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#異世界サウナ 番外編 1ー④

前回

「というわけで、いよいよ人間側の二人目、最後の方になりましたが……えっと、ホルヘさん、でいいんですよね」
「ウム」
 最後にあらわれた一人は、どう見ても腰の曲がった老人だった。足元もおぼつかないようで、サウナ室の雛段から降りてくる時も倒れそうになっていた。
「おじいさん、大丈夫?さっきから熱波をずっと受けてて、フラフラしてるけど」
「ウム」
 アミサの言葉が聞こえているのかいないのか、もごもごと何かを言いながら、ラドルをやっとの重いで持ち上げ、ストーブに水をかけた。
「……さて、非常に心配なスタートになりましたが、いかがでしょうメッツさん。ご老人、タオルも何も持っていないようですが」
「まあ危険そうなら止めないといけませんね。でもあの老人、どこかで見たことがあるような……」
 首をひねるメッツをはじめ参加者たち。ホルヘは何回か水をかけ終わると(だいぶストーブの外にこぼれていたが)よろよろと扉のほうに向かっていく。
「ああ、やっぱりご老体にはちょっとキツかったかな……?」
 彼は扉を開けてしまった。しかし、不思議なことに風は入ってこなかった。何かが壁のようになって、扉を外からふさいでいる。
「……まさか」
 壇上のユージーンが立ち上がる。
「おい、やめろ!さすがにそこまでやっていいとは言ってない!」
 扉をふさぐ何かに、ぎょろり、と目が開いた。ホルヘの背丈ほどはありそうな瞳と、それを覆い隠す瞬膜。
「ポチ。ゴー」
「みんな伏せろッ!ドラゴンブレスだ!!」
 ホルヘが指示を出すのと、ユージーンが叫ぶのはほぼ同時だった。扉の外にいたドラゴンは、扉の中に口を突っ込み、軽く息を吐いた。もちろんドラゴン基準の「軽く」なので、サウナ小屋の中には嵐のような熱風が吹き荒れた。
「うおおおおおっ!!手近なところにつかまれ!」
「ぎゃーーー!タオルが、タオルがぬげるぅ!」
「し、死ぬ……!!!」
 灼熱の渦がサウナ小屋を暴れまわり、タオルやサウナマットが吹き飛ばされる。ハラウラの小さな体は天井付近まで飛ばされている。ユージーンはなんとかサウナストーブに人が接触しないようブロックしつづけてた。
「はっはっは。キく~」
 そんな阿鼻叫喚の中、ホルヘはすずしい顔で笑っている。彼は元『竜騎士』……気高い竜にまたがることを許された、エリート中のエリート騎士だ。老いたとて、愛竜のたわむれ程度の吐息で飛ばされることはない。
 愛竜ポチを撫でる彼の背後では、ついにサウナ室の柱までもが悲鳴をあげ、めきめきと音をたてて折れ始め、ついには小屋全体が崩壊してしまった。幸い、ユージーンとハラウラが全ての参加者をがれきから守ることに成功し、けが人は出なかったが。
 壊れたサウナ室には、すがすがしい外気が吹き込み、参加者たちにはからずも完璧な外気浴を提供していたが。
「アツかっただろう。私が優勝かな~」
「……ルールをつけたそう。ドラゴンは出禁だ」
 結局、アウフグース対決はうやむやのまま終了になったのだった。

サウナに行きたいです!