ジゴクダイバー 懲役100兆キロメートル
俺は
無限に
続く穴を
落ちていく。
【通告:覚醒せよ。30秒後に『鬼』と会敵。覚醒せよ】微弱な電流で目覚める。
「……おい、いまどのあたりだ」【「落下刑」執行開始から約10億キロメートル】「くそったれ」
周囲の景色は相変わらず異常な速さで更新される。アーマー無しでは死ぬほどの速度がかかっているから、当然だ。
【3
2
1
会敵】バイザー越しに視覚情報が補正。蜘蛛のような形の『鬼』が眼前に現れる。その実態は生きた虚無だ。エネルギーを喰らい、機械で検知できない超高速。だから落下して加速した人間が処理する必要がある。
『風車』を逆回転。無限の落下によるエネルギーを溜め込んでいたモーターが駆動、俺の体勢を急回転、抜いたナイフを『鬼』に突き立てそのまま引き裂く、その速度時速1600万km。処理完了。
【警告:右に物体】
気を抜けない。『鬼』に位置エネルギーを食われた死体がある。落ちることも引き上げられることもない。もっとも、俺たち罪人に後者の可能性はない。スラスターで回避。一瞬目があった気がした。知ったことか。
【通告:敵影なし、休眠状態へ移行せよ】アーマーから血管に薬剤が投与され、意識が遠のいていく。
意識のあわいに、
とりとめない思考。
ーーこの穴は、人以外落ちない。背負った罪の重さが、穴の深さとなるから。
ーー人は無限に落ちる。その罪には限りがないから。
ーー無限に落ちる物からは、無限のエネルギーが取り出せる。だから『風車』をつけた罪人を落とし、エネルギーを回収する。
ーー『鬼』は落ちてくる人間を止める。だからお前らはそれを処理して、落ち続けなければならない。
「いいえ、人は罪を贖える。この穴には底があるんだよ」
ああ、リサ。
俺は、底まで落ち続けて、
君の無実を、証明する。
この穴の名は、『ジゴク』。
仏教では罪人が落ちる場所だという。
たいしたネーミングだ、と
俺は
笑いながら
意識を
失う。
【続く】