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残酷な神が支配する 読了

破滅と救済の物語でした。
やられました。この作品に生活が持っていかれて仕事が手につきません。

以下つらつらと読書感想文です。

「人殺し」

サンドラが秘密を知っていたということを知ってから、ジェルミはサンドラを憎んだはず、殺したことを正当化しようとしたこともあったのかもしれない。
だけどやはりサンドラへの愛が無くなることはなく、心が壊れてしまったのではないか。
サンドラを守るために受けていた恥辱が、無駄だった。
全てサンドラが原因だと言うイアンの台詞が事実だと思う。
でもそれを受け止めるにはジェルミは脆くなりすぎていた。
だからイアンは包み込むようにキスをするのだと思う。

ジェルミにとってイアンが必要な理由


「きれいなイアン」を作るジェルミのシーンから、イアンと体を交わすのはトラウマがやってくるドアに鍵をかけるためだということがわかった。
きれいなイアンが心に住まうということ、それはイアンからしたら愛だがジェルミは認めない。
愛とは暴力や支配を内包するものだが愛も破壊衝動が入れば暴力に変わる。
だからジェルミは認めない。

ジェルミに罪はあるのか?

8巻まで読んだあたりでジェルミがイアンに愛されている理由が分からなくなった。
見た目だろうか。
薬に溺れて男娼をしていてニコリとも笑わないジェルミを好きな理由がわからない。
そこまで考えてハッと気付いた。
ジェルミは罪を冒しているが1巻ではなんの罪があった?
グレッグの性犯罪のせいで曲がってしまった人生なのになぜ私がジェルミ自体に問題があるかのような捉え方になってしまっているんだ?と。

「やめて!いや!いらない それはいらない いらないんだ!」


欠けていたものはなんだろう。愛だろうか。
イアンへの愛がジェルミには確かにあるのに欠けていて、愛を埋めるとジェルミは苦しみ出す。
愛する人に醜悪な自分を知られたくない。
2巻では「愛したい 愛したい 誰かを愛したい 愛したい!心から!まっすぐに! ただまっすぐに!幸福に!愛されたい!愛されたい誰かに! 幸福になりたい!誰か愛せる者 まともに愛してくれるものを探して 見つけて この狂った秤の針を もとにもどしたい!」と言っていた子が度重なる虐待で愛を否定するようになったというのが本当に酷だ。

「走って来いここまで!ブレーキをかけるな!」「花畑なんかない!断崖だ!断崖だ!」

対比がとてもつらかった。
イアンには無限の可能性が広がっているように見える世界がジェルミにとっては断崖だということが。
物語の終盤で2人は崖に立つ。
10巻、海辺で遠くに飛べたジェルミの描写がせめてもの救いだった。
もう崖に立っても飛べるのだ。

余談

ボストンとイギリスを舞台にしたことで両者の国の魅力が際立つ。
ジェルミとイアンが渋めの歴史に惹かれているのが印象的だった。作品に散りばめられた古典的な背景から、西洋の彫像のようなジェルミの今も昔も通じる普遍的な美しさが強調されていた。

終わりに

とにかく心理描写が巧みでした。
本当に萩尾望都は天才なのだと思います。
心を病んでしまったジェルミの頭の中を色んな描写を使いながら描くことでジェルミの心情に肉薄できる。
多くの人に読んでもらいたい一作でした。

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