図」を販売することにしました。
いつかまた上演できる日のために、一人でも多くの方にこの作品を知って頂きたい、そして是非サポートしていただきたい・・・!
その思いで、現在オンラインストアにて楽曲も芝居部分も含めた全幕が収録されるトライアウトリーディングのCDなどを予約販売しております。(音源は現在レコーディング中。売上は、中止に伴う損失の補填などに当てられます。)
そしてその「#設計図売り」と題したプロジェクトの一環として、こちらで74ページ分の台本のすべてを公開・販売することに致しました。
※note公開初日から期間限定で行った本記事の全編無料公開では、沢山の方にお読みいただきました。本当にありがとうございます!
さらに、ミュージカルである特性上、台本の文字を読んだだけでは歌部分を想像するのって結構難しいかなぁ?と思いまして、先日レコーディングに向けて行った通しリーディング稽古から、俳優が歌っている様子を少しだけおさめたサンプル動画も、全曲分掲載しています!
(感染防止のため、俳優同士は距離をとり全員マスクを着用しています)
紙の台本でいう10ページ目までは無料でお読みいただけますので、面白そう!上演も観たいかも!と思っていただけましたら、是非みどりいろの購読ボタンから、ご購読いただければ幸いです!
(PDFでお読みになりたい方は有料エリアにファイルがございます。また今後こちらの記事にはクリエイティブプランなどの創作メモが追加される可能性があります。一度ご購読いただいている方は、情報が追加されてもそのまま無課金でご覧いただけます。)
そして、曲も素敵じゃん!これ俳優が語るとどんな感じなの!と思っていただけましたら是非是非CDの方もご注文いただければ本当に嬉しい限りです。
感想は #NEMKiT #ネムキット #雨漏りのするキャバレー などのハッシュタグをつけてSNSに投稿していただけますと、我々もチェックできます!
ついつい長くなってしまいましたので、ご挨拶はこの程度に。
劇場の様子をアレコレ想像して、お酒など片手にお家でごゆっくり楽しんでいただければと思います。
願わくば次は、実際に劇場でお会いしましょう。
2020年6月19日
NEM KiT 隈元梨乃
※作品の著作権・上演権はNEM KiT(隈元梨乃・戸谷風太)に在ります。
こちらでの公開並びに販売はその権利を放棄、または上演を許可するものではありません。コピー・転載は固く禁止いたします。
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ミュージカル「雨漏りのするキャバレー」
作・作詞 隈元梨乃
作曲 戸谷風太
原案 俳優と作家による1か月間のワークショップ
制作 NEM KiT
上演時間 100分
登場人物
ショーの出演者
きっこ 春日希
ちだちゃん 山川大智
まおか 宮川実生
慶司 尾曲凱
Conami 山本こころ
しゅーりむ 佐藤志有
西谷 新田絢加
演出家 隈元梨乃
ピアニスト 戸谷風太
※この作品はフィクションです。登場人物はいずれも新しく創作した物語上のキャラクターであり、演じる役者を含む、実在の特定人物を描いたものではありません。
演劇ですので、役者自身とキャラクターのアイデンティティは同じではありません。
台本上のルールと注意
役名 「通常の台詞です。☆印でリンクされているところは同時に発せられます。例えば、☆ここからの台詞はそのすぐ次に出てくる/」
役名 「☆こちらのラインと同時に読まれま/」
役名 「上記のようなスラッシュは、次の台詞に遮られるという意味です。」
役名 太字になっている部分は歌です
М中であっても
このように太字が解除されている場合は台詞になります
また戻れば歌詞です
この欄のように、引用用のグレーの色付けで書かれているものはト書きです。作・演を想定しているため、具体的な演出や振付、または作曲の指示が書かれている場合があります。
0. #0
今、東京、小さなキャバレー風の小屋。洋服で出来た装飾がサーカステントのようになっている。ステージ中央にはバケツが置いてあり、ぽつり、ぽつりと、雨の漏れ落ちる音。ジャズのBGM。劇場はイマーシブな空間であり、観客は実際にバーカウンターで注文したお酒などを飲んでいる。出演者も客席で歓談している。会場案内に加わっていた演出家、バケツを撤去すると、一礼し、話し始める。
演出家 『えー皆様、本日はご来場誠にありがとうございます。この度、このショーの作・演出を務めまして、開演前のこの時間をお借りして少しご挨拶をさせていただければと思います。少し、と言いながらまぁまぁ喋ります。なのでお酒のほうもどうぞ飲みながらで構いませんので。
・
あ、ただ携帯電話の電源だけお先にお切りいただけますようお願いいたします。というのもこの狭さでやってますので電波が照明音響機材に影響して最悪、全部ぼんっと飛んでしまうという恐れがあります。お手数ですがなにとぞご協力お願いします。ありがとうございます。
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えー、これからご覧いただく作品は、出演者とピアニスト、演出家の私で取り組んだ1ヶ月間にわたるワークショップ、まぁあと私個人が、本日の出演者と大体同世代の、出来るだけ多くの方々に行ったインタビューの一部に着想を得ています。そのテーマは、ありとあらゆる「性・セックス」にまつわる事。一口に「セックス」といってもその意図するところは様々です。「え!そんなはっきり言っちゃう!?」という声が上がるとき、多くの人がまさにイメージする“それ”も、勿論含まれてはいるん、です、がぁ~、、。
