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沈む寺・キンモクセイ盗賊団の池 / 毎週ショートショートnote

「沈む寺を返してもらう」
金木犀の香りがするカードに父は首を傾げた。心当たりは無いが盗賊が来るかもしれない。
自慢の美しい娘にしっかりと鍵をかけるよう伝えた夜。
娘は金木犀の香りで目を覚ました。
盗賊が娘の部屋の風景画を外し月明かりに照らすと風景画の下から寺の絵が浮かび上がった。彼らは絵を持って静かに窓から出て行く。その横顔は穏やかで美しかった。
盗賊に一目惚れした娘が後をつけると白い人影は小さな寺の横の黄金色の池に次々と入って行く。
その度に寺は少しづつ沈んでいく。
「待って。」
娘の美しい声を聞き父が駆けつけ抱きしめた。
「良かった。娘まで盗られなくて。」
ーお前達の先祖が盗んだ絵は返してもらった。七代続いた男が産まれぬ恨みもここまでとしよう。
妻の家が昔から女系だったのは恨まれていたからだったのか。
寺はすっかり沈んでしまった。
父の腕の中で立派な髭を生やした厳つい男が顔をあげた。
「パパ」
野太い声だった。

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#沈む寺
#キンモクセイ盗賊団の池




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箔玖恵
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