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「青い海」と呼ばれた町
親不知という場所を知っている人は多いと思う。
「ドライブ・マイ・カー」の舞台となったことで有名な場所だ。というのは半分嘘で、そこは北アルプスの北端が標高差数千メートルを一気に日本海に向かって転がり落ちる地形になっており、かつて「天下の険」と言われるほどの難所であった。
今でもその断崖絶壁は当然ながら健在であるが、文明というのは恐ろしいもので、歩く土地がないならトンネルを掘り、橋を架ければよいということで今では一種の海上要塞を彷彿とさせるような光景が広がっている。
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では、親不知が属する市町村は何か。答えは「糸魚川市」だ。ただし、それは2005年以降の話。それまで、親不知は「青海町」と呼ばれる町に属していた。それが近隣の市町村と合併して、新生「糸魚川市」が誕生したのだった。
旧青海町は、糸魚川中心街の西側から富山との県境まで横に伸びる自治体だった。
町名の由来は、その名の通り海が青いからである。
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青海の海は本当に青い。まるで珊瑚礁が広がっているような錯覚さえある。
その理由は、町の南部にある「黒姫山」だ。この山は石灰岩を主成分とする山であり、麓には今でも現役のセメント工場がある。
この地に雨が降ると、この石灰成分=カルシウムが川を経由して海に流れ出す。海が青く見えているのは、この溶け出したカルシウムの輝きなのだ。
つまり、「青い海」というのは何か情緒的に訴えているものでもなく、また古来のエピソードがあるわけでもなく、純粋な化学的な現象から生み出された地名なのだ。
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ここまでの話は冒頭部を除き全て宿の主人が話してくれたことである。信憑性は分からない。