メタバース完全に理解した【原住民が解説する定義・現在・課題・可能性】
最近話題の「メタバース」とは一体何なのか!? 実際にそこで暮らすメタバース原住民であり、メタバース文化エバンジェリストとして活動する私VTuber「バーチャル美少女ねむ」が、その定義や由来・よくある誤解・現在・課題そして「未来」をまるっと7,000字で解説します!
※2022/6/19 「400いいね」突破を記念して5,000字→7,000字に大幅加筆して記事を全面改訂しました!
Facebookの「Meta宣言」 その思惑とは?
2021年10月29日、GAFAの一角であり超巨大テック企業のFacebookが、社名を「メタ(Meta)」に変更し新しいインターネットの姿である「メタバース」事業を社命を賭けて推進することを発表しました。
CEOのザッカーバーグは「当社の目標は、次の10年間で、メタバースが10億人に利用され、数十億ドルの取引が行われるようにすることだ」として、今後年間100億ドル(約1兆1400億円)を超える予算をメタバース事業に投入するとしています。
私はこの発表をメタバースから観ていました。メタバースはまだまだ発展途上の世界。いちメタバースの住人として、巨大資本が投下されて業界が活性化するのはとても喜ばしいことだと考えています。
GAFAの中で唯一ハードウェアやOSのプラットフォームを持っていないFacebookは、GAFAの中では伸び悩んでいます。なんとしてでもメタバース時代のプラットフォームを手中に収め、次世代のインターネットの覇権を握りたいという思惑が見て取れます。
ハードウェアについては、2014年にFacebookはVRゴーグル大手の「Oculus」を20億ドルで買収しています。
メタバースとは「そこで人生が送れる仮想世界」
「メタバース(Metaverse)」とは一般的には「リアルタイムに大規模多数の人が参加してコミュニケーションと経済活動ができるオンラインの3次元仮想空間」の事を指しています。
これまでのオンラインゲームと何が違うの? と思うかもしれませんが、端的に言うと、単なる遊びではなく「そこで人生が送れる仮想世界」のことだと私は考えています。
「VR元年」と呼ばれる2016年以降、普及用のVRゴーグルが登場し、一般人でも仮想空間に全身で入り込んで人生を代替するような充実感のあるコミュニケーション体験(後述する「没入性」)が可能になりました。さらに、仮想空間内で個人間で自由に経済活動を行うためのITインフラ(後述する「経済性」)が徐々に整いつつあることから、仮想世界の可能性が大きく高まっているのです。
メタバースの由来
「メタバース(Metaverse)」は、「超/高次の(meta-)」 と 「宇宙(universe)」を組み合わせた造語で、元々はSF小説「スノウ・クラッシュ(1992)」 に出てくる架空の仮想世界の名前です。そこで登場する「メタバース」はVRゴーグルで体験するオンラインの三次元仮想世界で、アバターや土地の売買など、仮想世界の中で経済活動が行われる事が特徴です。
メタバースの定義
「メタバース」は今まさに進化の最中にある概念であり、その具体的な定義は現時点で定まっているわけではありません。1980年代に今の「インターネット」を想像するのが難しかったように、今後メタバースが当たり前のものとして普及するその瞬間まで、その定義が統一されることはないでしょう。
拙著『メタバース進化論(技術評論社)』では、日本バーチャルリアリティ学会の定義をベースに、以下の七要件を満たすオンラインの仮想空間をメタバースと定義しています。
ソーシャルVR:既にある「必要最小限のメタバース」
ソーシャルVR(VR SNS)とは、ユーザー同士が仮想空間上でコミュニケーションができるサービスのことです。VRゴーグルを被って完全にその世界に入り込んで体験することもできるし、テレビゲームのようにスマホやPCの画面を通して参加することもできるものもあります。
これまで2次元のwebサイト上で楽しむものだったTwitterやFacebookなどのSNSが3次元に拡張されて、全身で入って体験できるようになったものと考えるとイメージが湧きやすいかもしれません。
コロナ状況下で安全にコミュニケーションする場としても注目されており、現在急速にユーザー数が拡大しています。そのうちのいくつかは、上記の「メタバースの定義七要件」を全て最小限満たす「必要最小限のメタバース」と呼んで差し支えないと私は考えています。例としては、以下に紹介するものや、Facebook改めMetaが開発する「Horizon Worlds」などがあります。
一番人気のソーシャルVR「VRChat」
現在最も人気を集めているソーシャルVR「VRChat」では、最大同時接続数が9万人(2022年1月)を超えた事もあり、常に非常に多くの人が生活しています。
毎日数多くのDJイベント・音楽コンサート・技術集会・飲み会が開かれており賑わいを見せています。
ただし、VRChatで一般ユーザーが個人間で自由に経済活動を行えるしくみが実装されるのはこれからで、「経済性」を備えた本格的な「メタバース」として進化していくのはまだ先と言えそうです。また、メタバースでの自分の姿として重要な、唯一無二のアバターを使用するためにはゲーム開発(Unity)の専門知識が必要だという課題もあります。