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そうですねぇ、あの~この辺はまだよく分かってないらしいんですけど、我々の祖先が、はるか昔どっかしらのタイミングで「そうだ!別の個体と遺伝子を交換しよう」という名案を思いついたものですから、今でも私たちヒトには「性」というものが付いて回るわけです。
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例えば私とあなた、はたまたあなたとあなたでは、ホルモンなり染色体なり?あとカタチなりで個体ごとにタイプが分かれてますけども、それをアダムとイブからかイザナミイザナギからか、とにかくにんげんの長い歴史の中で大抵の場合、「男」と「女」、という二つに分けることが主流になりました。
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えー、だいぶこんがらがってきちゃってると思うんですけど、もうちょっとだけこんがらがらせますね(笑)はい。
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しかしですよ、現代になりますと長いことかけてつくりあげられてきたその性の概念そのものが、いよいよぶっ壊されてきます。まして日本は、令和ですよ。新時代、あげ、いぇいいぇいっつって。ワールドワイドウェブ、インターネットですね、とか?んねぇもう新しくもなんでもなく生活必需品ですし、こっちから探しに行かなくったって、やれ情報につぐ情報が、バビュンバビュンとびかってる時代ですよ。
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もちろん性に関するトピックも之に漏れるはずはなく、セックス、ジェンダー、セクシャリティ、ハラスメント、フェミニズム、ダイバーシティ、役割の問題、格差の問題、差別の問題、男とは、女とは、LGBTQQIAAP、プラス、、とは!?
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世の中がすべての物事に対して猛スピードで認識の再構築をはじめようとするその最中で、「うちら」は、ねぇZ世代なんて呼ばれてますけど、ぽぽぽぽーんと誕生したわけです。新時代を生きる我々にとっては目の前のあなたやあなたの小さな言動すらバズるオアナッシングなコンテンツ。
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でもでも、だからこそ実際、どうなんでしょう。タイムラインのその奥の、リアルな私やあなたを舞台の上に乗っけてみませんか、一遍のショーにしてやりませんかと、まぁちょっとあの~現代版コーラスライン的な?ね、そういうことなんです。
・
演出家のくせにだらだらと喋りやがって、大変長らくお待たせいたしまた。それでは今日ご出演になる七名の皆さん、舞台のほうへお願いします。皆様がお座りになられまして、舞台のほうも準備ができましたら・・・、大丈夫そうですかね。
・
はい。では早速M1、オープニングナンバーから始めていきたいと思います。どうぞ最後までごゆっくりお楽しみくださいませ。』
1. #OPENING
キャバレーらしい派手なクラッシュシンバルの音。演出家はヴォードヴィルのバラエティショーのようにシーンタイトルの書かれたボードをめくる。(初めのボードはまっさら)洋服テントの布の一部にも同じ文字がぼやっと投影されている。“#OPENING“
”ミュージカル“のオープニングっぽい要素をみだりにつめこんだような曲。先ほどまでごく自然な状態で客席にいた出演者たち、途端に出演者然として「ショー」を始める。よく練習された歌とダンス。
〈M1:オープニングナンバー〉
全員 いまはじまる 新たな時代の
わたしたちの 新しいショウ
さぁこれから あなたとわたしで
最後までどうぞ楽しみましょう
Realistic Mystic Poetic Fantastic
あなたのために 愛を幸を
きっとShow Must Go On
It's So Honest だからFinest
あなたにみせる
さぁこころ解き放って
西谷 刺激的な夜にしましょう
まおか 赤いりんごだけじゃ足りないから
しゅーりむ 七色以上に旗を染めて
Conami ベール脱ぐとこが見たいでしょ
全員 ひろい世界が手のひらに
神さまの代わりに鳥がつぶやく
指で滑らす運命のカード
そんなことよりあなたと
# 繋がりたい
ちだちゃん 「さっ、いよいよ始まりました今回のショー!あはは司会みたいなっちゃった。いや嬉しっすね、こうやって私みたいな人間を“フューチャー”してもらえんのは。未来みが深い。はいよろしくおねぁいしゃーす!」
きっこ 「私すごい楽しみにしてきたんですよ。この話聞いたときからうーわ最高だ絶対関わりたい!と思って。いい時間にしたいです。」
〈間奏・ダンス〉
慶司 「え~緊張しますよ。僕喋るの、いや好きなんですけど好きじゃないっていうか、ちょっ怖いっていうか」
西谷 「/苦手なんです。まぁでもあの、盛り上げます!がんばる。」
〈間奏・ダンス〉
しゅーりむ 「これってどういう人選なんですかね。みんなすごい、そういう、その、あれなのかな。」
まおか 「 私なんかがここにいて大丈夫ですか?」
〈間奏・ダンス〉
Conami 「 本当のわたしはこうなんだよって、それを分かってもらいたいです。分かってもらいたいし、うん、知りたい。私も。」
全員 本当の?
