なりたい自分で勝負しろ。音楽ライブ「バ美肉紅白2023」開催レポート
メタバースでの音声技術を競い合う歌合戦「バ美肉紅白2023」を12/23に開催、ライブ総視聴者約1,200名が決戦の行方を見守る大盛況のイベントになりました。仮想世界「メタバース」では美少女キャラクターになりきって生活する"バ美肉(バーチャル美少女受肉)"が当たり前のカルチャーの一つとなっており、可愛い声を出すための音声技術が注目されています。本イベントでは機械を使って女声をだす「ボイチェン」軍と発声技術で女声を出す「両声類」軍が生歌と技術解説を惜しげもなく披露しました。メタバースの音声技術の魅力を伝えるため、3時間に及ぶアーカイブを全編無料で公開しました。
この記事では「ボイチェン勢」「両声類」とは何なのか、メタバースにはどれくらいが生息しているのか、データと合わせて紹介します。出演メンバーによる技術解説スライドを全て掲載し、みなさんから頂いた感想と合わせて、イベントの魅力を約1万字で徹底解説します。
「ボイチェン勢」「両声類」とは?
「ボイチェン勢」とは、ボイスチェンジャーと呼ばれる機械の力を利用し、元の声とは違う声で喋る人たちのことである。物理的な音響加工機器を用いる「HW(ハードウェア)ボイチェン」と、コンピュータによって演算処理を行う「SW(ソフトウェア)ボイチェン」の主に2種類のアプローチが存在する。近年では地声にエフェクトをかけるのではなく、機械学習で完全に別人の声に置き換えてしまう「AIボイチェン」も話題になっている。AIボイチェンは遅延の問題からリアルタイムで歌を歌うことは難しく、本イベントに登場するのは全員がエフェクト式のボイチェン勢である。
一方で「両声類」とは、ボイストレーニングで声帯を自在に操り、男声・女声両方を生身で自在に出し分ける発声技術を獲得した人達のことである。尊敬と畏怖を持って「両生類」ならぬ「両"声"類」と呼ばれている。
メタバースにはどれくらい「ボイチェン勢」「両声類」が生息しているのか?
私とスイスの人類学者ミラが実施した大規模公開アンケート調査「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」では、ソーシャルVR住人の音声表現に関しても調査している。これによると、約2,000名の回答者のうち9%がボイチェン勢であり、うち7%がエフェクト式のボイチェン(図中オレンジ色)を、2%がAIボイチェンを(図中赤色)使っていた。一方で、両声類など、発声技術を利用して普段とは違う声で音声会話をしている人の割合は4%(図中緑色)であった。
なお、ここ数年でソーシャルVRユーザーの人口は急増しているにも関わらず、2021年のデータと比べると、この2年間でこれらの割合には大きな増減は見られなかった。
ソーシャルVRにおいて音声を変えて喋る理由については、中の人が男性の場合は75%が「男声を女声に変換するため」と回答していた。
名前やアバターの見た目に関しては現実とは違う名前や姿で暮らしている人が大多数であることを考えると、音声技術を使っている人の割合は少ないようにも思える。この理由として、私は音声技術の難しさがあると考えている。見た目に関してはアバターを被れば好きな姿になることができるが、ボイチェンにせよ両声類にせよ、音声技術に関しては非常に難易度が高く、なかなか一筋縄ではいかないのである。
逆に言えば、音声技術はメタバースを「なりたい自分になれる」世界として完成させるための最後のピースとあると言えるかもしれない。そうした音声技術の魅力を伝えることも本イベントの意義の一つである。
音楽ライブ「バ美肉紅白2023」
バ美肉VTuber(バーチャルYouTuber)8名が「ボイチェン(=ボイスチェンジャー)軍」と「両声類軍」に分かれて「kawaiiボイス」を競い合う、メタバース内の歌合戦イベントである。メタバースで美少女になる文化「バ美肉(バ―チャル美少女受肉)」と音声技術の振興のために毎年開催されており、今回は第4回となる。
今回は戦国時代における「関ケ原の戦い」をモチーフに、メタバースを"関ケ原"、ボイチェン軍を"西軍"、両声類軍を"東軍"に見立ててイベントを開催。応援のための両軍の「家紋Tシャツ」や「合戦旗」が配布された。ライブ総視聴者は1,158名(cluster会場への来場者数449名、YouTubeライブの視聴者数709名)と過去最大の盛り上がりとなった。両軍の各メンバーが歌唱と技術紹介を披露したのち、来場者全員による決戦投票が行われ、両声類軍が4連覇を達成した。決着後に健闘を称え合い、全メンバーによる合唱「ロマンスの神様」が披露された。