メタバースを志向するソーシャルVR「Neos VR」
ソーシャルVRのひとつ「Neos VR」は開発当初から「メタバース」をコンセプトに掲げて開発が行われており、仮想空間の3Dアイテムを自由に交換したり、仮想空間で仮想通貨で取引する先進的な仕組みが既に実装されています。
例えば、美容室で髪型をセットしてもらう感覚で、全く専門知識のない人でもメタバースの中にいながら、アバターの姿をその場でプロに思い通りに改造してもらったり、そのサービスに対して対価を払ったりすることができるのです。「もうちょっと目を大きくしてもらっていいですか?」「背を低くしてもらっていいですか?」などと、その日の気分に合わせて、姿かたちを自由にアレンジしてもらう事ができてしまうんです。
ただし、現時点ではNeos VRは要求スペックが高かったり、同時接続できる人数がそれほど多くなかったりと「大規模同時接続性」に課題があります。
「メタバース原住民」の実態
全世界1,200人のソーシャルVRユーザーを調査・分析した「ソーシャルVR国勢調査2021」によると、驚くべきことに、ソーシャルVRユーザーの約半数が「ほぼ毎日3時間以上」利用する「総プレイ時間500時間超え」のヘビーユーザーであり、まさに「メタバースで暮らしている」実態が浮かび上がって来ました。このように「黎明期のメタバースで既に『暮らしている』と言っていいレベルで利用しているユーザー」の事を「メタバース原住民」と私は個人的に呼んでいます(私もその一人です)。
主な利用目的は「友達との交流」「色んな世界を回って景色を楽しむこと」「イベントへの参加」で、目的別に様々なソーシャルVRが使われていることがわかりました。
なぜ今メタバースが盛り上がっているのか?
メタバースはアイデンティティの革命
自己認識という側面から言えば、肉体の姿(アバター)を自由にデザインできるメタバースはアイデンティティの革命になると考えられています。これまで人間は生まれついての姿に縛られていましたが、それが自由にデザインできるようになり、「なりたい自分」で生きていく事が可能になります。
たとえば、現在のメタバース住人は、物理的な性別を問わず男女共に女性型アバターを利用する傾向があります。「心身の性別の不一致」を理由に挙げているユーザーも中にはいますが割合としては少なく、「単に好みだから」「より自分を表現しやすいから」「コミュニケーションしやすいから」が主な理由でした。
メタバースはコミュニケーションの革命
社会的な側面から言えば、物理的な距離に関係なく他者と繋がる事ができ、アバター等相手とのコミュニケーションに介在する様々なフィルターを自由にデザインできるメタバースはコミュニケーションの革命になりうると考えられます。
たとえば、メタバース原住民にとってVR内で恋愛することはもはや当たり前のことになりつつあり、実に40%が「恋をしたことがある」と回答していました。さらに、相手に惹かれるきっかけは「相手の性格」が64%(物理現実で同等の調査をすると基本的に「相手の見た目」が一番目に挙がります)、「相手の性別は重要でない」が75%など、物理現実とは全く異なる新しい関係性が生まれている事が明らかになっています。
メタバースは経済の新たなフロンティア
経済的な側面から言えば、物理的な土地や国家の壁に縛られていた資本経済を無限の世界に解き放つフロンティアでもあると考えられています。
フロンティア時代の今のメタバースは、まだ貨幣経済が成立していない旧石器時代のようなものです。その代わり、様々な「魔法」が使えます。距離の制約を超えて人と会えたり、会いたい人を召喚できたり、好きな姿に変身できたり、空を飛べたり、どこでもドア(瞬間移動)や四次元ポケット(アイテムを呼び出すしくみ)が使えたり… はっきり言って、慣れてしまうと物理現実が不便で仕方ないほどです。今後本格的な経済活動がはじまると、物理現実から仮想現実に経済の主軸が徐々に移っていくのは間違いないと私は考えます。
コロンブスがアメリカ大陸を発見すると、大航海時代が始まり世界の経済規模は爆発的に増大しました。メタバースは人類の経済圏が大きく広がる新たな「新大陸」なのではないでしょうか。
メタバースに関する誤解
メタバースはNFTの事ではない
ブロックチェーン技術を活用して、P2Pでデジタルデータを好きな価格でトレードできる技術「NFT (Non Fungible Token / 非代替性トークン)」が現在注目されており、メタバースがこれとセットで語られる事も多いですが、現時点ではメタバースはNFTと直接関係はありません。別にNFTを使わなくてもメタバースは構築可能です。
NFTによりデジタルアート作品や仮想アイテム(3Dモデルや仮想空間の土地)の「所有権」の取引が可能になるとよく語られていますが、現時点では不可能です。ブロックチェーンに記載できるデータ量はとても小さく3Dモデルデータなどを載せる事はとてもできないですし、法律上の問題などクリアしないといけない事が多く、今後どうなっていくのか完全に未知数の領域です。投機やお金が絡む話なので、詐欺のような話も多いので十分注意しましょう。
