初めての鬼 / 毎週ショートショートnote
ふわり、ふわりと虫網が揺れる。
「手伝おうか?」
「ママはダメ。座ってて!」
自分よりかなり長い虫網を持って右に左に走り回る姿をベンチから眺める。少し涼しくなってきたとは言え颯太は汗びっしょりだ。
「戻ってきてお茶ー」
飲みなさい、と言いかけたが颯太の大きな声にかき消される。
「とったぁ!」
嬉しそうに走ってきた。
「赤ちゃんに見せるの。」
「え?」
「僕、お兄ちゃんになるんでしょ。パパが教えてくれたんだ。ママのお腹がもっと太ったら赤ちゃんが出てくるかもって。」
虫網ごと大きな蜻蛉を私のお腹に向ける。
「オニヤンマだよ。」
少し前まで赤ちゃんだったのに。お兄ちゃんぶっちゃって。
「…もう逃していい?」
「虫籠に入れないの?」
「…大きくて、怖い。赤ちゃんには内緒だよ。」
手を離すとオニヤンマは高く飛んでいった。
「そろそろ帰ろっか。」
手を繋ぎながら家にいる夫の事を考える。
最近ちょっと太り気味なのはお互い様なのに。
ー私は今日、鬼になる。
『本作品はamazonkindleで出版される410字
の毎週ショートショート〜一周年記念〜 へ掲載
される事についてたらはかにさんと合意済です」
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