※イベント詳細:バ美肉紅白2023
激戦ダイジェスト動画(5分)
ライブ本編アーカイブ(3時間全編無料公開中)
以下、各メンバーによるステージの模様を、イベントで使用された技術解説スライドとみなさんの感想を併せて紹介する。
⚡バーチャル美少女ねむ (ボイチェン):全人類をkawaiiボイスにするためのたった一つの方法
男性と女性の声の高さには一般的に約1オクターブの違いがあり、kawaiiボイスを出すためにはいかにして声の高さを上げるかが一つの課題となる。ボイチェン勢といっても、有名VTuberなどはクオリティの高い声を実現するために音声技術(筋肉)と併用している人がほとんどで、非常に難しい技術なのである。
そんななか私は「全人類をkawaiiボイスにする」方法を確立するため、筋肉は一切使わず「スイッチひとつでkawaiiボイス」を目指すアプローチだ。このためにはパワー(ピッチ改変性能)とスピード(低遅延)という2つの矛盾した性能を高いレベルで併せ持つボイチェンが必要となり、入手が難しいという課題がある。
⏩17:42 ⚡ねむ:ココロコスプレ Ballad ver. / バーチャル美少女ねむ (オリジナル曲)
⏩23:08 ⚡ねむ:全人類をkawaiiボイスにするためのたった一つの方法
⏩27:44 ⚡ねむ:ハイブリッドレインボウ / the pillows (アニメ『フリクリ』)
🐸hal (両声類):15年修行してわかった両声類になるための5つの奥義
halさんは、15年修行して辿りついた、両声類になるための5つの奥義を解説した。
両声類の道に近道はない。それは「なりたい声をみつける」「録音して現実と向き合う」「普通に歌が上手くなる為の練習」「気持ちから入る」「とにかく継続」である。圧倒的な練習量による、安定感のある美しい歌唱を披露した。
⏩32:43 🐸hal:晴れてハレルヤ / 奥井亜紀 (アニメ『魔法陣グルグル』)
⏩37:11 🐸hal:15年修行してわかった両声類になるための5つの奥義
⏩44:00 🐸hal:ETERNAL BLAZE / 水樹奈々(アニメ『魔法少女リリカルなのはA's』)
⚡もこねもこ (ボイチェン):ボイチェンは愛! 愛の力をボイチェンに流し込む!
もこちゃんは、ボイチェン勢でありながらも高いクオリティのシンガーを目指すために、低遅延(品質はやや犠牲に)ボイチェンと高音質(遅延は大きい)ボイチェンを組み合わせた独自の活動スタイルを紹介した。
もこちゃんにとってボイチェンはアシストのためのものではなく、理想の声を手に入れるための唯一無二の自分自身であることを力説。愛の力をボイチェンに流し込み、かっこよさとkawaiiの融合した独自の歌声をステージで魅せつけた。
⏩50:42 ⚡もこ:Rising Hope / LiSA (アニメ『魔法科高校の劣等生』)
⏩55:09 ⚡もこ:ボイチェンは愛! 愛の力をボイチェンに流し込む!
⏩1:00:30⚡もこ:unravel / TK from 凛として時雨 (アニメ『東京喰種』)
🐸じゃがりこ (両声類):プロの意地! ボイトレを極めるとギャルの帝王になれる!
じゃがりこさんは、なんとプロのボイストレーナー!
いきなり女声の練習をするのではなく、男声で自由自在に歌えるようにボイストレーニングを極めることで、結果的に女声でも自由自在に歌えようになるというプロの理論を紹介。あらゆる声を「地声」として自然に作り出せる究極の声帯から圧倒的な歌唱力を繰り出し会場を震え上がらせた。
⏩1:05:47 🐸りこ:Brave Shine / Aimer (アニメ『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』)
⏩1:10:05 🐸りこ:プロの意地! ボイトレを極めるとギャルの帝王になれる!
⏩1:14:37 🐸りこ:First Love / 宇多田ヒカル
⚡月山ゆかり (ボイチェン):筋トレとボイチェン変更で人間を超えたkawaiiの極みへ!
ゆかりちゃんが目指すのは、リアルな女性ボイスとは一線を画す、初音ミクちゃんみたいな、「人間を超えた」デジタルkawaiiボイス! 今回は更なる高みを目指すために、両声類同様のボイストレーニングを敢行し、遅延を犠牲にしてボイチェンの種類を変更。よりクリアに、より色っぽくなった「デジタルkawaiiボイス 2.0」をステージで披露した。
⏩1:20:05 ⚡ゆかり:恋愛サーキュレーション / 千石撫子 (アニメ『化物語』)
⏩1:24:53 ⚡ゆかり:筋トレとボイチェン変更で人間を超えたkawaiiの極みへ!
