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【ウマ娘】トランセンドの話

ピックアップ期間も終わるので、ネタバレありでトランセンドシナリオの話をしましょう。いかにトランセンドが可愛いかという話です。

嘘です。ごめんなさい。「トラン可愛い〜もう一生トレちゃんと友達以上の距離感でイチャイチャしてて」と私も思わなくもないしそういう記事を書こうと一瞬血迷ったけど、それより元被災者として書いておこうかなと思った話があります。

【おことわり】
このnoteは特にオチもなければ問題提起もなく、思ったことをとりとめもなく書いているだけです。あと独自の解釈があるかもしれません。理解力不足だったらすまねえ。そして最終的には「東日本大震災と、それをエンターテイメントに昇華した作品」の話になると思います。
トランセンドの話だけを見に来た方はタイトル詐欺で申し訳ないですがブラウザバックして頂けると助かります。

大事なことなのでもう一度言いますが、シナリオのネタバレをしなければ先に進めない話なのでネタバレ拒否の方は絶対に閉じてください。


トランセンドのシナリオでは、あらゆることが順調に進んでいたシニア級の3月前半、世界を暗闇に包む激震がウマ娘世界を襲います。

唐突すぎて脈絡もないそれは、「近年の日本で実際に起こったことであり、誰にとっても悲劇や天災は唐突で、脈絡などないのだ」という強すぎる実感を伴って、多くのプレイヤーに突飛な展開としてではなくリアリティをもって受け取られました。

急激な世界の変化。ほのぼのした日常のなかにゾクゾクした非日常を求めていたトランセンド(とトレーナー)は、確かに「非日常」の世界に突入しました。

北国(被災地)の人々と懇意にしていたトランセンドは頻繁に現地へボランティアに向かいます。
なんとかしたい、しなければという義務感、焦燥感と、個人では大したことができない、しかし世間の空気感に対して何も影響を与えられないという無力感、罪悪感の間で激しくメンタルが揺さぶられることになります。

「共感疲労」というものがあります。

(短い体験記なので読んで欲しいですが、その4ページ目を抜粋)


(((はげしい)))キーウィ@オカリナ 講師のジャスティンさん
@Justin_ocarina
https://twitter.com/Justin_ocarina/status/1769619221821165698?t=K7pHNtLYGkYC6HF-thtJNgより

無気力になってしまったトランセンドは、明らかにこれでした。トランセンドはずっと頑張っていた。頑張りすぎたのかもしれません。

ほどんどの心の問題を解決するのに必要なのは「時間」です。赤鬼ことトップウマドル・ファル子のように、「自分にできることはこれしかないから」と鬼メンタルで前向きにレースに取り組むのもひとつの正解ですが、トランセンドに必要なのは心得ではなく時間でした。

若い世代は、物心ついたときにはもう世間の東日本大震災のショックは落ち着いていたと思います。これも「時間」によるもの。ですから、今年の能登半島の地震のほうがタイムリーに感じるでしょう。
あの地震からまだたったの3ヶ月程度しか経っていませんが、この空気感の変わり方をしっかり肌で感じ、目に焼き付けてほしいと思います。

トランセンドの世界では、当初彼女は被災地と、被災地じゃない場所との空気感の違いに困惑し、悩みました。被災地では「今日の衣食住が無い、いつでも死に直面している」状況なのに、被災地外は「かわいそう」の域を出ません。新幹線で行けばこんなにすぐ近くなのに、心はあまりにも遠い。それを示すために、意図的に新幹線のシーンが多用されていたと思います。

トランセンドは被災地に寄り添い続け、共感疲労になってしまい、やがて季節が春から夏に変わるころ──「次の」空気の変化が訪れます。それは被災地が、前を向いて歩み出すタイミングでした。

現実世界でも被災地においては「復興」、被災地外においては「応援」がキーワードになり、ポジティブな目線で被災地とそれ以外の地域の気持ち・ムードが合致した瞬間というのは確かにありました。