私はVTuberとして最初期にNFTを発行・販売した一人でもあります。NFTは「デジタル化されたトレカ」と考えるとイメージが湧きやすいかもしれません。トレカ自体には希少価値がありますが、トレカを持っているからと言ってトレカに貼られたイラスト(参照先データ)を所有している事にはなりませんし、私に対して何か権利があるわけでもありません。売買を行う場合は、きちんとNFTがなんなのか理解した上で行いましょう。
一方で、メタバースの要点の一つである「経済性」を考えると、アイテムやサービスをプラットフォームを超えて取引するための「お財布」や、アカウントに取引履歴を蓄積して私のような仮想キャラクターに信頼を生み出し経済活動に参加できるようにするしくみは極めて重要です。長い目で見た場合には、仮想通貨やブロックチェーンがそれを実現するための根幹技術として発展していく可能性は大いにあると考えています。
メタバースはAR/VRの事ではない
メタバースはAR/VRの事ではありません。AR/VRは仮想世界に入る1つの「手段」に過ぎないです。
毎日VRゴーグルを被って仮想世界に入っている私が言うのもなんですが、現時点でのVRゴーグルはまだ少し重いですし、解像度・視野角・リフレッシュレートなどは劇的に進化しているもののまだ肉眼で物理現実を見ている時と比べると劣り、慣れないと酔いの問題もあります。万人がこれを今すぐ日常的にやるにはまだちょっとハードルが高いかもしれません。(とはいえ日進月歩の世界なので向こう数年でかなりのレベルに到達すると思いますが)
メタバースの要件の一つは「アスセス性」です。仮想空間にはスマホやPCからログインしてもいいし、AR技術を使って物理現実の中に仮想世界が登場してもいいですし、色んな形があっていいはずです。
今できるメタバース時代への投資とは
メタバースに興味ある人は関連株や怪しい商材に手を出すよりも、思い切ってVRゴーグルを買って、ソーシャルVRの世界に飛び込んでみるのが未来に向けた何よりの「投資」になると思います。
VR=メタバースではないと言いましたが、今のメタバースを最大限に楽しむには、VRの体験が一番なのは間違いありません。一番お手頃でコスパのよいVRゴーグルは3万円台で買えるQuest 2です。Quest 2は一応単体でも動作しますが、今のソーシャルVRはスペック勝負の世界です。その体験を快適に存分に楽しみたい場合、VRゴーグルに加えてゲーミングPCと呼ばれる高性能PCが必要になります。
予算に余裕がある人は、私も使っているハイエンドVRゴーグル「VIVE Pro」が最近(2021年11月)2万円OFF(153,000円→137,000円)で一気に手頃になっておすすめです。それでもまだまだ高級機ですが、被り心地は最高だし、アバターと一体になれるフルトラや顔トラなどのトラッキング機能も導入しやすいです。メタバースに本当に興味があるなら、メタバースの世界を今フルで体験したいなら、決して高くはない金額だと断言できます。
※ちなみに、性能を肉眼レベルに近づけた(片目解像度5K・視野角120°・リフレッシュレート120Hz)更に上位のモデル(VIVE PRO 2)もあります。
これからゴールドラッシュを迎えるメタバース世界。その世界は何もプラットフォーム企業や投資家だけが作っていくものではありません。その文化も、コンテンツも、そこに住むメタバースの住民ひとりひとりが作り上げていくものです。今はまだ何もかも発展途上の世界ですが、だからこそ今しか体験できないことがたくさんあります。
メタバース原住民になって、
私達と一緒に人類の新たな未来を作らないか?
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本書は、メタバースに興味を持った幅広い読者の方を対象に、現在のメタバースの真の姿、そしてその革命性をわかりやすく伝える「メタバース解説書の決定版」です。自身も黎明期のメタバースで暮らす"メタバース原住民"の一人である著者・VTuber「バーチャル美少女ねむ」が、自分自身の体験、数多くのユーザーへのインタビュー、そして全世界のユーザー1,200名を分析した大規模調査「ソーシャルVR国勢調査」を元にメタバースのリアルを明らかにする、世界初の「仮想世界のルポルタージュ」です。
メタバースの定義の考察から、ソーシャルVRを始めとした具体的なサービス、支える技術、生活の実態、新たな文化、抱える課題、そして私達の「アイデンティティ」「コミュニケーション」「経済」に今後どんな革新をもたらすのか、実際にメタバースに生きる"原住民"ならではリアリティ溢れる内容をデータの裏付けと共にお届けします。
この記事でメタバースに興味を持った方は、絶対に満足いただける内容になっています。
参考文献
1,200名のメタバースユーザーを調査した「ソーシャルVR国勢調査」のレポートはこちらで無償で公開しています。
自己紹介
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「メタバース」の概念は、私が活動当初から提唱してきた、3大コスプレ技術により自己と社会のアップデートが起こるとする「人類美少女計画」の思想に非常に近くて驚いています。
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