⏩1:30:47 ⚡ゆかり:可愛くてごめん (feat. かぴ) / HoneyWorks (アニメ『ヒロインたるもの!』)
🐸噛ませ戌 (両声類):リスナーとの関わりの中で目覚めた「未亡人」キャラ!?
噛ませ戌さんは、自分の「未亡人」キャラの誕生秘話を公開! リスナーとの関わりの中で見つけた、思いもよらない新たな自分。単に可愛い声を目指すのではなく、声だけで自分のキャラクターの世界観を相手の脳内に再現する、その技はもはや「領域展開」! 母性溢れる独自のママボイスで会場をオギャらせた。
⏩1:35:45 🐸噛ませ戌:元気を出して / 竹内まりや
⏩1:40:49 🐸噛ませ戌:リスナーとの関わりの中で目覚めた「未亡人」キャラ!?
⏩1:46:43 🐸噛ませ戌:負けないで / ZARD
⚡セイ・クイーン (ボイチェン):海外でもダンボールハウスで高音ボイスお嬢様になれる!
セイちゃんは、カナダに引っ越したにも関わらず、バレないようにボイチェンの練習を続けるためにダンボールハウス (お手製の防音室) で活動している秘密を明かし、会場を爆笑の渦に巻き込んだ。「ダンボールお嬢様」とは…?
目指すのは、人間の声帯の限界を超えた、ボイチェンでしか到達できない高音域の歌声。脳を突き刺すような魂の歌声に、会場は思わず息を飲んだ。
⏩1:53:00 ⚡セイ:Black Cherry / Acid Black Cherry
⏩1:58:19 ⚡セイ:海外でもダンボールハウスで高音ボイスお嬢様になれる!
⏩2:02:12 ⚡セイ:GO!!! / FLOW (アニメ『NARUTO -ナルト-』)
🐸あまちじょんこ (両声類):アニキが教える3000部売れた女声教本の真髄とは!?
幼女とお兄ちゃんとのハーモニーに会場絶句。言わずとしれた大ヒット女声教本「kawaiivoiceを目指す本」作者の完全合法ろりあにきは、見た目とは裏腹の理論派タイプ。
自分の声の波形を音声解析ソフトで分析し、目標とする声を最速で手に入れるデータ解析に基づく科学的トレーニングを力説。そして、新キャラ「めすガキじょんこ」による神々しい歌声に、会場は感動の嵐に包まれた。
⏩2:09:03 🐸じょんこ:粛聖!! ロリ神レクイエム☆ / しぐれうい (VTuber)
⏩2:14:32 🐸じょんこ:アニキが教える3000部売れた女声教本の真髄とは!?
⏩2:24:32 🐸じょんこ:アムリタ / 牧野由依 (アニメ『ツバサ TOKYO REVELATIONS』)
運命の来場者投票! 両軍で「ロマンスの神様」を合唱!
来場者全員による決戦投票が行われた結果、27対49で両声類軍が4連覇を達成した。決着後に健闘を称え合い、全メンバーによる合唱「ロマンスの神様」が披露された。
合唱MV:「ロマンスの神様」ボイチェンと両声類で合唱してみた(5分)
ボイチェン勢も両声類もアプローチは違えど、自分の信じるkawaiiを追求する想いに違いはない。それぞれの追求する理想をぶつけ合うことで、メタバースにおける人類の新たな可能性が垣間見える、感動のイベントとなった。
⏩2:31:45 運命の来場者投票…!!!
⏩2:37:42 ⚡🐸バ美肉紅白2023合唱:ロマンスの神様 / 広瀬香美
両声類軍の感想
ボイチェン軍の感想
ライブ総視聴者数約1,200名! みんなの感想
今回は合計1,158名(cluster会場への来場者数449名、YouTubeライブの視聴者数709名)の方にライブで応援頂きました。本当にありがとうございました!
カメラワークを讃える声も多数!
イベントレポートの紹介
何人かの方にイベントレポートを書いて頂いたので紹介します。どれも素敵な内容なのでぜひご覧ください。
メディア掲載歴
株式会社ブイノス(プレスリリース)
リアルサウンド / Yahoo!ニュース
VR Inside
バーチャルライフマガジン
GAMEMO
TeckPicks
ClusTimes
VTuber Labo.
VTuber Post
参考:バ美肉紅白2022(去年)
昨年実施した「バ美肉紅白2022」のイベントレポートはこちらです。
参考:ソーシャルVRライフスタイル調査2023
メタバースでのライフスタイルを可視化するため、全世界のユーザーを対象に行った大規模公開アンケート調査のレポートを公開しました。第2回となる今回は回答数が2,000件と過去最大になり、要望の多かった「人口急増による変化」「コミュニティ」「経済」を重点テーマに設定しました。人類とメタバースの未来に向けたオープンな議論を活性化させるため、全80ページ無償公開しています。
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