※ウマ娘世界では原発事故が起こりませんでしたので、話が複雑になるため現実のそれは割愛

絶不調に陥っていたトランセンドは、かつて自分が必死に助けた被災地の人々から逆に応援されることで気づきます。「そうか、自分も傷ついていたんだ」。メンタルダメージは、自分でそれを自覚し、受け入れることで回復へのステップに入ることができます。

単純にトランセンドが強メンタルで立ち直り、自分も被災者も鼓舞し、日本中に応援のハッパをかけただけでも良い話なのですが、一方的に尽くす話になってしまいます。
それを超えて、彼女と被災地が相互に好影響を与えた関係として表現したのは素晴らしすぎてサイゲ神か?ありがとうございます。

また、震災時にはスポーツ選手はみな少なからずトランセンドと同じような気持ちを抱いています。「こんな大変なときに、スポーツ『なんか』していていいのか?」という葛藤は至るところで耳にしたし、人によっては実際に批判もされたと思います(いわゆる「不謹慎厨」という言葉が定着したのもこの時期)。

いや、スポーツだけではないですね。
インターネット(というより携帯電話)が普及してから初めての大災害だったので、被災地で生々しく「命」のやりとりをしている様子がリアルタイムで伝わってきて、日本中の人が「自分ごと」としてとらえてしまって、それは良い部分もあったのですが明らかに過剰な反応もありました。
ありとあらゆる「命に関わらない」こと、特に娯楽は「いますべきことではない」といった論調で批判される異様な雰囲気の世界でした。

その時代の反省があるため、今の時代ではつよつよファル子メンタルでいるのがスポーツマンの「正解」とされていて、災害があると高校生ですら模範解答として同じようなことを言います。しかし当時は不謹慎厨への正答がわからずトランセンド状態になった人々がいたのも忘れたくありません。

ともかく時間の経過によって被災地の空気は変わり、トランセンドを応援することができるようになり、トランセンドも価値観を新たに生まれ変わります。

だいたいのことが予測できてしまって、見通しの立つ出来事の観測ばかりでつまらない──と思っていたこの世界は驚くほどもろく、いつでも一瞬で壊れて地獄になり得る。

「つまらない日常をゾクゾクさせる」のではなく、「大切な日常をもっと楽しく、もっと最高にする」のだと。

シナリオは現実の時系列と前後しますが、ドバイのレースから日本へHOPEを届けるところでフィナーレを迎えます。ドバイシナリオの実装を待望できる、良いラストシーンでした。



さて、筆者がトランセンドシナリオで一番語りたい部分は語ってしまったのですが、本題はここからです。

ウマ娘トランセンドのストーリーは確かに素晴らしかったですが、客観的に見ればこれはゲームであり、エンターテイメントです。大震災をエンタメとして消費するなという声もきっとあるでしょう。

それでも、その声がほぼ聞こえないぐらいトランセンドシナリオが圧倒的な支持を得ているのはなぜか?
揶揄したりせずに真摯に向き合うのは当然としても、震災の翌年などに出せばフルボッコだったはずです。不謹慎厨でなくとも、震災に限らず、「たくさんの人が亡くなった事件をモチーフにしたエンタメ」は気軽に作ってはいけません。説明するまでもないと思います。

しかし。戦国時代をモチーフにした無双ゲームとか、第二次世界大戦をモチーフにした戦略ゲームとかはありますが、東日本大震災モチーフの物語は、被害の規模を鑑みてもあまりにも受け入れられるのが早い気がします。

そういえば日本では、ある時期から着々とそういった土台が作られ、「被害者を愚弄することは許されないがエンタメにすること自体は問題ではない(風化防止にもなるので)」という共通認識が構築されていったなあ…。

というのが、本題です。せっかくなので、これを少し振り返ってみたいと思います。
トランセンドが日本に希望を届けたその後の世界、「13年後の今日まで」を、幸いにも私達は既に見てきたので。

(ちなみにウマ娘の話はここまでです。だいたい新海誠監督作品の話になります)


2011年の東日本大震災を経験して作成されたエンターテイメントで、かつヒットしたものと言うと、まずふたつの映画作品が浮かびます。

『君の名は。』2016年
マイナーだった新海誠脚本/監督(最新作:すずめの戸締まり)作品だが、あまりにも内容が良すぎて口コミで途中から客足が伸び、ついには社会現象にまで発展した異例の映画。当時の邦画ランキングで『千と千尋の神隠し』に迫る2位に躍り出た(現在は3位)。
作中で描かれる不可避の天災は地震ではないですが、東日本大震災を意識して制作されたとされています。

