老腸相関について

酪酸を増やす腸内細菌が老化を防ぐ

最近、老化と腸に深い関係があることが明らかになってきています。腸の老化を防ぐことで、体の老化を防ぎ、健康長寿が叶うかもしれません。
2017年から、長寿地域として有名な京丹後市の高齢者の腸内細菌を調べる研究を行っています。この京丹後市は、驚くべきことに100歳以上の「長寿者」が全国平均の2.7倍にも上ります。調べていくと、「酪酸」という成分と、酪酸を作り出す「酪酸産生菌」
という腸内細菌が老化防止に重要な役割を持つことがわかりました。

産生菌が増えると、酪酸によって免疫細胞が増え、老化の原因となる炎症を防いでくれるのです。また、酪酸産生菌が増えると、脳細胞の老化を抑制するという報告もあります。
酪酸産生菌は筋肉量の下も防ぐ

さらに研究を進めていくと、健康な高齢者はサルコペニア(筋肉量の低下)が少ないという特徴があることもわかりました。腸内の酪酸産生菌が多いほど骨格筋量が多い傾向が見られたため、路酸産生菌はサルコペニアも防ぐのではないかと考えられます。
京丹後市の長寿者の食事は、肉をあまり食べず豆類など植物性のたんぱく質や食物繊維の多い野菜中心です。最近ではアスリートも、同じように魚や豆類からたんぱく質をとり、食物繊維を積極的にとるようになってきています。つまり、肉をたくさん食べなくても、良質な筋肉は作ることができるということです。
体に良い腸内細菌のエサとなる食物繊維を積極的に摂取すれば、酪酸産生菌が育ちます。今後腸内での酪酸産生菌の育成が、老化防止のキーワードになるのではないでしょうか。
ストレスが腸内フローラを乱す

ストレスを感じるとお腹が痛くなったり、下痢や便秘などが起こったことはありませんか?あるいは緊張すると空腹なのに食欲が出ない、頻繁にトイレに行きたくなるという経験もあるでしょう。これらは「脳腸相関」と呼ばれる、腸と脳の密接な関係によって引きおこされる現象で、近年注目されています。脳と腸は自律神経やホルモンなどを介して互いにつながっています。
脳がストレスや不安を感じると、脳内の神経細胞が活性化され、「ストレスから体を守れ」という指令が副腎に送られます。ストレスをコントロールする副腎からは抗ストレスホルモンが分泌され、消化管にある受容体(シグナルを受け取るたんぱく質構造)が受け取ることで、腸内フローラのバランスがくずれ、お腹の調子が悪くなってしまいます。つまり、脳→自律神経→腸へと情報が伝えられているのです。
腸の状態が脳に影響することも逆に、腸↓自律神経→脳という経路でも情報が伝達されるという事実も明らかになりつつあります。たとえば、うつ病の人は便秘になる傾向がありますが、腸内環境の悪化がうつを引き起こし(腸↓脳)、うつ病なると交感神経が優位となって腸の働きが悪くなり、便秘になる(脳→腸)といった関係性です。

脳相関から、脳-腸内細菌相関へ

最新の研究では、脳と腸の関係だけでなく、脳と腸内細菌との関係も注目されています。たとえば、気分を前向きにしたり精神を落ち着かせたりする脳の神経伝達物質は、実は腸内細菌によって大腸でも作られています。

視点を変えれば、腸内フローラが乱れると、うつや無気力を招きやすくなります。また、認知症や情緒が不安定になる人が増えているとも言われ、腸内環境の悪化が関係しているのではないかと考えられています。

注目の有用菌「酪酸産生菌」

腸内細菌のうち、ビフィズス菌や乳酸菌は有用菌としてよく知られていますが、最近注目が高まっているのが酪酸産生菌です。
酪酸産生菌とは、酪酸を作り出す菌のこと。酪酸は、肥満を防いだり、炎症を抑えたりと、老化の防止にも効果があり、体に良いはたらきをしてくれる短鎖脂肪酸のうちの1つです。酪酸は酪酸産生菌だけが作り出すことができます。
酪酸は大腸のエネルギー源であり、悪用菌の発生を抑制してくれます。また、酪酸が大腸の代謝を活発にさせることで、腸内の酸素が消費されます。その結果、酸素を嫌うビフィズス菌やほかの有用菌がすみやすい環境にもしてくれるのです。免疫力が高まり、炎症を抑制する効果も得られます。

エサはやっぱり水溶性食物繊維

腸内環境を良くして腸の老化を運らせるためには、腸内に酪酸を作ってくれる酪酸産生菌を増やすことが有効です。そのためには、酪酸産生菌のエサになるものをたくさん食べましょう。

酪酸産生菌が好むものは、やっぱり食物繊維。中でも水に溶けやすい水溶性食物繊維が好物です。
「腸内細菌のエサになる」とは、実際に腸内細菌が食べるのではなく、腸内細菌が、エサとなるものを分解して別の物質を作り出す(=代謝する)こと。発酵は、このプロセスを指しています。酪酸産生菌は、食物繊維を代謝して、体に良い酪酸を生み出してくれるのです。

腸内の多様性を保つことも忘れずに

食物繊維を普段の食事でたくさん食べるのが大変な場合は、サプリメントでとるという方法もあります。
ただし、特定の食物繊維ばかりを摂取しすぎると、その食物繊維を好む菌ばかりが増え、腸内フローラにとってもっとも重要な多様性が失われるので注意が必要です。
また、酪酸産生菌を増やすためには、適度な運動も有効です。良い腸内環境のためには、食事と運動の両面から気をつけていきましょう。

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