深い
わたし
知らない
ところまで
向き合えたら
わたしを
見ないふりした
あのひとを
あのとき
なにか
変われる?
知りたい
理解したい
分かりたい
分かってほしい
インストのサビになりダンスで盛りあがったのち、M1オープニングナンバー終わり。アプローズ。息の切れる出演者たち。とりあえずやり切った感、逆にここからどうすんの?というぎこちない空気。
きっこ 「あー、えーっと、よろしくお願いします~。」
ちだちゃん 「 あっ、あっ、いぇーーーーーい!」
ほかの者も各々ノリでリアクションをとる。が、しかしまた静寂。
まおか 「これ、あれですかね。自分たちで仕切ってやっていく~」
しゅーりむ 「あっ、そんな雑な感じ。」
ちだちゃん 「じゃあとりあえず、自己紹介?」
Conami 「ていうかたぶん、終始壮大な自己紹介~みたいな、もはやそういう企画ですかね、これ(笑)」
にしや 「あっ、あぁ~、たしかにぃ!あはは。」
(先ほどよりは短めの間)
きっこ 「あーはい!じゃあじゃあ私から行きます。わかんないけど、とりあえずね!」
慶司 「あ、お願いしますぅ。」
きっこ 「お客さん困っちゃうから。」
ちだちゃん 「間違いないw」
きっこ 「えー、何言ったらいいのかな。うんと、きっこって呼んでください。
都内でコンサルの仕事をしてるんですけど、それとは別に千葉の香取市ってところの農家さんをお手伝いしたり、環境活動とか、他にも何だかんだ色々やってます!
今回は、あの~、ジェンダーだとか!ね!そういったものっていうふうにお聞きしまして、いやぁ~この時代最高のテーマチョイスだなって思って。あ私、フェミニストなんですけど、」
〈M2:ソッチコッチ〉
しゅーりむ あ~なるほど そういう枠か
西谷 フェミニスト?アクティビスト?
慶司 バリキャリ女子?
全員 まぁそっちの人ね
きっこ 「格差とか差別とか偏見とか全部なくして、ハーモニーのとれた世界になってほしいなって思ってます!」
全員 だれがいく?なにはなす?
ちだちゃん 「ちだです!千田って書いてちだちゃんでーす!えっとぉー、年齢は二十歳!と4歳!ひひw え~趣味はジムで身体を鍛えることでっす。」
Conami え、片耳ピアス?
まおか これは確実に
ちだちゃん 「こう見えて、高校教師してるんですよ。あーあと、ゲイです。」
全員 やっぱそっちよね
全員 スーーー・・・これどうする?
だれがいく?なにはなす?
これどういうあれなの?
みんなそっち?
こっちの人いる?
あっ、あっ、あっち?え。どっち?
どうにもこうにもにっちもさっちも
あっあっあっあっ
まおか 「あっ、私全然普通なんですよ。アッ普通っていうか、普通ってそういう意味じゃなくて、全然、ノーマル?ちがう、だめ、えっと、平凡!
あっ女子大生です。来年からOLです。あっ、まおかです!(笑)ああっとミュージカルゥ?とか!あと韓国ドラマ!好き!です!」
全員 だれがいく?なにはなす?
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