『シン・ゴジラ』2016年
言わずと知れた庵野秀明脚本/監督(代表作:エヴァンゲリオン等)の手掛けた「シン・シリーズ」の先駆けで、現実の現代にリアルにゴジラが出たらどうなるかをシミュレーションしたような作品。
「海からやってきた」謎の生命体が「街中で放射線を出す」。3.11の津波を原因とする原発事故とその政府対応をモチーフにしているだろうと思われます。

特筆すべきは、2016年というタイミング。かつて、有名ツイッタラーである犬の人(本業は編集者)がこう言っていました。

※『この世界の片隅に』は割愛したいので各自でご確認ください

「震災から5年、やっと落とし込める時期になった」。

誰かが「あの震災を連想する映画にしても良いよ」と言ったわけでもありません。世間の空気感、雰囲気、ムードの問題です。
満を持して出てきたこの2作品が、あらゆる批判をかき消す勢いの名作だったことでそういう雰囲気の加速に成功したとも言えます。

2016年は8年後の世界から見ても特異点というか邦画におけるひとつのターニングポイント(ポストジブリのアニメ映画の繁栄等)なのですが、特に新海誠監督は、ここから災害映画を作り続けます。

バズる前は一部のマニアにだけ知られている無名な存在だった新海誠監督にとって、この作品のフィードバックが大きな影響になったことは想像に難くありません。

何か大きな使命感に突き動かされるように新海誠が3年後に作った作品は『天気の子』。豪雨災害をモチーフにしたもので、これも大ヒットしました。

それからさらに3年後。2022年のことなので覚えている人も多いかと思いますが、『すずめの戸締まり』が公開されます。

観てなくても内容を伝え聞いたかたも多いでしょうし、予告の時点でわかるので書きますが、これはド直球な「東日本大震災」をテーマにした作品でした。

アニメ映画は大人にも受けますが、ジブリでも漫画原作でも、ほとんどはジュブナイル映画(ティーンをターゲットにしたもの)です。必ずしもそうではないですが、主人公の年齢がターゲット層の年齢に近くなることが多いです。

震災から11年後。当時5歳だった子供は16歳です。「今出さなければ、遅くなってしまう」と新海誠は語っていました。
既に3年に1作品を作り上げるサイクルに入っていたため、13歳でも19歳でもなく、その年齢層をターゲットにするには最初で最後のチャンスだったわけです。

そうして出てきた内容は、その年代の元被災者や、被災者の関係者、遺族に救いのメッセージを与えるものでした。
作品全体としてみればギャグシーンも多く、戦闘が白熱するシーンも恋愛要素もあり、明らかにエンタメ。それでも震災をテーマに扱うことの批判は見かけなかったです。かつての被災地で特別上映され、大切に扱われているニュースを見た記憶はあります。


そして2年後、震災から13年後、2024年。
正月に能登半島で大地震が起こってから、3月11日にトランセンドが実装されます。

時期、大丈夫か……!?と思ったトレーナーも多いかと思いますが、トランセンドが経験した全てのことを日本社会も一度経験しているのでサイゲームスも舵を切ったのでしょう。

・2ヶ月の経過で、社会の空気が変わってくること(トランセンドシナリオにもある通り)
・不謹慎厨を無視し、無関係な人は普段通り過ごすこと
・エンタメであっても真摯に向き合うなら大震災をテーマに扱って良い土壌があったこと

これらがトランセンドシナリオが高評価になった理由……というか荒らされなかった理由かなと思った次第です。

なんか途中から映画の話ばかりになってしまいましたが、戦闘力スカウターに「シネマガン」なんて名前をつけるぐらいですからトランセンドも許してくれるでしょう。

青春の熱いオタク、映画作りがち。

以上、トランセンドが過ごした日々から、トランセンドが実装された日までの、震災エンタメを見てきた自分視点の話でした。

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