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To the open sky(FF14二次創作)

※FF14の自キャラ(とフォロワーさんのキャラ)の二次創作です。ネタバレはぜんぜんないよ!

「それはわらわの物です」
「でっ、でも、私が先に」
「だとしてもです。その砂糖菓子はわらわの口に入るのがふさわしい。そう決めました」
「えっ、ええー!」
 緑薫る森都、グリダニアの一角。黒檀商店街と呼ばれる商店区画で、二人の女性が言い争っている。
 一人はルガディン族で、褐色の肌に金色の髪の女性だ。優しげな風貌だが、今は困ったように眼鏡の奥の目を泳がせている。種族柄高い身長は、エレゼンやミコッテの多いグリダニアでは少し目立っていたが……口論の相手は、さらに目立つ風貌だった。
 ロスガル族、しかも女性だ。それだけでエオルゼアでは珍しいのに、全身を覆う真っ赤な毛皮と、同じく真っ赤な髪は、柔らかな光と木の素材を基調とするグリダニアでひときわ異質に見えた。
 サベネア風の綺羅びやかな衣装を身に付けている。
「あきらめなさい、娘」
 緑の瞳で、長身のルガディン女性を真正面から見据えている。人気の菓子の、最後の一つをどちらが買うか。それで二人は揉めているのだ。……正確には、後から来たロスガルが、ルガディンの買おうとしていた最後の一つを横取りしたのだが、ロスガルは最初から自分の物であったかのように有無を言わせぬ態度で、砂糖菓子の小瓶を振ってみせた。
「なあお嬢さん、あんた後から」
「黙りなさい」
 見兼ねて声をかけた店主を、ロスガルはぴしゃりと遮る。店主は「ひっ」と短く声をあげた。それだけの苛烈な威圧感があった。
「では、よいですね、娘」
 翠玉のような猫の目が、らんと光る。
 一言でいえば、それはわがままであった。道理の一つもなかったが、そのロスガルの苛烈だが美しい声で告げられると、欠片ほどの道理があるようにすら思えてしまう雰囲気があった。
「……じゅ、順番は守ってください!」
 それでも、ルガディンの女性は毅然と言い放った。その態度に、ロスガルは意外そうに目を細める。

 その時、半鐘が響いた。やたらめったらに叩かれる音は、魔物の襲来を告げるものである。商店街に、一気にざわめきが広がる。双蛇党の兵士たちが、あわただしく乗り込んでくる。
「魔物ッ!?」
 ルガディンの女性は素早く反応した。武器を構える姿から、彼女が冒険者であることが知れた。
「あっあなたも」
 彼女がロスガルの女性を振り返ろうとしたとき、すでに赤毛の女はそこにいない。空中には、手放されたと思しき砂糖菓子の瓶が、まだ漂っている。
「譲ります」
 姿はすでに見えないが、りんとした声が彼女の耳に届く。
「え、あんなに欲しかったんじゃ」
「わらわが今やるべきことは他にある。そう決めました」
 避難を促す双蛇党の兵士の脇を、馥郁たる香りとともに、
「逃げなさい、福寿草の娘。あるいは――」
 赤い風がすり抜け、舞台に向かう道のように人垣が割れる。
「あなたが『光の戦士』ならば、わらわの舞に伴奏することを許します」

 ミィ・ケット野外音楽堂に、かなりの数の妖異が発生していた。ちょうどイベントの最中だったのか多くの客がいて、双蛇党の兵士たちは避難誘導に奔走している。槍術師や弓術師たちも奮戦していたが、高位の妖異に押し負けていた。
「ぐっ、もう持たないぞ……!」
「まだ本隊は戻らないのか?!」
「粋じゃねえな、この状況は」
 焦燥。疲弊。不安。負の感情が、さらに状況を悪くしていく。
「く、そおっ」
 かろうじて保っていた防衛戦に、早くも綻びが生まれた、その時。

 しゃん、と戦場に場違いな、華やかな音がする。
 今まさに兵士に襲いかかろうとしていた妖異に、チャクラムが突き刺さる。

「よく耐えました。下がりなさい、わらわが許します」
 燃えるような赤い毛皮と、絢爛な衣装。ロスガルの踊り子が舞台に立っていた。
「な、お前っなんで踊り子がこんな」
「違ェよ、『光の戦士』だ!」
 戦っていた誰かがそう叫ぶ。

 『光の戦士』?あの『光の戦士』が来てくれたのか!?そうだ、ハデな格好のロスガルの冒険者、『光の戦士』だ!

 心配そうに隠れていた人々からも快哉が上がる。渦巻いていた負の感情は、一瞬で吹き飛ばされた。
「遠くからでも、わらわが来たことが見えるように。絢爛な衣装はそのためなのです。『光の戦士』は希望なのですから」
 ロスガルの女は、自分を必死に追ってきたルガディンの冒険者に告げた。振り返ることはしない。妖異を見据え、彼女からは凛とした立ち姿の背中だけが見える。
「て、敵視も向いてますけど!?」
「構いません。むしろ好都合。わらわが引き付けます。娘、あなたは負傷者の手当を」
 ルガディンの言葉どおり、妖異たちは派手な衣装を格好の的にして、ロスガルの女に襲いかかる。文字通り踊るようにそれをかわしながら、ロスガルの女は一匹ずつ妖異をチャクラムで倒していく。
 流麗で熟練された死の舞踏。残酷ながらも観衆を魅了する華やかな闘技に、歓声が上がる。

 しかし、妖異の数が減ることはない。

 何かがおかしい。異常を感じたロスガルの尖った耳に、ルガディンの声が飛び込む。
「ロスガルさん!あそこ!」
 ルガディンの女性が、負傷者を避難させながら、音楽堂の一角を指さした。ヴォイドクラック。妖異が湧き出す穴が、巧妙に隠されていたのだ。そしてそこからは……。
「ゴアアアッ!」
 大きな手が穴を広げ、今までの妖異たちと格の違う大妖異が現れようとしていた。クラックから全身が出てくれば、グリダニアはただではすまない。
ロスガルは、クラックとルガディンの女性を、ちらと素早く見た。
「大義でした、福寿草の娘。あなたも逃げなさい」
「一人じゃムリですよ!」
「優しい娘。でも大丈夫。わらわは――」
 
 一人ではないから。

「緑眩きグリダニアの民よ、そして不遜なる異界の妖異よ聞きなさい。わらわは『光の戦士』、灼鬣のライー。わらわの光が照らす限り、舞台に影の落ちる場所はないと知れ!」

 翠玉の瞳を見開き、ライーが武器を掲げ合図をおくると、クラックから這い出そうとする巨大な妖異の前に誰かが飛び出す。
「ひ、姫様ッ!!全く、おらがいなかったらどうするつもりだったど!?」
 身の丈ほどもある大剣を妖異に叩きつけた。白と青の毛皮の、ロスガルの大男である。
「ネメア。そこを抑えなさい。これ以上一歩もその妖異を出さないこと」
「え”っ!?おら一人で!?これ盾役二人はいるレベルだどッ?!」
「黙りなさい。できなければ尻尾の毛を全部引っこ抜きます」
 ネメアと呼ばれた大男は痛みを想像したのか、体を震わせて大剣に力を込めた。
「ぐううおおおおおおっ!!」
 決死の覚悟で妖異を押し止めるネメアに背を向け、ふう、と一息ついたライーは、靴や衣装の具合を確かめ始める。
「ひ、姫様ァ!?お、おらっ、けっこう必死なんだどッ?!」
「黙りなさい。しっかり踊るには準備が大切なのです。あと10秒……いえ1分持たせなさい。曲も決めるから」
「ぎいいいいっっ!!」
 本当に必死の形相で受け止め続けるネメアだが、徐々に押されていく。すると彼の横にもう一人、新たな協力者が姿を表す。
「ライー様、あまり無茶を言うものではありませんよ」
 桃色の髪と耳をしたヴィエラの女性だ。持っている長い杖から、彼女が白魔道士だと知れた。
「無茶など言っていない。ミラ、死なない程度に回復を」
「はいはい……」
 受け止め続けるネメアと、それを支援する桃色のヴィエラ、ミラ。それを背後に見ながら、30秒ほどでライーは仕度を終えた。
 構えをとると、負傷者を全員逃がし終えたルガディンの女性と目があった。
「福寿草の娘。よい働きでした。優しいその心を、旅路の果まで忘れることのないよう」
 彼女が何か言葉を返したか、あるいは頷いたか、見ることなく背を向け、ライーは妖異とクラックに向かい合う。彼女もまた『光の戦士』たりえる者であれば、きっと大丈夫だろうから。
 ライーは息を大きく吸った。グリダニアの木々の香りと、人々の生活の匂いが濡れた鼻に触れ、ひくりと動いた。

この美しい土地を、汚させはしない。

「妖異よ、我が終の舞を見て幽世への土産とするがよい――!」

灼鬣のライー:ロスガルの女性。踊り子。わがままで責任感が強い。『光の戦士』の一人。エオルゼアで生きるロスガルたちの互助会的な組織の幹部。どこかの氏族の姫。『あるべき人をあるべき場所に喚ぶ力』(コンテンツファインダー)を持つ。

青毛のネメア:ロスガルの男性。暗黒騎士。田舎者で巻き込まれ体質。『光の戦士』にあこがれている。ライーによく使われる。

ロスガル互助会:エオルゼアでは数が少なく、各地に散らばっているロスガルたちの生活を支える草の根ネットワーク。『暁の血盟』とも秘密裏に協力関係を結んでいる。
『光の戦士』たるライーが所属しているが、彼女が『光の戦士』として表立って活躍するとあまりに目立ちすぎるため、ネメアや異種族の冒険者が『光の戦士』の代役をして、ライーらが後方からバックアップしてきた。
そのため、各地で『エオルゼアの英雄』『光の戦士』の語られる姿はまちまちであり、概ねハデな格好のロスガルであることが多いとされている。

桃源のミラ:ヴィエラの女性。白魔道士。ロスガル互助会の支援者。

フレカニさん:ルガディンの女性。優しいけど芯のある人。フォロワーさんちの子をお借りしました。

 

「……で、やっと姫様が表立って活動するんだど?」
「ええ。今まではロスガルの女というだけで目立ってしまうと、止められていましたが」
(目立つのはその格好とワガママのせいだと思うど)
「……何か?」
「いえ」
「とにかく、ようやく広い空の下で舞えるのです。楽しみですね」

つ づ く


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